つじたさんとしたいことのうた 早朝4時の修羅場の中、相変わらず終わりが見えない原稿を前に僕は一周回ってハイテンションになっていた。ツジタさんは少し前から別の部屋で眠ってもらっている。なにかやる気が出ることしたいな。でも、なにがいいだろう。あ。そうだ、歌でも歌おうかな。そう思って、好きな歌を歌いまくった。だけど、それも次第に飽きちゃって。
「あ、せっかくだから自分で作っちゃおう。うーん・・・そうだ。つじたさんとしたいことを歌にしよう。つじたさんとしたいことのうた。うた/さくし かみありづきしんじって感じで」
テンションのままにぶつぶつとひとりごとを漏らしながら、頭の中で普段との彼とのやりとりを思い返す。勿論、僕に作詞作曲の才能もなければ、歌の才能もない。むしろ、ドがつくほどの音痴である。だけど、それでもいいのだ。ひとり遊びなのだから。
「つじたさんとーしたいことー。おそとでー、手をつないで歩いてみたいー。だめならーおうちのなかでもーいいのでー」
音階もリズムもあったもんじゃないけれど、るんるんになりながら僕は歌う。
「つじたーさんとーしたいーことー。そうだなー。つじたさんからーキスしてもらえたらー、ぼくはしあわせー。いや、いまもーしあわせだけどー」
なんだかそう口にすると、自然と表情も笑顔になる。ふふ。こうなったら普段は隠してることも歌っちゃおう。せっかくだし。ただの、ひとりごとだしいいでしょう。
「つじたーさんとしたいーこーとー。あとはーええとー・・・たまにー、ホントにたまにでいいのでー、えっちなこともー」
したいです。そう続くはずの歌は、突然途切れた。その時たまたま、僕はくるりと後ろを振り向いたのだ。そして、そこにあってはいけないものを見てしまった。なんと、寝ていたはずのツジタさんが真ん前に立っていたのである。
「ヒョ・・・ア”!? ア——ッ!!」
びっくりしすぎて飛び上がりかけたが、椅子に足をぶつけ悲鳴をあげる。って、そんなことをしてる場合じゃない。聞かれた。今の、聞かれてしまった。あああああ前半2つならまだしも、最後のはダメ。絶対ダメでしょあんなの聞かれたらウワアアアア! 僕はすぐさま床に飛び降りてそのまま地面に頭を擦り付けようと思った。流石に、流石にさっきのは恥ずかしくてそれ以上に申し訳なさすぎる。だが、それよりも先に、手にすこしひんやりとしたものが触れて『ェア!?』と間抜けな声が出た。それはツジタさんの指だった。拙い手つきではあるが、それは僕の指を探るように触れて、そのまま指と指を絡められる。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
「まずは手をつないで、それから・・・」
あっけにとられる僕の目の前に、スッとツジタさんの顔がすぐ近くに現れる。脳内が沸騰したままの僕を知ってか知らずか、そのまま唇を塞がれた。触れるだけの一瞬のキスにますます訳が分からなくなる僕から目を逸らさず、彼はにんまりと笑ってみせる。
「最後のは仕事が終わったら、やってやる」
だからはやく、手を動かせ。クックッと喉を鳴らすその姿はいたずらっぽさもあれば、ひどく妖艶でもあり。僕はすぐさま机の方を向きなおし、無言で仕事に取り掛かった。その後、僕が爆速で仕事を終わらせたのは言うまでもないだろう。