隣の青を知っている ある男が、目の前の男の頰を打った。骨が軋む、音が、悲鳴のように鳴る。殴られた男は、畜生、と吐き捨て、その眼を憎悪に燃やし、裂けるほど右の頬を吊りあげた。眉下の皮膚で三角形を描いたその男は、素早くしゃがみこみ、道端の石を拾う。
「…………ッ!」
声にならぬ咆哮は、まさしく獣のそれで、あった。茹立つ眼の鈍色には赤が奔り、明確な攻撃の意図をもって、男はそれを投げつける。
「ざけんなテメエが死ねッ、おっ死んじまえ、!」
いっぽうの男もまた、明らかな攻撃の意図が、あった。石に打たれた左肩の痛みは、併し男の冷静をより失わせる効果を表した。分厚い手をぐっと折り曲げ、もう一発くれてやると、熱く息を巻く。
「訳分かんねえ奴らの言葉に騙されやがって、テメエにとってこの村はその程度だってか? 死ね、どっか行っちまえ、あいつら諸共今すぐ、この村から、なあ、聞いてんのかボケが、クソッ、どっか行けよ、死ねよ、なあ、死ね死ね死ね死ね、死ねッ!」
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