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    ジュリジャン

    その甘さは反則その甘さは反則










    「ジャンさ、……ジャ、ン、すごく……きれい、です」

    うっとりと俺を見おろすジュリオの眼はいつも、まるで極上の美酒に酔ったかのように熱く潤んで蕩けている。
    物語の王子様がそのまま抜け出してきたかのような完璧な顔。おまけに最高に幸せそうに無邪気に笑っている。イチゴと生クリームがたっぷりの甘いケーキを、独り占めすることが許された子供みたいな表情。馬鹿、お前なぁ、自分の顔見て物を言えよ。俺より数倍きれいな顔してるくせに。
    苦笑しながらこつんと、その秀でた眉間を突っつくと、ジュリオは眼をまん丸にして首を振る。
    幾度も幾度もきれいだと繰り返す必死な唇は、触れ合って温かくなった体温と共に紅潮し、思わず口付けたくなるように色づいていた。ふらふらと引き寄せられて自分のそれを重ねると、啄ばむようなキスの後に零れた吐息は火傷しそうな熱を孕んでいた。
    熱に浮かされて身じろぎをすれば、剥き出しの肌と肌が擦れ合って、その摩擦が新たな熱を生む。

    「ん……ジュリオ、また……?」
    「あ、ジャン……いい、ですか?」

    ダメって言ったらやめちゃうのかよ? 
    首を傾げて尋ねてみれば、ジュリオは泣きそうな声で無理ですとつぶやく。泣くなって。そこで頷かれたら困るのは俺も同じなんだから。そっと頭を撫でてやれば、ジュリオはその手のひらにおずおずと頬を擦り寄せる。頬の感触はやわらかい。滑らかな肌の感触は、俺は楽しいけれど。ただ頬ずりして俺の手に触れるだけで、そんなに嬉しそうに笑えるものか? ただでさえきれいな顔は、幸せそうにとけてふやけてアイスよりも甘い。

    「ジャン、ジャン……大好きです。ジャン……ジャンさん……」

    肩越しにベッドに手をついて、俺に体重をかけないようにと自分の身体を支えているジュリオ。見下ろしている瞳には、たぶん俺しか写っていない。ふと気付けば、その両腕がまるで俺を閉じ込める檻のようだった。心地よい体温と、蕩けるようなキスと、幸せそうな優しい笑顔が無尽蔵に降ってくる檻。なんて居心地がいい――脱獄なんて、したいとも思わないような。
    あたたかな檻と化したジュリオは、やっぱり夢見心地に俺を見ていた。うっとりと微笑む顔は……まあ、ちょっと惚れ直しちまうくらいには、最高にいい男だ。

    なあジュリオ。
    お前はいつでも王子様みたいにきらきら完璧だけど、俺と二人でいるときのお前が輪をかけて幸せそうなのは、俺がお前の腕の中にいるからだなんてうぬぼれてもいいのかな。
    甘いケーキを独り占めする子供みたいに、お前は俺を独り占めしてそうやって笑っているんだと。

    ああ、畜生。
    お前が触れた場所から順に、身体中がアイスみたいに溶けていきそうだ。

    「馬鹿ジュリオ……さん付けは禁止、って、言っただろ?」

    世界は砂糖でできているのかと錯覚してしまいそうなほどの甘さに囚われるのが照れくさくて、俺はジュリオの胸に、火照った顔を押し付けて隠した。












    2009/09/26
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