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    図書室デートをしている猗窩煉

    ■女子高生同士

    #猗窩煉

     放課後の図書室。
     終礼のチャイムが響いたら、二人揃って同じ教室を後にする。図書室までの一階と数百メートルの距離を彼女の手を取って歩むのが、在学中で最も繰り返したデートコース。

    **

     三回巡らせた季節。四季の移ろいでデートコースの景観は随分と違って見えた。陽が長くなったとか、窓を開け放って流れ込んでくる風が気持ちいとか、夏を前に制汗剤の香りがするとか、冬の廊下は外よりも寒いだとか。特別な場所に行くわけではない、それなのに、私たちにとっては立派なデートだった。

     夕陽が差し込む図書室に通うのは、私たちだけではない。二、三年生の姿が多く、それぞれに自主学習へ耽ったり、本の世界に没頭したり、居眠りをしたりして自由に過ごしている。図書室は常に開かれていて、拒むことなく全ての生徒を受け入れてくれている。

     彼女は、家で待つ家族に図書室通いの事を、付き合っている彼女と蜜月を過ごしている。などとは言えず「受験勉強」という四文字で断りを得ていた。
     私はというと、世話になっている施設が門限さえ守りれば後は自由に過ごして構わないという放任主義だったので、完全下校の19時を知らせる鐘が鳴るまでが、二人で過ごす時間だった。



    「ここに、大きい火傷のような痕があるんだ。」
    「火傷?」
    「焼けてはないんだ、火傷みたいな痕。」

     人生でこれまで火事に見舞われたことはない。事故で火の粉を被った事も、火遊びに興じたこともない。それでも鳩尾に焼け爛れたような痕があると続ける彼女は、ずっと制服の上から鳩尾に手の平を当てて撫でていた。

    「見たい?」
    「別に。」

     18時を前にしても、差し込む陽光はまだ明るかった。真っ赤に燃える夕陽が射していたときと同じ、いつもの机に並んで座っているのに、時季が変わると見える景色が違って見える。それは、彼女の横顔も同じことだった。
     傷が在るといった個所を撫でたまま、居眠りをした授業のノートを見せてくれるような、買ったばかりのお気に入りの文房具を見せてくれるような、おろしたばかりの下着を見せるような、不思議な声色で、彼女は尋ねている。

    「私は、見て欲しい。」
    「……そうか。」

     夏服の、少しだけ裾の短い制服。するりと手の平を差し込んで捲り上げる所作に、いけない想像を重ねてしまう。インナーをスカートから引っ張って、日焼けをしていない腹が覗く。臍の上にスカートのホックが重なっていて、つるりとした印象が深まっていた。
     緊張しているのか、焦れったいくらいの速度で捲り上げられる裾を黙って見詰める。呼吸に合わせて動く腹の上に、確かに赤く爛れたような箇所があった。
     初夏の少しだけ橙色の混じった斜陽が、なだらかな腹の上の、滑らかでない痕を照らしている。熱を孕んだままの陽光が、同じように私の顔にも差していて、沸騰したように顔が熱くなる。

     夕陽以上に熱の籠った顔と違って、血の気が引いたように冷たい指先同士を触れ合わせる。「ありがとう。」と息の方が多いくらいの声で伝えると、同じ言葉が返って来た。

     隠していた秘密を見せてくれてありがとう。秘密を見せるくらいに信じてくれてありがとう。信じられるくらい一緒に過ごしてくれてありがとう。一緒に過ごす相手に私を選んでくれてありがとう。この学校に入学してくれて、18年間を生きてくれて、やっぱり、私の恋人になってくれたことに、ありがとう。

     初夏の風に吹かれながら、心の中で世界の全てに感謝した。
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