どうして茶室にいたのか 30%「餞だ。俺なりのな」
宇髄はそう言って、取り出したタバコのパッケージを開いた。派手でチャラい原色だらけのパッケージをあけて、細い、茶色の紙で作られた一本を取り出す。
しゅ。
マッチを擦って、火をともす。
先端にちいさな緋色が灯った。
宇髄が呼吸をすれば、あえかな煙が宙を漂った。がっしりとした体躯の宇髄、その唇から、紫立ちたる煙の細くたなびきたる様は、煙の細さをよけい際立たせた。
傍にあった火消し壺を手繰り寄せ、宇髄はそのなかにマッチの滓を入れた。
じりじり。灰が長く、身が短くなっている。
カナヲは苛立ちを隠せぬまま、宇髄に詰め寄った。
「どうして、あのとき」「……其処に居たか、って顔してんなア」
お見通しなんだよ、と言って笑った隻眼が、すこし歪んだ。茶室にあって、だれも使わないであろう灰皿。誰が使っているのか不明であったそれを、宇髄が手繰り寄せる。
とん。
音もなく灰が散る。皿にグレーの滓が散る。
「輝利哉様に言われたんだよ。栗花落を見てこい、ってな」
はふ。呼吸が浅くなっていく。なんだ。つまり、どういうことだ。輝利哉様は何を知っていて、僕に何をさせたかったんだ。
「あーもう、説明してやるよ」
細い煙草を(どうやら本当は葉巻らしい)一本つぶして、次の煙草に火をつける。派手な黄色の、音符が入り乱れるパッケージをぼんやりと見て、兄さんに渡したものとは違うのだな、と思った。
そして、宇髄は。静かに秘密を語り出した。
■■■
産屋敷には、秘密がある。平安から存在していた公家の末裔、それが産屋敷であった。
一族は、あるとき血筋に怪物を出した。
怪物は、人を食らった。
人を食らうそのものを、鬼と呼んだ。
それから約一千年。産屋敷は鬼を殺すために一族を回した。鬼は増えた。人を食って増えた。
鬼に殺された人たちの遺族は、自ら志願して鬼を狩るようになった。
あるとき、呼吸が生まれた。陽光で消える鬼を殺すために、陽光を模した剣術が生まれた。
これを、始まりの呼吸・日の呼吸と呼んだ。
日の呼吸を編み出した剣士は、当時の剣士たちが使っていた剣術の型とあわせて、炎・水・風・岩・雷を産み出した。
それから五百年。産屋敷の一族が組織した【鬼殺隊】は、大正の世に鬼を滅することに成功する。
鬼殺隊のなかでも選りすぐりの猛者たちは「柱」と呼ばれた。その柱が九柱揃い、日の呼吸が復活したとき。
平安の怪物を、彼らは滅した。
産屋敷には、秘密がある。
鬼を産み出した代償がある。
――短命。それに伴う、先見の明。
鬼を殺して、輝利哉とその妹たちは長寿を得た。
鬼を殺したが、先見の明は残った。
――そして、あと二つ。
■■■
「呼吸を使って果敢に戦った隊士が居てなァ、そいつらには痣が出たんだ」