ガラクタ昔、きれいな欠片をひろった。
透き通って、色がついていて、他に落ちている石とは全然違った。わたしがきれいなものを見つけたよとお母さんに見せると、それはガラスのビンの破片だねと教えてくれた。
深い深いブルーのカケラ。
わたしはそれをポケットに入れて家まで持って帰ることにした。これはたからものなのだと、そう思った。
寧々ちゃん!とえむがわたしに笑いかける。
キラキラしたまぶしい笑顔。
何、と答えればさらに笑みを深めた。えむはいつも笑顔を絶やさない。わたしには到底できることではない。だからと言ってそうしたいかと問われれば、したいわけではないのだけれど。わたしはえむとは違う。同じになりたいわけではない。
手を出してとえむに言われて、素直に差し出した。わたしの手をえむは両手で捕まえて、手のひらに小さくてかたいものを握らせる。
えむの体温でほんのりと暖かい。
「寧々ちゃんにあげるね」
なんだろうかと手をひらいて見る。
淡いピンクの石だった。
「これは?」
「むかしおじいちゃんに貰ったんだ。他にもたくさんあるから、寧々ちゃんにあげたくなって持ってきたの!」
えむにありがとうと言うと、また彼女はにこりと笑った。
「司くんと類くんにも渡してくる!」
そう言ってポケットから黄色くてまん丸な石と夜の色のような濃紺の石を取り出して見せてから、二人のいる方へ走って行った。黄色が司で、紺色は類のものになるのだろう。
手のひらに置かれた石を見る。透明感のある、うすいピンク。
どうしてこれをわたしにくれたのかなと考える。かわいいからとえむは言うだろうか。えむはかわいくないわたしをかわいいと言う。言い続ければいつか本当になるとでもいうかのように。
家に帰って、ポケットに入れっぱなしだったピンクの石を取り出す。どこに仕舞っておこうか。
机の引き出しを開けてみる。奥の方に小さなキャンディの缶があった。いつからそこにあったのかも憶えてはいない。少し錆の出た開きにくいフタを力まかせに開く。
ばかんと大きな音がして、缶は開いた。
缶の中にはいつか拾った、青いガラスの欠片が入っていた。他にも小さな貝殻や、七色のおはじき、キラキラしたおもちゃの指輪。
完全に存在を忘れていた。
懐かしい気持ちになって、一つ一つ手に取って確かめる。
かつてわたしにとってたからものだったものたち。大切に仕舞い込んで、忘れてしまったものたち。大事なものほど奥に仕舞って忘れてしまう。
えむからもらった石をわたしはその缶に入れ、ばちりとフタをした。