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    天野叢雲

    @onitakemusya
    だいたい出来心

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    天野叢雲

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    攻め視点で振り返る1〜2話目。

    #魔獣の花嫁
    brideOfTheHexenbiest
    #創作BL
    creationOfBl

    魔獣の花嫁 #6「面影と眼差し(中編)」 その夜は満月が明るく、夜だというのに影が出来るほどだった。だからこそ、その影は夜の闇と相まって一層暗く見える。案外、そんな明るい夜の方が警戒すべきなのかもしれない。





     商人バルトが一般の冒険者も多数雇ったので、ほっといてもこの屋敷は常に冒険者たちが警戒に当たっている。おかげで俺は自分に都合の良い時間だけ働けば良い。昼の間に森の調査に出てみたのだが、やけに静かな事以外今の所はおかしな点はなかった。意外と道も整備されていたので警護に問題が無いようなら次はあの道の先を確認しに行っても良いだろう。しかし着任から数日は依頼主に仕事をしている所を見せなくては不味かろう。そんな訳で仮眠を取って現在屋敷内の巡回をしている所だ。

     客室の並ぶ廊下を一人歩く。夜間の巡回ならば明かりを持って回るべきなのだろうが、今夜は明るかった事と持った明かりで片手が塞がるのが嫌で今はランタンの類を所持していない。それでも窓際のこの廊下は先まで見通す事は出来た。

    「!」

     ふと、窓の外を影が横切ったように感じられて振り向く。外を見るが庭は普段と変わらないように見えた。気のせいなら良いが、早速侵入者が来たという可能性もある。

     バルトの話では二年前から商売敵が難癖を付けてやれ情報だなんだと盗みに来るようになり、最近では横取りやなんやと命まで狙われるようになったとの事。二ヶ月後に問題の商人と正式な契約を交わすのでそれまで屋敷ごと警備するというのが今回の依頼だ。まぁ、バルト自身良い噂を聞かない商人だ。命を狙われるのは自業自得とも言える。

     そうやって窓の外に気を取られていたからなのか、不覚にも俺はその男の接近に気が付かなかった。漸くその事に気が付いた時には完全に背後を取られていたのだ。

     振り返り側に詰め寄られて壁に追いやられる。

    「! 貴様は…」

     俺より少し低い位置の黒い瞳がこちらを見た。そして闇夜に溶け込みそうな黒髪が目に入る。知っている。俺はこの冒険者が誰なのかを知っている。だというのに、月明かりに落ちる闇が彼の細かな外見を隠したせいで、目の前にいるのが一瞬愛する父ではないかと錯覚した。身長さえその人とは違うはずなのに。

    (…父さん……?)

     次の瞬間には、唇を奪われていた。

     直ぐに動けなかったのは、驚いたからだけじゃない。唇の感触と共に訪れる喜び。ずっとその人とこうするのが夢だったからだ。俺の腕を掴む力強さから、どれだけ俺を求めてくれているのかが伝わってくる。その事実が俺を酷く満ち足りた気持ちにしてくれた。

     けれど、次にやって来た感情は怒りだった。

     だってそうだろう。今、俺にキスしてくれているのは父ではない。なんでお前なんだと思った。俺がキスを求めていたのはたった一人だ。お前じゃあない。なのに。

     苛立ちのままに鳩尾に拳をめり込ませる。すると俺に無礼を働いた男はガクリと膝立ちになった。息もし辛いのだろう。胸を抑えながら不規則に肩を揺らしている。だがこの程度で俺の怒りが収まるものか。

     剣をスルリと鞘から抜いて男の眉間に突きつけた。

    「どういうつもりだ? 貴様、殺されたいのか」

     なんで貴様なんだ。クロノ。よりにも寄って俺の大切な人に似た雰囲気で俺に触れるな。腹ただしい。一瞬でも父さんとキスしている気分になってしまったのが悔しくてならない。クロノ…お前でさえなければ、唇を奪われるよりも先に斬り込んでやれたものを…。

     この事実をこの男の存在ごと抹消してしまいたい気持ちでいっぱいになるが、クロノが妙な目配せをして来た。俺に殺されそうで命乞いするでも言い訳しようと目線を泳がせているでもなく、それは何かを伝えようとしている。

     俺だって気配が読めない訳では無い。随分近い所にもう一人の息遣いがあるのが分かった。このふざけた男はそれを俺に知らせようとしているのだろう。察知の速さも父さん並みなのか。それすら腹が立つ。

    「壊し屋クロノ。今回は一応同じ仕事を請け負った同業者として斬らずに様子を見たが、その必要も無かったようだ。目障りだ。死ね」

     半分は本音だが、俺が動けば敵も俺の動く音に自分の音を紛れ込ませて動き出すだろうと思って口上を述べる。すると案の定侵入者は俺の背中から斬りかかって来た。そこを足を組み替えて斬りに行く。

     気が付くのが遅かったな、三品が。踏み込んだその体勢では俺の剣は避けきれん。

     ズバリと肉を斬った感触が手に残る。腹を狙ったので時期こいつは死ぬだろう。俺に刃を向けて生きて帰れると思うな。

    「お見事」

     血振りをして見やればクロノがヘラリと笑う。こんな表情は父とは似ても似つかない。表情を含めた外見ではやはり父さんとの類似点は微塵もない。強いて上げるなら壮年という年齢くらいだが、それだってクロノの方が若いのだ。おそらくこの男の年齢は俺を拾った頃の父さんくらいだろう。だというのに、何故時折父を思わせる雰囲気を纏うのか、理解に苦しむ。

     納得いかないついでに言えばこの男。侵入者に気が付いたのは俺に不埒な真似をする前だと言う。レンジャーという職業柄にしても鼻が利きすぎるだろう。まるで犬じゃないか。

     しかし残念ながら納得がいかない事は次々と起こってしまった。クロノが手の内からスルリと細い棒を取り出したのだ。伸縮する仕組みにしては棒に継ぎ目が無い。しかもその棒っきれで戦うと言わんばかりに構え出したから訳がわからない。

    「魔法の杖か?」
    「いや、杖〈じょう〉だな。打撃武器。魔法も使えたら良かったんだけど」
    「…………………」

     魔術師なら百歩譲って理解も出来たが、完全否定されてしまった。しかしただ棒を伸ばせるだけでは強いとは言えない。ウォーリアーと戦えるような秘密がその棒にはあるというのだろうか? 今の所このクロノという冒険者は犬並みに鼻が効く手品師なのだが、これ以上の事を知るには実際に戦っている所を見るしかない。お誂え向きにもう一人侵入者が紛れ込んでいるようなので高みの見物を決め込む事にした。



     そして見物をした結果だが、結論を言ってしまえば確かにこの冒険者は強かった。

     体躯に見合わぬ能力だった。速さ自体はやや俺に劣るが、腕力だけなら向こうが上。反応速度に至っては獣並みだ。そして棒の強度も明らかにおかしい。石タイルを引いた床を捲れ上がらせるほど敵を殴り付けて折れる素振りも無い。あの細さなら鉄だろうと曲がるだろうに、木目の見えるそれはしなりすらしなかった。全てが見た目にそぐわないのだ。何か変わった力が働いているとしか説明のしようがない。

     “魔法ではない何か”

     おそらくクロノの強さの秘密はそこにあるのだろう。問題なのはそれが魔獣に通用するものなのかという事だ。出来ればこの男とは関わりたくなかったが、これはそうも言ってられそうにない。ではどうやってこいつからその情報を吐き出させたものか。考えを巡らす。

     そんな中で色仕掛けという案が出たが即時却下した。確かにいきなりキスするような変態だ。一定の効果は期待出来るだろう。それこそベッドにでも誘い出して喋らせた挙句、無防備なクロノを踏んじばれば良い。必要が有れば出来なくはない。が、しかしそれは無しだ。理由は勿論、腹が立つから。このクロノという男にだけはこの手は使いたくない。

     そうこう考えていると背後で動く気配を感じる。不味いと思い咄嗟に避けたが、敵のナイフが腹を掠めた。擦り傷がピリピリと痛む。斬り伏せた敵がまだ死んでいなかったのだ。痛みから来る苛立ち任せに反撃してやろうと思ったが、悔しいかな賊はそのまま死にやがった。

     普段ならこんなミスしないのに、何故今日に限ってこうも不覚を取るのか。全くもって腹ただしい。それもこれも全てクロノが悪い。イライラの矛先が奴に行く。あいつが紛らわしい雰囲気を出したりしなければ、こんな事にはならなかったのだ。そう思ってクロノを睨む。所が、当の奴の様子が明らかにおかしい事に気が付いた。

     顔色が悪い。片手で胸を抑えながら、冷や汗をかいている。病気の類? いや、それにしても何かがおかしい。服の奥から黒い模様のようなものがまるで蔦でも伸ばすかのように、徐々に肌に浮き上がって来ているのが見えた。魔法にしては異質だ。それくらい俺にもわかる。だが、これは何が起こっている?

     するとクロノは絞り出すように声を出した。

    「シェ…ゾ………に、げろ。殺しち……ま、ぅ…」
    「…クロノ。今度はどうし…」


    『グオオオオオ!』


     クロノから地鳴りのような雄叫びが上がった。体に浮き出ていたあの模様は既に顔にまで達し、目の色にさえ浸食している。だというのに、黒かった瞳だけが赤みを帯びて光っている。異質なんてものじゃない。これは異様だ。人をこんな風に変貌させる魔法なんて俺は知らない。


     そこから先、俺の目の前で繰り広げられたのはただの破壊行為だ。人も物も関係ない。怒りをぶつける為だけに壊そうとしている。

     “壊し屋クロノ” 俺はここでこの通り名の意味を理解する。この名には普段の奴の事など含まれてはいないのだ。こうして変貌して暴れる様だけが壊し屋クロノを指している。黒い髪に黒い模様。そしておおよそ知性とは無縁の力任せな動き。まるで一頭の黒い獣がそこにいるようだった。


     では、クロノ自身はどこへ行った? そんな疑問が頭に浮かぶ。


     確かにクロノは変貌しきる直前に俺に逃げろと言った。ではこの破壊行為はクロノの意思ではないのではないか。

     “魔法では無い何かによる狂戦士化状態”

     クロノの扱う力が禁忌の類いならばそう考える方が自然だ。奴の言葉が正しければ、魔法に頼らない常人には出せない力という事になる。そんな物をなんの代償も無しに使えるとは思えない。
     力を得る代わりにその力に振り回されているとするならば、今の有様も辻褄が合うのだ。

     しかし、ウォーリアーを打ち負かす程の力。成程今のクロノならそれも可能なのだろう。であれば、それを俺が手に入れたら一体どれ程の力になるのか。
     禁忌くらい跳ね除けずして父を越えられる等とは思っていない。今のクロノに負けるようではきっと俺は魔獣には敵わないだろう。

     剣の柄を握り直す。そして切っ先をその背中へと向けた。

    「止めろ…クロノ。それはもう、とっくに死んでいる」

     獣と化したクロノがゆっくりとこちらを振り返る。返り血の付いたその顔からはいまいち表情が読めなかった。

     クロノの動きはさっき見た。手加減してどうにかなるような相手じゃない。だが、スピードで押せば勝てない訳じゃない。

     トッと床を蹴って駆けた。剣の間合い二つ分の距離でも俺なら一気に詰められる。勢いのまま横薙ぎに一太刀。しかし流石は獣。下がって避けられるが、こっちだってそのくらい読んでいる。止まらず体を捻ってもう一撃。
     ニ、三、四、五と連撃を繋げる。それでもギリギリかわして行く。しかし、奴の重心が僅かにズレたのを見逃さなかった。

     思いっきり踏み込んで剣を振り上げ、両手持ちに構える。渾身の大上段からの一撃。狙うは脳天、そしてその先。

     確かにクロノは避けられない。しかし奴は腕でこちらの小手を払う。俺の全力を逸らすのではなく、力で無理やり払われたのだ。くそっ、馬鹿力め。腕ごと痺れて剣が宙を舞った。

     剣が無ければ剣士は戦えない。

     ふざけるな。そんな訳あるか。腕が痺れようとまだ足がある。
     振り叩かれた力を利用して体を回転させ、回し蹴りを見舞ってやった。

     だが見誤ったのは奴の頑丈さだ。空かさず突進で押し倒された。悔しいが、背が地に着いた俺に勝機はない。もがこうとしたが、太腿に乗られ、腕をも抑え付けられては逃げようがなかった。重さに釣り合わない力をしやがって。このゴリラが。

     悔し紛れに睨んでみたが、この野郎そんな事はどうでも良いとばかりに無視しやがった。そしてさっきナイフが掠った傷に顔を近付ける。そこでこの男が男相手に不埒な真似をする下衆だったと思い出した。このまま襲われるのか。だとすればこれ程の屈辱はない。


     ──ペチャリ──


     奴の舌がナメクジのように這って傷口を舐める。わざわざ傷をなぶるとはいい趣味だなと内心悪態をついてみたが、おかしな事にクロノはそこ以外に触れようとはして来ない。何かが妙だと思っていると奴はとうとう舐めるもの止めた。

    (…え?………)

     一瞬、信じられなかった。

     クロノの肌には相変わらずあの黒い模様がある。だと言うのに、心配そうに俺の顔を覗き込んで来たその表情が……昔、初めて父さんに助けてもらった時の表情と一緒だったから。

    『大丈夫か?』

     あの日の父さんの声が思い出される。そうだ。あの時、父さんはボロボロの俺の顔を覗き込んでそう言った。そして俺の意識が有るとわかると、優しく、けれど力強く抱きしめてくれた。まるで、もう離さないと言わんばかりにその腕で包んでくれたんだ。

     思い出と同じようにクロノは俺を抱きしめる。

     意味がわからなかった。だって、お前は父さんじゃない。それにキレて暴れてたはずじゃないか。なんで、そんな風に俺を抱くんだ。なんでお前が俺を気にかける? おかしいだろ。だって、お前が暴れ出したタイミングだって、それじゃあまるで…

    「……まさか、俺を心配して暴れてたのか…?」

     そうとしか言いようがない。どうしてクロノが俺の負傷に腹を立てるんだ。お前は父さんじゃないのに…。そんな姿になってまで、それでも父さんに似てるなんて反則だ。どこまで俺に淋しい想いをさせるつもりなんだ。本当に酷いだろう。こんな酷い奴なのに、それでもその体温が心地良いなんて、俺もどうかしている。なんでお前なんだ。クロノ。

     一度閉じた瞼を開ける。そうした所で、やはり俺を抱きしめているのはクロノだった。どうしてこうなったのだろう。そんな気持ちで首を動かせば、奴の腕が目に入る。

    「!」

     腕の模様が薄くなっている事に気が付いた。この模様が消えれば暴れる前のクロノに戻るのだろうか? 今でも十分暴れる素振りは無いが、この機になんとか状況を逆転出来ないものかと考えた。
     打ち合ってみて感じたが、正直暴れているこいつをどうこうするのは割に合わないくらいにクロノは強い。重要なのはこいつを負かす事ではなく、その力を手に入れて俺が強くなる事だ。その上でクロノを屈服させればいい。こいつが誰に似ているというのは置いておいて、やはりやられっぱなしなのはどうにも腹が立つ。よって最終的にはボコるのは確定事項にしても、物事には順番が大事なのだ。今の内にこいつを押さえ込めたら、後は煮るなり焼くなに出来るのではないか。そう考えた。

     こいつの腕の中から抜け出そうとしているとクロノの言葉が耳に届く。その言葉の中に聞き流す事など到底出来ない音が混じった。

    「まっ…て、くれ………。も、少し…だけ………完全に…魔獣が、落ち着くまで………」
    「!」
    「……このまま、で…いさせてくれ………」

     今、この男は確かに “魔獣” と言った。俺から大切な人を奪った魔獣と。

     頭の中で点と点が繋がって、度し難い解答を弾き出す。このクロノという男の常人離れした力は、魔獣に起因する力なのか。成程、確かにそれなら強いわけだ。皆と父さんを殺せる力なのだから。そして、それを人の身で扱うには代償がデカいのも当然の事だ。力に振り回されて獣のようになるのも頷ける。

     そうか、そうかと色々と腑に落ちる。そしてその度に怒りと憎しみが沸く。

     力の緩んだクロノと自分の間に足を割り込ませて靴底を奴の胸の下に当てがう。そして思いっきり蹴り上げてやれば俺と大差ない体重の男は後方に吹っ飛ばされるだろう。情けなく床に落ちて、無様に咳をしているのが聞こえる。鳩尾を蹴り込んだのだからそうなるだろうな。ついでに言えば、暫く膝にも力が入らないだろう。その間に俺は立ち上がり、飛ばされた自分の剣を拾い上げた。

     正直に言ってしまえば、魔獣に対してはそこまで恨んではいなかった。騎士たるもの、己の力及ばず命を落とすのは仕方の無い事だからだ。未熟な自分を責める事はすれど他者を恨むのは筋違いというもの。誓いの為戦う事は騎士の勤め。誓いを違える事を恥とせよと父は俺に教えたのだ。だから愛する父を奪った魔獣を倒そうとは思ど、八つ裂きにしようなどとは思ってなかった。

     しかし、だ。父を殺した魔獣と関わりのある男が、その父のように俺に触れるというのはあまりにも…あまりにも俺の気持ちを踏み躙る行為だと思うのだがどうだろうか? 俺は本気であの人を愛していたのに。これがその魔獣の指示だとするなら、俺は魔獣に対する認識を改める必要がある。

     剣をクロノに突き付けた。

    「…何故、貴様の口から魔獣などという言葉が出てくる…? 言え! 貴様の知っている全てを。場合によっては、ここで貴様を…殺してやる……ッ」

     許せなかった。初めて父と会った時に見たのと同じ表情をしたクロノが。それは、俺の中の何より大切な思い出だったのに…。

     俺は魔獣に、その思い出を汚されたような気がした。

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    天野叢雲

    TRAININGそういえば小説も上げられるんだなぁと思ったので、お試し的に創作BL載せてみる。続きは気が向いたら上げます。
    魔獣の花嫁 #1「ウソだと言ってくれ」 なんでそいつだったのだろうと思う。せめて可愛いとまでも行かなくても、女性でも良かっただろうに。何故同性の男で、よりにもよってこんな面倒臭そうなのが俺が探し求めていた相手だったのか。もし神様がいるなら胸ぐらを掴みたい。

     本当にあんまりだと思う。俺がここに辿り着くまでどんな目に遭ったか。少し語らせて欲しい。










     事の始まりはあの日、散々勤務が続いてからの帰り道だ。あの時俺は確か……六、いや。違うな。佐藤が熱で出られないってんで肩代わりしたから、計九連勤してたんだ。九連勤を終えての帰り道。
     あ。因みに警備員なんてものをやってたんで、俺の言う連勤は連続数=日数には当てはまらない。警備の仕事には日勤と夜勤と、それから二十四時間勤務の当務なんてものもある訳なので、日勤→夜勤→当務なんて続いたりしたら、二日間で三連勤する事が可能だからだ。完全に労基違反も良い所なのだが、業法上制服着たら即勤務という訳にはいかず、そして残念な事にうちの会社は人手不足だったのだ。
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    天野叢雲

    TRAINING興が乗ったので2話目。状況はちっとも好転しないね。今の所カプ要素ほぼ無いですが、一応は花嫁×獣憑きです。美形×平凡で年下攻めのおっさん受け。まぁ、このおっさんまだ40手前の見た目ですがね。
    魔獣の花嫁 #2「壊し屋と剣士」 魔獣が人間に恋をする。おとぎ話ならありそうな話ではある。しかしそういう話ってのは、大体が悲恋で終わるものだ。

     昔、一目惚れとは遺伝子が適正の相手を見付けたシグナルだとかそういった説を耳にした事があるが、この場合はそれの真逆に当たる。そもそも異種間では寿命が違うのだから添い遂げることが出来ない。必ずどちらかが先に死ぬし、生物として子孫を残せない。いや、ファンタジーならハーフ種として確立する場合もあるが、この異世界ではどれほどが可能なのだろうか。少なくとも男同士では無理だろう。でなければ性別が男女に分かれている意味がない。

     おそらくだがこの老衰した魔獣は、大昔に人間に恋をした。そこまでは良い。長い長い年月を経て、今生きているのはその魔獣に好かれた人間の末裔だろう。若しくは、偶然にも物凄〜く似ているだけ。当人はきっと骨すら残って無いだろう。で、問題はここからだ。魔獣の性別が雌雄どちらだったか俺は知らん。俺の男としての機能が今までなんの問題も無かったからてっきりオスだと思っていたが、まぁそれは置いておこう。兎に角コイツは男であり人間である俺に取り憑いた。そして、この魔獣が今この世界で再会を果たした想い人のそっくりさんだか末裔だかも男だった。
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