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    自分にしか見えないお友達の猗窩煉
    ■少年煉獄と鬼の猗窩座

    イマジナリーフレンドの猗窩座っていう素敵な夢を見せて頂いたので。

    #猗窩煉

    おやすみなさい、と母の優しい声がして肩まで柔らかいブランケットが掛けられる。目蓋が重くなって、睫毛越しに映る母の姿が霞んでいく。自分の耳に届いた最後の音は、ゆっくりと吐いた自分の息と静かに閉じられたドアの音だった。後は夢の中の世界だ、と思って眠りに落ちたつもりだった。

    「杏寿郎。」
     凛とした鐘が響くような母の声でも、背筋が正されるような荘厳な父の声でもない、家族ではない"鬼"の声で目が覚める。親戚や近所の人たちが膨らんだ母の腹に話しかけるような調子の、声音が高く、機嫌を取るような声だ。ご機嫌取りのつもりかもしれないが、寝入り端を邪魔されたのだ、「誰にでも笑顔で挨拶を」という両親の教えも今ばかりは従えない。ごめんなさい、と離れた寝室に居るはずの二人に謝罪しながら、きつく目を瞑った。
    「杏寿郎は寝ています。」
    「起きてるじゃないか。」
    「寝ているんだ!」
    「そうか。」
     鬼が俺の目の前に現れるようになったのは、何時だっただろうか。つい最近、初めて会ったような気もするし、もっと前から一緒に居たような気もする。眠れない夜に気が付いたらベッドの近くに立っていたり、窓の外で月を見ていたりすることが多い。確か、一番最初に出会ったのは初めて一人っきりで留守番をした時だったと思う。心細いと思う暇もないくらい、たくさん話しをした気がする。この鬼は、喋ることが好きなようだった。質問するとなんでも答えてくれるし、話しかけなくても、好き勝手喋りかけてくる。
     話し相手が俺だけでは物足りないだろうと思うが、家族の目がある時には出てこない。ふと、一人になった瞬間に、音もなく突然目の前に現われるのだった。俺の全てを見ているようで、日中あった事もぴたりと言い当てるので、目に見えないだけで何処かに隠れて見られているのかもしれない。不思議な奴だった。

     目を瞑ったまま、寝たふりを続けているとベッドが少しだけ揺れた。鬼が腰掛けに使ったのだろう。揺れの中心は足元にあり、少しだけ離れた場所に座った事が伝わって来た。
    「一人寝はどうだ?もう慣れたか、兄上。」
    「……。」
    「お兄ちゃんだったか?」
    「俺は、兄上でも、お兄ちゃんでもない。」
     ─母の体の中に、弟が居る。杏寿郎は今日から兄になるんだぞ。と俺に言い聞かせるように話す父の姿が、きつく瞑った目蓋の裏側に蘇ってきた。嬉しくて堪らないといった表情だった、普段よりも少し声が高くて、肩に置かれた手が力強かったのをよく覚えている。杏寿郎は、俺は、兄になるらしい。父のあんなに嬉しそうな顔を見たのは久しぶりのように思った、母も笑っていた気がする。俺が、兄になるという事に驚いてしまって、その日にあった事はあまり覚えていない。
    「杏寿郎。」
    「なんだ!寝ているって言っているのに!」
    「眠れないんだろう、違うか?」
    「…そんなことない。」
     鬼が、静かな声で語り掛けてくる。またベッドが少しだけ揺れて、沈んだ箇所が足元から体の横へと移ってきた。目を開けると、常夜灯だけの薄暗い部屋だというのに、浮かび上がるように黄色い二つの瞳が俺の事を見下ろしているのがくっきりと見えた。ぼんやりと明かりを灯すオレンジ色のライトよりも、明るく煌めいていて、月のような目だ。
     この目は俺の事は何でもお見通しなようで、兄になると言われたその日から一人の部屋で眠る練習を始めることも知っていた。母と父に挟まれて眠る時は、寝入りの瞬間が記憶にないくらいだったのに、一人になった途端にこうして夢を見るまで時間がかかることも知っているのだ。

    「杏寿郎、お前も鬼にならないか?」
    「どうして。」
    「鬼になれば、眠らなくてもいい。」
    「君は、眠らないのか?」
    「そうだ。」
    「だから俺のおやすみを邪魔するのか。」
    「鬼になれば、お前はお前のままでいられる。兄になんてならなくていい、ずうっと、永遠に杏寿郎のままだ。」
     どうだ?と問いかける鬼の目がまた月のように輝いた。鬼ごっこに誘うように、何てことはない事ののように告げられた提案に少しだけ気持ちが揺らぐ。夜に眠らなくてもいいのは、なんだか楽しいことのような気もするし、永遠というのはとっても長い間、ずーっとという事だ。ずっと、兄ではなくて、俺は俺のままでいいのか、と鬼の言葉を頭の中で繰り返す。

    「鬼になれ、杏寿郎。」
     すっかり寝たふりを忘れた俺に、鬼が手を伸ばす。さっき母が撫でてくれた額へ向かって、暗闇に溶けるような藍色の指先が近付いてきた。枕に預けた頭に汗が浮かんで熱くなる、首元がぞわりと鳥肌立って、なんとなく、その手に触れられることは悪いことのような気がして、慌てて首を振った。
    「ならない。…俺は、鬼にはならない。」
    「なぜだ。鬼になれば眠れない夜を悩まずにすむ、勝手に何かに変えられることもない。それに、鬼は病に侵されない、お前の母のように体が弱る事もない、永遠に。」
     鬼は、母が身重であることも、それから病気を患っていることも知っていた。俺の知っていることは全て知っているのかもしれない、もしかしたら、俺の知らないことまで全部、知っているんだろうか。
     一度沸騰したように熱くなった頭から、熱がなかなか引かずに悪夢でも見ているように額に汗が浮かんでくる。食い下がる鬼の言葉が、とても良いもののように聞こえて、ベッドにそのまま沈み込んでいくような、夢と現実の境が曖昧になるようなふわふわとした心地になる。
     病知らずで、眠らなくてもいい、夜は怖くなくなるし、母も一緒に鬼になったら苦しい思いもしなくて済むかもしれない。母は母のまま、俺も俺のまま、ずーっと長い、永遠が手に入ると言っているんだろう。悪いことが全て無くなる気さえしてくる。
    「俺は、鬼にはならない。」
     瞬きをすると、上の目蓋と下の目蓋が触れ合うのが分かるほど、体が熱くなっている。燃えているようだ、体の中で炎が走って、全身が「人で在れ」と吠えている気がする。鬼になってはいけないと、頭の中で声がする。
    「お母さんの病気も、これから会う弟も、兄になるっていうことも、全部…全部、俺のものだから。」
     強さに溺れてはいけない、責務を果たせ、と頭の中の声が繰り返す。責務を果たせ、責務を、難しい言葉だった。鬼になってはいけない、というのは本能で理解が出来た。この声はいったい、どこから響いてくるのだろう。何度も鬼と話したが、こんな不思議な経験をしたのは初めてだった。鬼になれ、と誘われたこともなかった。

    「鬼になれば、人が寝ている間も剣技を高められるというのに。強くなりたくないのか。」
     頑なに首を振り続ける俺に、鬼が再び問い掛ける。伸ばされたままの手の平が、汗に濡れた生え際に触れた。藍色の指先は、冷え切ったように冷たかった。こんなに冷たい体で、長い夜を一人で過ごしているのかと想像すると、鬼の言葉がひどく寂しく感じられた。
    「君、夜に一人ぼっちで、さみしいのか。」
    「なんだって?」
     夜に浮かぶ二つの目が真ん丸に開かれる。冷たい指先が離れて、手が引っ込んでいく、この手を離すともう二度と会えない気がした。ブランケットから両手出して、鬼の手首を掴まえる。やっぱり体温が感じられない程、どこもかしこもひやりとしている。一人で寝るとき、足の先が冷たいとなかなか上手く眠れないことを思い出した、寂しい気持ちが大きくなって、一人ぼっちな気がするんだ。母の体もよくならず、父もふさぎ込んで、自分のことを誰も見てくれないんじゃないかって、良くない事ばかり想像してしまう。これから出会う、弟のことを可愛がれないんじゃないかと、考えても仕方のない事ばかり頭の中を駆け巡ってしまう。全部、一人ぼっちの夜の寒さのせいだった。

    「鬼じゃなくて、友達だったらなってもいいぞ。」
     ひんやりと冷たい鬼に、俺の熱が伝わっていく。燃え上って体を駆け巡ったあの炎が、手の平から移っていく。
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