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    マチカネ厄キタルっぽいの。

    天体観測 フェリーの駆動音が凪いだ海を搔き乱して進んでいく。カモメが鳴いて通り過ぎていくのを頭上に感じていると、不意に目の前を突っ切ったので少しばかり肩が浮いた。
    「あっ、野坂さん! 魚が跳ねましたよ、あそこですあそこ!」
     フェンスから身を乗り出して海面を指さす一星くんはいつもと比べて少しはしゃいでいるようだ。危ないよと彼の胸元を腕で抑えながら示されたところを見やると、名前の分からない魚の鱗が光を反射して煌めくのが見えた。
     なんていう魚だろうね、なんて疑問を口にすれば彼は今すぐに調べだすだろう。遠くに見えただけの少ない情報を頼りに手を尽くして答えを探そうとするのを容易に想像できる。それが顔に出ていたのか、一星くんは興味を海面から僕に移し「楽しそうですね」と呟いた。
     考えていることを見透かされている気がして視線を下げると、僕と一星くんの荷物がある。目的地は伊那国島、稲森くんたちの故郷だ。中学最後の夏の思い出をそこで過ごそうと決めて、三泊分の荷物と一星くんを連れ立って船に乗っている。
    「そろそろ着きますね。みんなと会うの楽しみだなぁ、港でサッカーボール持って待ち構えてたりして」
     フェンスに両肘をつき瞳と同じ色をした空を見上げる一星くんの横顔は、言葉が心からのものであると教えてくれる。そんな彼の荷物は足元のボストンバッグひとつに収まらず、背中には膨らんだリュックがぶら下がっている。ずいぶんな大荷物の中身について船着き場に来る前に聞いてみたところ、
    「天体観測を快適に行うための荷物です」
     とのことだった。
     遮蔽物も邪魔な灯りもないため星がとても綺麗に見えるのだと稲森くんたちから聞かされており、四日間のうちのどこかで天体観測をしようという話になるのは自然なことだった。しかし、流石に望遠鏡は持ってこられそうもないのでアウトドア用品店の双眼鏡を代わりとして鞄に詰めてある。
     一星くんが背負っているのは登山用の大きなものであり、もしかすると望遠鏡を持ってきているのかもしれないという馬鹿げた予想に信憑性を持たせるには充分な代物だった。

    🎐🎐

    「フゥー、やっと着きましたね……ちょっと疲れちゃいました」
     苦笑する一星くんの額には玉のような汗がいくつか浮かんでおり、ここまで来る道のりの険しさを嫌でも思い出してしまう。
     荷物を宿泊先の民宿(海腹さんの実家で、厚意により宿泊費をタダにしてもらった)に置かせてもらい、そこで景色の綺麗な場所を聞いたところ教えてもらった場所だった。
     長い坂を上がって、これまた長い階段を登った先にあった神社。参拝客のいない代わりに猫が数匹あくびをしている境内は蝉のおかげで騒がしい。そこから見える景色は、伊那国島に立ち並ぶ低い建物たちと海を見下ろせるといったもの。
     来る前に買ったペットボトルはほとんど残っておらず、もっと買っておけばよかったと内心後悔しつつも、ここに来たのは良かったと思えるくらいには綺麗な景色だ。一星くんも同じ感想を抱いたらしく、スマホで写真を二、三枚撮ってため息を吐いた。
     社務所には巫女服の、おそらくバイトだろう。高校生くらいの女の人が袖口から扇風機の風を吹き込ませながら涼んでいた。御朱印五百円の貼り紙の下にはたくさんの御守りが並べられている。
    「記念に買っていきませんか? 野坂さんと俺とお揃いで」
     スポンサー企業の関係上観光産業に力を入れているものの、土産物屋の品揃えはそこまで充実していない。島ということで海産物の種類は豊富なのだが、名所にちなんだキーホルダーのような形に残る物というのは見受けられなかった。
     いい考えだと肯定すると、一星くんは表情を明るくして、早速御守りを選び始めた。
    「大会も控えていますしやっぱりここは勝負運……でも野坂さん今年受験ですよね? だったら学業……いいえ、野坂さんに限ってそんなことは無いでしょうから健康祈願、総合的に守ってくれそうな厄除け祈願というのもアリか……」
     あれやこれや手に取り思い直して別の物を、それが五分くらい続いたところで長期戦を覚悟した。選択肢を減らす手助けにもなるだろうと勝負運の御守りを二つ購入し、社務所の屋根によって心ばかりの日陰が差す樹脂製ベンチに腰掛ける。
     座面の熱さに慣れるより先に小さな袋を持った一星くんがやって来た。思っていたより早く答えが出たようだ。
    「すみません、お待たせしてしまって」
     一星くんは僕に倣ってベンチに座ろうとし、その熱さに勢いよくお尻を浮かせた。すると申し訳無さそうを通り越して泣きそうな顔をされたので、気にしなくていいよと宥めつつ立ち上がってお守りの交換を提案する。「忘れないうちにやっておきましょう」と答えた彼が選んだのは交通安全の御守り。
     訳は聞かずともなんとなく理解できたし、わざわざ聞き出すのも酷なことだと思って何も言わずに受け取ることにした。
     こちらも言わずとも分かるだろう勝負運の御守りを差し出すと、一星くんは神妙な面持ちでそれを受け取った。
    「一緒に戦った仲だからこそ、手の内は知っている。けどそれは相手も同じこと。……仲間と戦うって思うと、ちょっと気が引けるような気もしますけど……妨害も八百長もなく正々堂々試合ができると思うと楽しみなんです。野坂さんは、どうですか?」
     質問の体を為していながら、その実、用意された選択肢は一つしかなかった。
     胸が熱くなる感覚に踊らされて、らしくないと言われるようなことを口走ったかもしれない。僕の返事を聞いて、一星くんは満足気に微笑み答えた。
    「俺は参謀として誓います。きっと、貴方の手に優勝カップを持たせると」


    🎐🎐

     スマホのアラームで目を覚ますと、一星くんはいなかった。トイレに行ったのかと少し待ってみるも戻ってくる様子はない。
     稲森くんたちとサッカーをしたり、島を案内してもらったり、サッカーをしたりして、もっと寝ていたいような気もしたが、先に出発してしまったであろう一星くんを夜道に一人で待たせるわけにはいかない。他のお客さんや海腹さんたちを起こさないよう、静かに外に出る。目的地は島を案内してもらって回っていた時に見つけた踏切だ。
     遮断器は無く、警報機は潮風で錆付き、森の中を通る線路はまるで廃線のような雰囲気を漂わせていたが、ちゃんと電車は走っているらしい。島という土地上利用者はそこまで多いわけではなく、本数も少ないのだという。天体観測といったら、午前二時、フミキリで。そんな歌もあるくらいなのだから、そこを集合場所にするのもきっと自然なことだったのだろう。
     街灯のない道はどこまでも真っ暗闇だ。おまけに木々が茂っているなんて、いかにもオバケが出そうな道を懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく。双眼鏡やミニサイズの星座早見盤なんかを入れたボディバッグに、一星くんからもらったお守りを結びつけてきたが、今この状況において交通安全祈願は意味があるのかは微妙なところだ。
     着いたのは集合時間の五分前だったが、やはり一星くんは先に来ていた。懐中電灯の丸い明かりで姿を捉えると、彼はこちらに気が付いて大きく両手を振った。
     いつからここに居たのかを聞くと
    「十分前行動は基本です。なんたって、皇帝の参謀ですからね」
     さも当たり前のように、それでいてどことなく得意気な様子で答えた。学校のジャージ以外に身に着けている物は無く、随分と身軽な装いだ。天体観測のための荷物だと言っていたはずのリュックサックが見当たらない。
    「あぁ……重たかったので置いてきちゃいました」
     一星くんは後頭部に手をやり気恥ずかしそうな微笑みを浮かべる。
     民宿からここまでは結構歩かなければいけないのだ。荷物のたくさん入った、それも背中をすっぽり覆ってしまうようなリュックサックを担いで来るのは大変だと判断するのもおかしいことではない。
    「そんなことより、星を見ましょう。良い天気なのできっと綺麗に見えますよ」
     一星くんに促されるまま空を仰ぐ。
     先程まで晴れ渡っていた空は雲で隠れてしまっていた。
    「あれ? おかしいな、さっきまでは見えていたのに。ちょうど空が見えるはずのところに雲がかかってしまっているのかも?」
     周りを取り囲む小高い木々のおかげで見上げれば一面の星空というわけにはいかず、震えた手で切り取ったような穴、とでも言うべき見え方をしていた。民宿を出た時にはほとんど雲なんてなかったのだから、一星くんの言うように、部分的に雲がかかってしまったと考えるのが自然だ。葉を裏返すぬるい夜風が雲を払ってくれるかと期待したが、薄くなる気配すら無い。
     旅行もまだ一泊目であるし、更に言えばここで過ごす間は天気予報によれば初めから終わりまで晴天らしい。今、このタイミングで天体観測を強行しなくたっていい。何より一日の半分をサッカーボールを追いかけて過ごしていたような気がするくらいに走り回ったので、噛み殺していたあくびもいい加減抑えが効かなくなってきた頃だ。
     明日にしよう。そう提案しようかとしたところで、一星くんは静かに踏切の向こう側を指さした。
    「あっちに行ってみましょう。たしか開けた場所があったはずです。もしかしたら見えるかも」
     彼は答えを待つことなく動き出す。線路の中央まで歩いていき、僕がついてこないことに気付くと立ち止まった。
    「……? どうしたんですか? 移動しているうちに晴れるかもしれませんよ」
     こちらに顔を向けているが、肩の高さまで持ち上がった右手はやはり線路の先の暗がりを指し示しており。なんとしてでも天体観測を執行するつもりであるらしい一星くんだが、昼間は真っ直ぐ進めなくなるまで走って、果には稲森くんたちと一緒にグラウンドに寝そべっていたのだ。民宿に戻って夕食と入浴を済ませて寝付くまでの時間もとても短く、それほどまでに疲弊しきっていたはずだが。
     疲れているだろうと声をかけたが、それに対する返事は無い。
    「曇った空を見続けるんだったら、ちょっと探検しましょうよ。大丈夫です、俺が遭難した樹海と違ってここは人が来ます。それにきっとすぐ晴れますから」
     カンカンカンカン、警報機の赤灯が、暗闇から覗き込んでくる目のように光った。
     こんな時間に電車は走っていないのに、ガタンゴトン、なんて音が近付いてきている。
    「ほら、行きましょうよ野坂さん。早くしないと朝になっちゃいますよ」
     はっきりと輪郭をもちだす音にも、自らを照らす明かりにも気付いていないのか。一星くんはのんきにも笑ってこちらに手を振っている。その間も、右手はずっと先の方を指したまま。
     電車なんて来ない。
     最終の電車は今から八時間も前に通り過ぎている。
     それなのに。姿の見えない電車のライトが眩しいくらいに一星くんを照らしていた。
     引き戻さなくては。瞬間的に腕を伸ばす。
     一星くんの肩を掴もうかというところで手を掴まれた。
    「いきましょう」
     目が合った。
     よく晴れた空と似た色はどこにも見当たらない、そこにあるのは黒く澱んだ底無しの
    「お待たせしてすみません、野坂さん!」
     思いきりぶたれたみたいに首を回して振り返った。
     電池式と思しき小さめのランタン、オレンジ色の優しい灯りがリュックサックにくくりつけられている。一星くんは僕の前まで来ると膝に手を付いて、苦しそうに肩で息をした。走ってきたらしい。
    「夜は冷えるかと思いまして……お茶を淹れてきたんですが、海腹さんや海腹さんのお母さんを起こしてしまわないようキッチンの電気を付けないでやっていたら、その……お茶っ葉を落として……盛大にばら撒いてしまって。片付けをしていたら遅れてしまいました! 本当に……すみません!」
     勢いよく、深々と頭を下げたものだからリュックサックがずり下がり、柔かそうな髪をぐしゃりと乱した。
    「少しでも快適にできたらと思って、いろいろ持ってきたんです」
     夜風は存外に冷えるというのに彼は額に浮かべた汗を拭いもせず、頭を上げたと思うと鞄を地面に下ろした。折り畳みのアウトドアチェアを二脚、それと折り畳みのミニテーブルを引っ張り出して手際良く組み立てた。持ち歩きに重きを置いたそれらは、地べたにお尻や飲食物がつかないようにする最低限の高さしかない。ミニテーブルにランタン、それとカップが二つ置かれ、一星くんの手で水筒の中身が注がれていく。
    「麦茶です。熱いので気をつけてください」
     橙の明かりに湯気が影を作る。
     橙の明かりは、誰もいない踏切の向こう側をも照らしだしている。
     一星くんに勧められるままチェアに腰掛け、湯気の立つカップに口をつけた。慌てて飲んだために舌を火傷しかけた。
    「大丈夫ですか!? すみません、冷たい方が良かったですね」
     一星くんは自分のカップに口をつける寸前で手を止めてしょんぼりしてしまった。気にしなくても良いと宥め、もう一口。今度は息を吹きかけて慎重に啜る。びっしょりと汗をかいていた体に温かさが滲みていくようだった。
     あんまり急いで飲むと火傷しますよと隣から心配そうに声をかけられて、カップが空になっていることに気付く。おかわりはあるかとカップを差し出してみると、一星くんはすっかり元気になったらしかった。
    「それじゃあ天体観測を始めましょうか。できたら天体望遠鏡を持ってきたかったんですが、流石に無理でした……」
     一星くんが双眼鏡を取り出そうとした時、ブランケットの端っこみたいなものが見えた気がする。まだいろいろ入っているのだろう、もしかすると僕の分の双眼鏡もあったのかもしれない。僕が鞄から双眼鏡を取り出すと、一星くんは掴んでいた何かをリュックサックに押し込んだ。
    「これ、夏休みの宿題のために兄ちゃんが買ってもらっていたものなんです。あと何年かしたら買ってあげるよって父さんからは言われていたんですけど、当時はすごく羨ましくて。何回も覗かせてもらっては宿題の邪魔をしたものです」
     一星くんと座ったまま、双眼鏡を覗き込む。
     高い建物や夜中まで電気をつけている建物が無い、自然の為すままの暗闇で見上げる星空には、普段なら気が付かないような輝きがたくさん散らばっている。ちらちらと瞬く星々は文字通り息を呑むほどに見応えあるもので、ふたりっきりの天体観測は空と木々の境目が明るくなるまで続いた。
    「そろそろ帰りましょうか。……今戻っても、すぐ朝食ですね」
     何度もあくびを漏らしている一星くんとアウトドアチェアとテーブルを一緒に片付けている時、鞄につけていたお守りが無くなっていることに気が付いた。意外にも役に立ったブランケットの片付けを一星くんに任せ、お守りを探す。来る途中までは確かにあったのだからこの近辺にあるはずという予想は当たっていた。
     レールの上……というより。
     レールの中に落ちていた。
     押し込まれていたとするのが正しい。凹の字にひしゃげたお守りの表面は中身が見えるほどにボロボロで、まるで溝にぴったりハマる形状の車輪のついた重たいものが通過したかのような有様だった。
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    DOODLEキョンシーコス一星を見て思いついたものその2。その1とは繋がりがありそうな無さそうな。アレオリ時空的にあの世界でイナズマジャパンのグッズ販売してそうという思いつきその2。画像をズームして見ただけなので実際のものと書いたの違ってるだろうなぁ……
    コスプレキョンシー、ほんものキョンシー 街明かりへと向かう仮装行列が夜の公園を通りがかっても、今夜に限っては誰ひとりとしてそれに奇異の目を向けることはない。洋風に偏ったモンスターの装いに、日本の侘び寂びを体現した秋の虫の声はどうにも似つかわしくないようではあるが。
    「その格好、寒くない?」
     王帝月ノ宮サッカー部による仮装行列を先導していた野坂から不意にそんな言葉が出る。
    「……ちょっと肌寒いです」
     答えたのは、そのすぐ後ろをついて行っていた一星である。古い時代の中国の官僚が被っていそうな帽子には、呪言に見せかけて自分の名を書いた札があり。詰まった首元、手を隠して垂れ下がる袖。それだけを見れば暖かそうなものだが、下半身へと視線を下っていけば膨らんだシルエットのズボンの裾は膝よりも上にある。靴も地面を踏む足をすっぽり隠すだけであり、脚の半分以上が秋の夜風に晒されている状態だ。
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    (*ΦωΦ*)

    DOODLEキョンシーコス一星を見て思いついたものその1。アレオリ時空的にスポンサー契約やらなんやらで広告塔的な役割ある=グッズとか販売してそうという安易な思いつきその1
    ハロウィンフェスとキョンシー ハロウィンフェスとは名ばかりに、制服として支給されたと思しいパーティーグッズをつけた店員と僕たちを除けば、ショッピングモールの中で仮装している人というのはほとんどいない。

    「まあ、そうですよね……まだ昼に近い夕方だし、それにハロウィンは何日も先なんですから」

     一星くんは指先まで覆い尽くす袖をだらんと垂らす。膝上丈のズボンから露出した脚を少しでも隠そうとしているかのようにも見える。秋に向けて肌を隠す服装へと移ろいゆく季節的に、待ちきれずに浮かれきっているようにしか思えない服装に、目を引くのも仕方ないことだろう。
     それもそのはず、少し気が早いと一笑するには、ハロウィンに合わせて売り出されるグッズの撮影用衣装は手が込みすぎていた。僕は吸血鬼、一星くんはキョンシー。良くできていたものだから撮影が終われば用済みというのはもったいない気がして、撮影終わりそのままの格好で外に出てきたが、衣装を貰ってハロウィン当日に着るべきだったかと少しばかり悔やまれる。
    3015