時計が1時を指している。暁人を起こさないようにと気遣いつつ玄関を閉め、リビングに通じるドアを開ける。
電気が点いたままのリビングでは毛布に包まった暁人がソファの上で静かに寝息を立てている。本当ならこのまま抱きかかえてベッドの上に寝かせてやりたいところだが、下手したら俺のほうが要介護になってしまう。
こんなところで寝てると風邪引くぞ、と肩を叩くと
「おかえり、けーけー」寝ぼけた顔の暁人がむにゃむにゃと抱きついてくる。かわいいやつめ。
このまま美味しく頂いちまおうか…邪な思いが胸を掠めたその瞬間俺の胸に体を預けていた暁人が突然俺の腕をすり抜けこう言った。
「けーけーまた晩ごはん抜いたな」どうも腹の虫が告げ口したらしい。
適当にラーメンでも食うからお前は寝とけ、という俺を無視して暁人はキッチンへ向かう。
冷凍庫から何かを出して温めているようだ。カチャカチャと調理器具がぶつかる音に耳を澄ませる。卵を解く音が聞こえてきた。これはチャーハンだな。
…今なんか物騒な音がしたような気がするが…
「さ、どうぞ。」久方ぶりの温かい食事に感謝し手を合わせる。
「…うまいな」スプーンでチャーハンを解していくと見慣れた謎の塊が出てきた。
「これでチャーハン作るのが流行ってるんだよ」ふと、人の消えた渋谷で一人ラーメンを啜っていた暁人の姿を思い出す。
こうやって2人暖かい食卓を囲めることに感謝をしながら手を合わせた。
「ごちそうさん」