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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    僕と人魚と鶴と桃(2/3) 産屋敷の家は、今年も新盆である。
     理由は誰も知らないし、誰も教えてはくれない。
     ただただ連綿と、毎年誰かが亡くなっている、のだ。

    「相変わらず派手だなァ」
     森の奥深くで、鶴がつぶやく。さきほどお館様に渡してきた果物が、墓石の前にきれいに並べてあった。花束も、見栄えの良いものに交換してある。
    「成仏しろよォ」
     墓石に刻まれた名。没年日は大正の年明け。産屋敷の奥深くに隠された、合同墓地に手を合わせる。
     異形に成ってから……そも、異形になる前から。母が鬼になったあの日から。神仏に頼ることはない。これは、自分のための祈りだ。鬼殺隊で、浅ましくも生き残ってしまった。たった二人は、墓石に手を合わせていた。
    「冨岡ァ、水かけとけェ」
    「わかった」
     ばしゃり。大きな墓碑をぐるりと巡るように通された、深い用水路から人魚が顔を出す。尾ひれで器用に水を掬って、墓石へかけた。幾分か乱暴ではあるが、柱稽古に付き合った彼らに、これくらいで音を上げてもらっては困る。
     墓参りを終えて、鶴と人魚は去った。それぞれの場所に戻った。鶴は森へ、人魚は池へ。その昔、共に地を駆けたふたりは、分かたれて別のところに棲んでいる。

     産屋敷の母屋では、僧侶の読経が静かに響く。カナエとしのぶとカナヲは、三人仲良く大広間に座っていた。胡蝶家両親の隣に栗花落の両親。そこからカナエとしのぶ、その隣にカナヲ。カナエはワイシャツとスラックス、しのぶは高校の夏服、カナヲは中学の夏服である。第一ボタンまでをしっかりと締め、汗のひとつもかくことなく、三兄弟は座っている。
     黒の頭髪に紛れて、三兄弟は目立たない。だが、りんとした佇まいは、どこか、他人と一線を画している。
    「おーおー、やっぱ胡蝶ンとこは目立つな」
     最後部からひょろっと入ってきた宇髄は(目立つ頭髪であるし、体躯もよい)さらりと周囲を見渡した。見覚えのある人間たちを数える。後藤、前田、嘴平、我妻、桑島、鱗滝、胡蝶、栗花落に煉獄、それから。
    「……っと」
     数えたところで、僧侶が入ってきた。確か、
    「悲鳴嶼さん、毎年お手数をおかけします」「いえ、お世話になっている産屋敷さまの所ですので。どうぞお気になさらず」
     最前に座した現当主と僧侶のやりとりを見て、宇髄は座席にまぎれた。
     静かな席で、読経が始まる。

     聞こえるお経の中に、毎年見知った名前が入っている。注意深く聞かないと、聞き逃してしまう。
    ――トミオカギユウ、シナズガワサネミ。
     人魚と知り合う前までは、それに意味などないと思っていた。だが、今ならわかる。
     これは彼ら・・を弔っているのだ。いつまでも成仏できない、守り神として昇華された彼らを。毎年必ず弔っているのだ。

    ■■■

     毎年、盆が終われば白紋天の提灯を燃やす。数年前から、それは胡蝶しのぶの役目になった。それまでは宇髄が、それよりも前には、輝利哉様が行っていたという。
     大池の茶室、池にせり出した広縁の、垂木のさきっぽに提灯を提げて、火をつける。ぽう、と燃えたともしびが、池に反射してきらきらと輝く。
     あかりに釣られて、人魚がちゃぷりと顔を出す。
    「冨岡さん」「送り盆も終わりか」「そうですね」
     ちりちりと燃えカスになる、白い提灯を二人で眺めた。そうだ。冨岡が、胸に抱いた桃を差し出す。
    「あれから、不死川がいくつか置いていった。念のため冷やしておいたが」
     びしょびしょに濡れた桃が差し出される。胡蝶は苦笑して、タオルを用意した。ころころと転げた桃を優しく拭う。
    「食べますか?」「ああ。美味かった」
     わかりました。そう言って、胡蝶は桃を持って奥に引っ込んだ。剥いてくるのだろう。そう思い、冨岡は広縁に上がる。そこに腰かけて、水面をぱしゃぱしゃと打ちながら、鏡面に映る自身を見た。
    ――まるで、鬼だな。
     ヒトとは到底言えない姿。髪は昔のまま、耳はヒレになり、失った右手は魚のウロコに覆われ、脇腹はエラとなり、両足はきれいにくっついている。歩き方は、走り方は、忘れてしまった。
     そういえば、先日胡蝶と煙草を吸った。ウロコが引き、組成が変わり、一時的にヒトへ戻った。あの頃のように立とうとして、無理だった。泳ぐことばかりしていた身体は、歩き方をすっかり忘れてしまっている。
     あれだけ、地を駆けたというのに。あれだけ、鬼頚を落としたというのに。
     ぼう、と待っていれば、胡蝶が氷水につけた桃を器ごと持ってきた。
    「湯剥きができるそうなので、試してみました」
     そうなのか。冨岡は何もわからないまま反応する。胡蝶が手のひらで、桃を包み込む。皮にすこしだけ切れ目を入れて、そこからするりと。皮をはぐように、きれいに脱がせた。
     どうぞ。胡蝶のてのひらに乗った、少し小ぶりな桃を受け取って、冨岡はかじった。
     しゃくり。ちいさな歯型のついた、やわらかな乳白色の果物は、冨岡の指を伝って、果汁を零した。
    「勿体ない」
     そう言って、胡蝶は冨岡の手首を舐める。果汁だけうまく拾った胡蝶の舌が、冨岡のうろこをなぜている。
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