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    きって

    @kitto13

    @kitto13
    いかがわしかったり、暗かったりする
    タビヴェン🧦🐣

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    きって

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    樺太後にこんな会話があったらなーという妄想 そろそろ完結しそうだね どうなるんだろうね

    #杉尾杉
    cryptomeriaCedar

    所詮は子どもが射た矢だった。意図せず放たれたそれは緩く張られた弦を思わせる緩慢さで右目に届き、新雪に踏み入る子鹿の蹄音に似た音をたてた。杉元は初めから決まっていたかのようにてきぱきと目を取り除き、汚染された血を吸い出した。毒がまわる間もなく目は抉り取られ、空洞と僅かな痺れだけが死にかけた証左だった。視界を塞がれ、荷物のように運ばれ、放り出され、簀巻きにされ、まるで無力な赤ん坊のようだった。
    背負われながら首でも締めてやろうかと思いついた。立ち所に返り討ちにあうのは目に見えているが、そうでもしなけりゃ腹の虫がおさまらない。
    俺は怒っているのだろうか?と考える。それにしては心は静かだ。ずっと待ち焦がれていたような痛みが続く。目に見える欠落を手に入れて人心地ついている。何故だろう、今までにない生きている実感がある。
    生まれるはずがない人間が生まれ、死線をくぐり抜けて今を生き続けている。その事は決して喜ばしいことでは無かった。これまで死んだ人間と自分とにさしたる違いなど無く、幸運だか凶運だかが積み重なって生きているに過ぎなかった。せめて俺の中に血を分けた父を見出してくれればよかったのに、母の目は俺を通り越して父だけを見ていた。だから殺した。父の命に背いて貞操や不殺の契りを捨ててくれなかった弟も殺した。亡き弟の身代りにもさせてくれなかった父も殺した。あいつらを殺さなければ、俺は生きてはいられなかった。

    ━━━━━━━━━━━━━━━

    「きっとあの時俺は、言葉を間違えた」
    ため息の様な音量で呟かれた声は自分以外一人だけの病室でやけに響いた。杉元はゆっくりと窓際の寝台に向き合う。
    「あの時って?」
    眠っているかのように思われた尾形は包帯の隙間から瞳孔が開いた目でこちらを睨む。
    「アシリパと二人で、流氷を歩いてた時」
    言葉少なに話終えると尾形はごほごほと長い咳をした。息を整えるのを待つ間、杉元は吸い飲みでもないかと辺りを見回したが、辺境故そういった類の物は見当たらない。この男に自分が出来ることなど限られている。精々利害関係が一致している間共闘する程度だ。一度戦から離れれば白湯すら飲ませてあげられない。その事に悲喜も感じず杉元はただただ次の言葉を待った。
    「アシリパが殺す初めての人間になりたかった。だから父親を殺したと白状した。だけどアシリパは『私は殺さない』だとよ。その結果このザマだ。死に損なった。『杉元を殺したのは俺だ』と言うべきだったんだ。そうすればアシリパは躊躇いなく弓を引いたはずだ」
    「それは違うな」
    思わず杉元は否定する。
    「アシリパさんは無駄な血を流したくないだけだ。仇討ちなんて一銭にもならんだろ」
    「高尚なこった」
    尾形は鼻で笑う。
    「後々そいつに殺されてもか?」
    「俺がいる限りアシリパさんは死なない」
    「不死身が二人か」
    「そうなるな」
    「こんな奴が二人もいてたまるかよ」
    はたと目があい尾形のどす黒い目に気づいた杉元は包帯の替えがあったことを思い出した。未だに外套の端切れでは治りが遅くなるだけだろう。洗い場にあった洗面器の水に脱脂綿を浸してから、包帯を片手に尾形に近づく。数時間前に自分で結った結び目に手を伸ばすと、唐突に手首を掴まれた。
    「触るな」
    「包帯巻くだけだ」
    「このままでいい」
    「無茶言うんじゃねえ」
    振り払ってもいいのだが、渾身を込めたであろうその握力に杉元は思わずたじろいだ。死にたがり屋の癖に生命力だけは強いままだ。
    「無かったことにするな」
    ぎりぎりと、杉元の手首に爪が食い込む。
    「俺はお前を撃ったし、右眼も失った。自業自得だって言えよ」
    「そんな簡単なもんじゃあねぇだろ」
    杉元は掴まれた左手をばきばきと剥がす。
    「お前が何考えてるかわからねぇし、興味もねぇが、怪我や死で償えるほどの価値なんてお前にはねぇよ」
    俺にもだ。杉元は静かな口調でそう告げる。杉元の手に食いこんだ指は残り二本までに減っている。尾形は未だに爪を立て続けている。
    「俺は狙撃手だ」
    尾形は杉元の手のひらを親指で撫でる。
    「白兵戦を得意とするお前は敵味方を瞬時に判断する能力が秀でているが、狙撃手の利点は距離の分だけ相手をじっくり観察できることだ。そいつが何者で、何を考えているか、気が済むまで類推することが出来る。俺は考える。そいつが役に立つやつか、始末した方がいい人間か。考えた末で引き金を引く。後悔したことは無い。この世では俺だけが正しい」
    「俺は消えた方がよかったか」
    「そうだな。そうしたら、アシリパは俺を選んだはずだ」
    尾形は薄く笑う。
    「親子だ兄弟だの血縁を気にする俺ではなかったのに血迷った。アシリパにとっての杉元に、俺は足る人物だと思った。腕っぷしには自信はないが知略は練れるし実戦経験、背格好共に十分だ。俺はそれに相応しい」
    笑いたくもないのに笑った笑顔は酷く醜く見えるだろうと、尾形は他人事の様に思った。杉元はそんな尾形を横目で見てため息をつく。
    「お前の目的は金塊か?アシリパさんか?」
    「さあな?言う義理あるか?」
    にやにやと笑ったままの尾形はようやく手の力を抜いた。
    「アシリパは清く正しく育っている。これからだってそうだろう。だけど何かにつけて汚したくなる性分でな。美しく死ぬやつより生き汚ない奴の方が好みだな」
    お前みたいな。尾形の黒い瞳がぎょろりと動く。
    「お前が戦う姿を見る度に惚れ惚れするよ。戦う理由なんて人それぞれだが、お前のそれはただ生きたい、それだけだ。なんの捻りもない。勝つとか強いとかそんなの副産物に過ぎない」
    だけどな
    「お前も分っているはずだ。お前とアシリパはやがて道を違う。住む世界が違う。今は偶々行動を共にしているだけだ。それなのにその献身はなんだ?金か?同情か?庇護欲か?」
    「どれでもねえよ」
    杉元は端切れを解く。血を吸って黒ずんだ布はぼとりと音を立てて床に落ちた。
    「それが俺の役目だからだ。そう決めた。あの子の道中に危険があれば守る」
    眼窩にちぎった脱脂綿を押し付け、ぐるぐると包帯で固定する。
    「金は欲しい。金が手に入れば何だってできる。アシリパさんの願いを叶えることも、病気を治すことだって。だけどその途中で今まで貰ったものぐらいは返したい。それだけだ」
    ふーん、と尾形は興味もなさそうに相槌をうった。
    「あの子にお前は分相応だとは思わんのか」
    杉元は、はあ??と怪訝な顔をする。それに気づいていないのか尾形は話し続ける。
    「言っただろ?『あの戦争で拾った命はカネで換えられん』お前は何処へだって行ける。わざわざ危険を冒す必要がどこにある?」
    「…買いかぶりもいいところだな」
    包帯を巻き終わった杉元は裁ち鋏を手にして包帯を切った。じゃきんと音が鳴ったのを合図に尾形は振り向きざま鋏に手を伸ばしたが、それと同時に杉元の腕が尾形の頸に廻る。
    「ここで縊り殺されるも、戦争で撃たれて死ぬのも、変わらねぇよなおい」
    杉元は鋏を遠くに投げる。鋏は机や壁に当たりながら大きな音をたてて視界から消えた。
    「俺はお前を救ってやらない」
    杉元は腕に力を込める。
    「本当はどっかで野垂れ死んでほしいが死んだかどうか確認する手間も惜しい。だからこの手で殺してやる。寂しくないだろ?」
    「…ぶはっ」
    腕に縋り付くようにして息を吸い込んだ尾形は勢い余って血を吐いた。「汚ねぇな」と言いつつ杉元は手を離し、手ぬぐいで顔やら衣類やらを拭き取りながら、杉元は場違いな笑顔を見せた。
    「野蛮だなあ俺たち。だけどそれが生きてるってことだ。自分を生かすために殺し続けなきゃいけない。きっとお前も俺も死ぬまで生き続けなきゃならない」
    杉元は尾形を睨みつける。
    「死に水はやらない。乾いたままで生き続けろ」
    杉元の後ろ姿を見ながら尾形は笑いが込み上げてきた。やめようと思ってもやめられない、引き付けに似た笑いだった。

    尾形は目を失った瞬間を何度も夢に見た。幾度となく射抜かれ抉られ吸われた。杉元の体のどこかに自分の血が残っているかもしれない事実によすがを感じながら眠る夜は愉快でたまらなかった。
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    Replies from the creator

    きって

    MOURNING初夜失敗

    前半はTwitterに載せてた内容と同じなので読み飛ばしてください。
    えろくもないしほぼ会話文。
    リビングへと続くドアは細く開いたままになっている。開けっ放しはやめろと何度諌めても「どうせまた開けるんだからいいだろ?」と素っ頓狂な顔でタビコが言うものだからヴェントルーはその悪癖を直すことをとっくの昔に諦めていた。それでも開いたままのドアが目に入る度にその隙間を無くしてはいたものの、今日は全くその気になれない。
    タビコは今シャワーを浴びているはずだ。湯浴みが終わればあのドアからこの寝室に入ってくる。その事が恐ろしいのと待ち遠しいのとでヴェントルーの緊張は最骨頂に達していた。なんの前触れもなく寝室に入ってこられるよりかはドアの隙間からタビコの気配が伺えた方がいい。そう思って敢えて視界の端でリビングの様子を見てはいるが、結局はざわつく胸が抑えられず最終的には壁の一点を見詰めるのに留まった。ヴェントルーは落ち着きを取り戻そうとベッド脇に置いたルームライトに目を向けた。家電量販店で急遽手に入れた小ぶりなライトはリラックス効果だとかムード演出だとかそんな謳い文句が箱に書かれていて、ヴェントルーはむずむずとした心地でそれを手にしてレジへと向かった。アロマフューザーにも手を伸ばしかけたが、それはやり過ぎだろうとやめにした。今はそれを仇かのように睨み、ヴェントルーはベッドに正座する。
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