めぐる綺羅箱1*クッキー缶の出会い
仕事終わり。
無性に甘いものが食べたくなり、適当に寄ったお菓子屋さん。
閉店が近づくこの時間に、たくさんのお菓子が並んでいるお店だった。
ショーケースの中のケーキがキラキラと輝いていて、適当に買って帰ろうと思っていた自分がバカらしく思えてきた。
「いらっしゃいませ」
奥のキッチンから出てきたのは、体つきのしっかりとした美男だった。
「……どうも」
疲れ切った自分に残った微かな何かが、彼に持っていかれそうな気がした。
「何をお探しですか?」
昼間の暖かな日差しのような、疲れ切った体を癒すようなそんな笑顔で聞かれた。
「あ、なにか、簡単に食べれるものありますか」
選ぶのもめんどくさくなって、店員さんのおすすめならハズレがないだろうと投げかける。
もう、食べるものを選ぶ気力すらないほど自分が疲れていることを自覚した。
「それなら、クッキーなどいかがですか?日持ちもしますし、アソートとかもあるので楽しんでいただけると思いますよ」
そう言って彼が小さな箱を出してきた。
箱の中には、ケーキみたいにキラキラした繊細な模様のついた様々なクッキーが入っていた。
ジャムのついたもの、チョコの練り込まれたもの、小さなもの、大きなもの。
いろんな綺麗なものが詰まっている宝石箱みたいなものだった。
今まで義務で食べていた食事などではなく、食べたいと素直に思えるものだった。
「それ、いくらですか」
妥協ではなく、これを食べたいと思ったのはいつぶりだろうか。
「1200円になります」
思ったより安かった。
家に帰って、着替えるより先にクッキーの箱を開ける。
ジャムの乗った、小さなクッキー。
キラキラとしたそれを、口に運ぶ。
ホロリと口の中で柔らかく甘さが広がるそのクッキーは、久々にいいものを食べているなという実感と、自分が生きていることを実感した。
仕事終わりの疲れた体が一瞬で癒されるような、そんな暖かさを感じるクッキーだった。
「また、仕事終わりによるか。今度は、ケーキとか買ってみるか」
明日から、また仕事を頑張ろう。そしてご褒美にあのお菓子屋さんに寄ろう。
楽しみが、できた。