Penso sempre come deve essere candy, dormire tra tPenso sempre come deve essere candy, dormire tra tue braccia.
「……無茶しやがって……これから仕事だってのによ」
「はは、悪いな。つい、抑えが効かなかった」
「あんたとこーなったのがこの年でよかったわダーリン。三十すぎてこれなんだから、朝起きたらもれなくお元気なお年頃のあんたに付き合わされたら一月で干からびちまう」
「そんな経験もしてみたかったね」
がんばってみるかい? と笑ってみると、ベッドから降りたジャンは遠慮しとく、と苦笑した。遠慮なんてしなくてもいいのに、とは思ったが、それよりも眼に楽しい紅い花を肌に散らせたジャンが億劫そうに衣服を身につけていくのを見つめるのが楽しかったのでベルナルドはそちらに集中することにした。
ここはCR:5本部の中の、ベルナルドの私室。乱れたシーツが最高の時間の面影を残すベッドに寝そべり、ベルナルドはジャンを見上げていた。
「いい眺めだ。こういうのも、いいね」
「……エロオヤジめ」
ほんとにしょうもねえ奴だな、とジャンはベルナルドを罵る。だが罵りながらも、瞳は蜂蜜を連想させるその色よりもなお甘い。バケツいっぱいのアイスをぺろりと平らげてしまうジャンやジュリオとは違って、甘いものは苦手なはずだったのに。アイスよりもケーキよりも甘いこの瞳を、いつのまにか中毒の様に求めている。
ジャンが羽織ったシャツが、ボタンも留められないままひらりとはためいた。視界で揺れた白いシャツに、つい指先がうずいて手を伸す。くい、と引くと、ガキみたいないたずらするんじゃねえよと笑われた。
優しい時間が流れていた。
カポとして、筆頭幹部として、二人の毎日は忙しなく過ぎる。分刻みのスケジュール、雪崩を起こしそうな書類の山、いっそひと思いに始末してしまいたくなる大量の会談相手。腕の中に抱きしめた身体の熱さを思い出しながらどうにか仕事を終わらせて、ベルナルドは今日からの土日は久々のオフだ。
「あー、くそ……めんどくせえな……。役員たちと会食って、それ自体はいいけどよぅ。どうせ今日も爺連中の若い頃自慢とかで半分終わるんだぜ?」
シャツの裾を取り戻したジャンが、もぞもぞとズボンの中に裾を押し込む。ああ、そんなんじゃ皺になっちまうよと手を伸ばして、ベルナルドは身を起こし、乱れた箇所をなおしてやった。
小さな子供のように両手をばんざいにして、おとなしく待っているジャンはこれから次のお仕事だ。いつものパターンならば、ベルナルドがジャンを残して仕事に行く側だが今日は逆。戯れの時間は楽しく、無邪気におどけるラッキードッグは可愛らしいが、残されていく立場というのは思った以上に寂しいものだ。ジャンもまた、これからの昼食会が終われば今週はなんの予定もなくこの部屋に戻ってこれるのだが……、そうわかっていても尚、消える気配のない寂寥にこっそりと苦笑する。いつものジャンもまた、この胸にちくりと刺さるような痛みを感じてくれているのだろうか? まるで少女の様にときめく胸に、本当にしょうがないなと自分でも思った。
はなれて行ってしまう温もりが恋しい。衣服に包まれて、ジャンの肌に触れられなくなるのが寂しい。
ならばせめて、彼を包む服を自らの手で着せてやろう。それを纏わせたのが自分であるなら、少しぐらいは我慢もできる。ベルナルドはジャンのタイを手に取った。するりと首にまわして締め――ようとする途中であっさりと我慢が尽きて、キスを。あきれたように殴られたけれど、ほんのわずかに朱を帯びた、傍目には印とわからない程度に色づいた肌への満足感に、痛みなど吹っ飛んでいた。
「それだけ愛されているのさ、ハニー。可愛い孫には自分を格好よく見せたいものだろう? それとおなじだよ。 ……ジャン、次はこっちを」
「孫を持つおじいちゃまのキモチまでわかるようになっちまったら大概だぜ、ダーリン? ……やっぱ礼装ってめんどくせえよなぁ」
「孫が可愛い祖父の気持ちは想像だけど、可愛い恋人にいいところを見せたい男の気持ちならよくわかるよ? ……その分とびきりのいい男になれるぞ。さあ、これで最後だ」
「ワオ、初耳。カワイー恋人の目の前で、ちょいダメエロオヤジなところばっかり晒してる誰かさん見てたらそんな純情わすれちゃってたワ。……サンキュ、じゃあ次は髪をやってくださる?」
着せかえ人形のように素直にされるがままになっているジャンが、今度はその鮮やかな金の髪を差し出してくる。
手を触れればするりと滑らかな細い髪に、触れられる幸福。触れた手の大きさに頬を寄せ、ジャンは心地良さそうな表情をしていた。もし彼が猫だったなら、ゴロゴロと喉を鳴らしているだろう蕩けた様子に、ベルナルドもまた目を細める。少しだけ伸びてきた髪を、どのような形に作ろうか。後ろになでつけて、前髪を少しだけ垂らして。そうすれば誰もが見とれる最高のカポになる。けれど自分がいないときにそんな姿を見せて歩かれるのは少しだけ不安だから、ベルナルドはほんの少しだけ形を崩す。
これはこれで、かわいらしさが増しているから危険なんだが……
まじめにそんなことを考えながら、おしまいだよと露わになった額に仕上げのキスをした。
恥ずかしい奴、と呆れ気味に笑いながら……けれどジャンもまた、ベルナルドの髪をぐいと引き寄せて音の立つ口づけを――唇に。
これは誘われているということだね?
判断して舌を差し入れようとすると、抱きしめかけた腕の中から抱きなれた体温がするりと逃げ出した。
「仕事だっての」
口寂しいのかよ、と笑うジャンに、その通りなんだよと肩をすくめる。するとジャンはポケットを漁り、あめ玉をばらばらと取り出した。
数個ごろりとでてきた飴たちに、どうしてそんなに……とベルナルドは目を丸くする。
「じゃあ、これでも舐めて待ってろよ」
ひとつ包装紙を剥いたのを、ジャンはぽんとベルナルドの唇に放り込んだ。星のマークが描かれた、丸いキャンディ――甘い香りがふわりと広がる。
全部舐め終わる頃には帰ってくるさと、言い聞かせるようにジャンの指先が唇をなでる。囁いた唇は優しい笑みの形。敏感な皮膚に触れた感触にぞくりと背筋をふるわせながら、ベルナルドもまたお揃いの形に唇を緩ませる。
「ここでオアズケとは、酷いねハニー」
「オアズケ終わった後に、俺がお前にされるヒドイコトにくらべれば、このくらいどーってことないっつの」
「そうか、今日のジャンはちょっと強引なのがお好みかい? まあ、昨日の夜は優しくお前のオネダリを全部聞いてやったからな……次はそういうのもいいか……」
「待て待て待て! あんまマニアックにはすんなよ!? つか、昨日のが優しいってお前の基準はどうなんってんだ! 俺がオネダリしたんじゃなくて、お前が一から十まで全部俺に言わせたんだろーが!!」
「おや? そうだったかい?」
とぼけて見せて、顔を赤くしたジャンがかみつくのに笑う。酷くして欲しいんだねとリクエストはしっかりと受け取って胸に刻みながら、ベルナルドは笑って謝った。
「あ、なんか俺、すっげーオシゴト大好きになってきたかも。今日は一日バリバリ働いちゃおうかなー」
「それは、困るね。帰ってこないお前を待って、泣きはらして目が腫れたら今度は俺の仕事に障りがでちまう」
「……仕事場まで追っかけてきて押し倒してくる性格の癖に。つか、仕事場でよけい燃え上がる癖に……」
「うん? そうか仕事場で、ね……。今日はハニーからのリクエストをいっぱい聞けてうれしいな」
「リクエストじゃねええええ! ああ、もういい! 俺は仕事! 仕事行ってくる!!」
お前はだまって飴でも舐めてろ! と叫び捨てて、ジャンは身を翻し部屋を飛び出した。
甘い残り香の満ちた部屋に残されたベルナルドは、舐めていろと言われた飴玉の乗った手のひらを見下ろした。色とりどり、いろんな味のキャンディたち。
すべて舐め終わる頃には……と言っていたけれど、それではばりばりとかみ砕いて急いで食べてしまえばその分ジャンはやく帰ってきてくれるのだろうか。愚かなことを考えた。
この愚かさは救えない。そして救われたいとも思わない。
たくさんの飴玉、次はどれを食べようか。
ジャンが帰ってきて最初のキスは、最後に食べたキャンディの味になるはずだ。甘い甘いイチゴ味か、それとも甘酸っぱさに背筋がふるえるレモン味か。そんなくだらない事を、考えるのがとても楽しい。
ジャンが戻ってくるまでの時間を、結論を出すための思案に充てよう。
長い時間をつぶす方法を見つけて、ベルナルドはその唇をにやりと笑ませた。
とりあえず自分も服を着ようと、ベルナルドは椅子の上の放り出してあったシャツを羽織った。ひとつめのボタンに手を掛けようとしたその時、窓の外で敷石をはむタイヤの音が聞こえた。
ジャンを迎えにきた車だろう――窓辺に歩み寄って、ベルナルドは眼下を見下ろした。窓から見送っていたとしてもジャンは気づかないかもしれないが、それでもかまわなかった。たとえ後ろ姿だけだとしても――いや、姿すら見えずとも、そこにジャンがいるのだともえばベルナルドの心は満ち足りる。
ジャンは、後部座席のドアを開いて招き入れる車に、ちょうど乗り込もうとしているところだった。やはり気づかないか、と思った次の瞬間、蜂蜜色の瞳が上を見る。まっすぐに、ベルナルドのいるこの部屋の窓を見上げた視線は、そこにシャツを羽織っただけの恋人の姿があることに気づいて目を丸くした。
予期していなかったという驚きの表情。そして数瞬の後には、本人も無意識のうちにこぼれ落ちたのだろうふわりと嬉しげな笑みが唇に刻まれる。
その表情は、ジャンがベルナルドと同じことを考えていたのだという証だった。
――まったく、うちのハニーは可愛すぎて困るね。
薄く唇を開き、ベルナルドは見せびらかすように飴玉をくわえる。
お前を出迎えるキスがどんな味になるか、楽しみに待っていてくれ。
夜の匂いを纏った笑みを浮かべたベルナルドを、ジャンは顔を赤くして睨み上げた。
2010/02/6