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    甘味。/konpeito

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    本日の800文字チャレンジ
    やさしい贄の育て方/ノマ√クロリン

    お前はあの方の生け贄として産まれたのだ、と両親は心の底から愛おしそうに笑った。
     生け贄。生きたまま神に供える物。なにかの目的のために支払われる犠牲。
     今年で十歳になったばかりのクロウ・アームブラストは、村長宅で特別に読ませてもらった辞書を閉じる。
     クロウの待遇は、生け贄にしては良くもなく、かといって悪くもない。まるで普通の子どものように育てられてきた。着るものには困らないし、三食しっかり与えられ、家も古めかしいくらいで不満はない。過度な体罰もなく、両親はほどほどの愛情を注いでくれている。本当に極々一般的な教育を受けてきた。
    「明日、あの方のところへ連れて行くからね」
     家族が揃った朝食でのことだった。なんでもない調子で放たれた母の言葉に衝撃を受けた。
     曖昧に頷いたクロウをおいて、両親はいつも通りにその日一日を過ごしていた。
    「クロウみたいな、きれいな銀髪の子か、赤目の子が生け贄に選ばれるの。両方揃っているなんて珍しいんだから」
     明るい調子で母が続ける。
    「あの方は、もうずいぶん昔からここに住んでいるそうでね。この村や、近くでなにかあると助けてくれたそうよ。クロウ、あの方はね。生け贄を食べたりしないの」
     今までで一番衝撃を受けた。両親とは今生の別れだと覚悟を決めて家を出てきたクロウの足が止まる。
    「えっ――」
    「食べないわよ。いつも話し相手を申しつけられると聞いたわ。村のみんなが供物を捧げるのだけれど、なにも手をつけてくださらなくて。とても優しくて、寂しがり屋なのだそうよ。だから、精一杯お勤めしてね」
     夕方迎えにくるからと言った母に扉の前で背中を押される。ノックをした向こう側から、空に浮かぶ雲みたいな真っ白い髪の麗人が現れた。
    「また来たの、か……」
     クロウと同じか、それ以上に鮮やかな色をさせた赤い目がみるみるうちに見開かれる。ぽろりと涙が一粒こぼれた。
     漠然と、拭ってやりたいのに手が届かないどうしようもなさで胸がいっぱいになった。
     懐かしい。久しぶりに会えたな、なんて口走ってしまいそうだ。潮の香り、血の匂い、絶望の痛み。知らない感情が小さな身体のなかで幾度も爆発する。
    「ああ! ええとリィン、ブレードやろうぜ!」
     先に硬直から解き放たれたクロウは、ポケットから宝物のカードゲームを取り出した。もう家に帰れないならと忍ばせておいたものだ。
     途端に目の前のきれいな人が膝から崩れ落ち、さめざめと泣きはじめてしまった。なぜ麗人をリィンと呼んでしまったのか、クロウ自身もわからない。
     生け贄初日の仕事は、クロウを視界に入れるたびに泣くリィンと名乗った麗人の背を撫でることだった。
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    甘味。/konpeito

    TRAINING両片思いアシュクル/創エピ第Ⅱ分校修学祭後自らの行いは自らでケリをつけたかった。
     皇帝暗殺の犯人が自分であるにも関わらず、世間ではそれを誤報とされている。この手で引き金を引いた感触が今でも残っているというのに。
    「ったく。めんどくせえ連中に捕まっちまったな」
     無理やり参加させられた打ち上げからひとり抜けたアッシュ・カーバイドは、今日の出来事を振り返っていた。
     学院生活最後の行事だからと妙に熱を入れてしまったのは自覚していた。不在時に決められたとはいえ、実行委員に任命されたからにはやりきりたかった。その結果、まさか出し物への投票だと勘違いしていた選挙箱で生徒会長になってしまうとは思いもしなかったが。
     来月には学院を去り、遊撃士として仕事をしながらせめてもの罪滅ぼしをしようと考えていただけに、完全に予定を狂わされてしまった。
    「アッシュ、ここにいたのか」
    「クルトか。酒もないのに付き合いきれねえ。連れ戻したかったら酒持ってこい」
    「俺たち未成年だろ」
     クルト・ヴァンダールに呆れたような目を向けられ、肩を窄めた。何事にもお堅いこのクラスメイトが未成年の飲酒を容認するはずもない。
     生活態度は至って真面目、剣技は教科書通り、 870

    さらさ

    MOURNING遅刻大魔王によるすったもんだクロリンがバレンタインデーにくっついて分校全体に知られるまで。ポイピク練習も兼ねてる舌先の魅惑


    「え、え~!?クロウくんにチョコレートあげてないの!?」

     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406

    さらさ

    MOURNING「何かあって不機嫌そうなクロリンが戦闘では息ピッタリな話」の続き。やっとくっつきます。
    付き合ってないのに痴話喧嘩は犬も食わない リィンとクロウの不仲騒動から数時間。第五階層の最奥まで回って《円庭》に戻ってきた面々は二人を除いて疲れ切った表情をしていた。余りにも不毛な痴話喧嘩、それでいて付き合っていないというのだから手に負えない。瞬く間にそれは広がり、新旧Ⅶ組は総出で溜息をつき、他の面々も事情を察したように苦笑いをしていた。一部生温かい目で見る者もいたようだが。

    「全く、本当にいいのかい?リィン君だって同じ気持ちを持っているのだろう?」
    「……あいつには悪いが、応えられるほど真っ直ぐじゃねぇんだ」

    テーブルを囲って、かつて試験班だった面々がクロウに詰め寄る。アンゼリカの言葉に彼は首を振った後、真剣に迫ってきたリィンの事を思い出す。構えば構う程、愛情と執着心そして独占欲が生まれ、その度にクロウは己を律してきた。果たしてそれは必要か、と。必要であるならばいくらでも利用できる。だと言うのに彼の場合はどうだ、根も真っ直ぐでたくさんの人から慕われている。そんな彼を利用するだなんて出来ないし、したくもなかった、これはフェイクでも何でもない本音であった。未だに《C》だったころの話も出してネタにするのは正直言ってやめて欲しいのだが。
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