Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👘 🐁 ❣ ⚛
    POIPOI 64

    wave_sumi

    ☆quiet follow

    僕と人魚と鶴と桃(3/3) ぱりぱりと真白い提灯が燃え散って、月明かりが池を照らす。ばさりとはためく鶴翼が茶室の広縁へ降り立って、人間が・怪異の指先を舐めるシルエットを見ていた。

    ■■■

     今年も盆が始まる。

    産屋敷家には【怪異】が棲んでいる。
    まことしやかに語られる噂は、その広大な敷地内にある自然に紛れた何かのせいである。動物とも人間ともつかない【生物】がいるという。
    ただの【自然現象】ですよ。
    屋敷の主はいつもそう語る。果たして【自然・・現象】とは。
    その秘密は、誰も知らない。

     カナヲは今年も盆の準備を任されていた。今回は、兄が忙しいからだと聞かされている。
     恋人の竈門を誘うかとも思ったが、カナヲ自身の荷物が多くなるため逡巡していた。
    『宅配で送ってしまえばいいじゃないですか。受け取りは僕がしますよ』
    (……?!)
     穏やかな声が聞こえる。ふわりと揺れるたばこの匂い。そうだ、現地でどうしても買うもの以外は宅配で送ってしまってもいい。それに気づいたカナヲは、竈門に連絡をしようとして、やはり逡巡し、屋敷の一家である煉獄家の千寿郎へ連絡をした。
    【千寿郎、盆の買い物を任されたんだけど、付き合ってほしい】
    【わかりました 銀座ですよね いつごろ行きますか】
     返事はすぐに返ってきた。
     明日の十時でどうだろう 空いているか
     夏休みなので自由です

     十時に屋敷の大門前にて待ち合わせ、地下鉄に乗って銀座へ向かった。男子高校生になった千寿郎と、いくつか会話をした。クラスメイトのことや、授業内容の事。それから
    「栗花落さんって、怖い話に興味あります?」「恐い話、って」
    「僕、栗花落さんの母校に通っているんですよ」「ああ、知ってる」
     かたん、かたん。地下鉄の空気圧を裂いて、電車が走る。金属の音が響く。
    「屋上に、幻の生徒が住んでいるってご存知ですか」
     屋上、幻の生徒。怪談、カイダン、階段……? カナヲの脳裏に、黒づくめの旧友が浮かぶ。特徴的な髪型の、ええと、あれは。彼とは、よく屋上で会話をしていた。クラスを聞けば、カナヲの隣だった。授業に出ていたのだろうか。体育祭でも、文化祭でも、彼の姿を見たことはない。
    「……りさん、栗花落さん?」
    「ああ、すまない」
     もうすぐ着きますよ。そうだね。電車を降り、改札を出る。地上に出れば、日差しが照りつけた。焼けてしまいそうだ。いつもの店をはしごすれば、あっという間に荷物が溜まった。配送のできないもなか屋、かりんとう屋、ついでに、二人でかき氷を食べた・・・・・・・
     脳裏に、何かが引っかかっている。それを解決しないまま、カナヲと千寿郎は帰宅して盆の飾りつけをした。
    「千寿郎、幻の生徒って」
     興味があるんですね。よかった。そう言って、千寿郎は怪談を語り始めた。
     屋上に降り立つ幻の生徒がいる。視る者と同じ学年の背格好をした、黒づくめの男子生徒。名前はわからないが、生徒たちの間では「ゲンヤ」と呼ばれているらしい。
    「マボロシ、の幻だと聞いています」
     てきぱきと盆棚を組み立てながら、千寿郎は言った。カナヲの脳裏で、なにかがちくりとしている。

    ■■■

    「玄弥ァ、まだあの学校にいんのかァ」
     兄ちゃん。産屋敷の森から少し離れた神社に、不死川――実弥は降り立った。実弟と兄弟子を眷属とし、現世に縛り付けている。単独での行動をさせるため、縛りはすこし緩くした。生きられなかった分、現世を謳歌してほしい。自らのエゴだとは思っていた。ただ、楽しそうにしている玄弥を見ると。こちらまで、楽しくなってしまう。
    「もう少しで卒業するよ」
     産屋敷の人間が多く通う中高一貫の学校。その屋上に、玄弥はよく降りている。鬼殺隊の同期であった栗花落、竈門、我妻、嘴平、それに、時透と、学生生活を送りたいと言った玄弥の願いを実弥が叶えた。その五人が卒業し、玄弥はマボロシとして学校の怪談となっている。
    「学生生活って、案外楽しいんだね。兄ちゃん」

    ■■■

     ぽたり。桃の汁が女の唇を伝う。ヒトの歯でしゃくりと噛んだ桃からは、あまい、何もかもを包み込むような汁が垂れている。それが口の端を伝い、顎を伝い、ぽとりと胸元に落ちる。零れてしまったとひとりごち、女は胸にこぼれた雫を指で掬った。
     盆のはじまり。大広間では一族が集合し、僧が読経を行っている。

     そのなかに、新しく。 コチョウシノブの名が追加されている。


    (コチョウシノブ、どこかで……聞いたような)
     霞がかったような脳内で、栗花落カナヲは考えた。そうしているうち、カナエに声を掛けられ、そのことはどこか遠くへ飛んでしまう。

     あの大池には、怪異がひとつ増えたという。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤👏👏☺👏💲🐉🎋ℹ👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works