9 黙れよ ヒュンアバ黙れよ
「明日の朝は鮭のソテーにしますか? ライ麦パンに豆のスープ、朝採りのブルーベリーを添えて、食後には紅茶を飲みましょう」
いざ、初めての同衾と言う時、アバンは早口に明日の朝食のメニューを捲し立てるので、ヒュンケルは思わず脱力してアバンの上へと突っ伏す。
「……何故、今、その話をする」
「だって、まだ決めてなかったじゃないですか」
「そんなの、決めていなかろうと、勝手に貴方は作ってしまうだろうに」
「いや、せっかく初めての夜の朝ですから、思い出に残るようなものをですね」
「その割に、口から出てきたメニューはいつもと変わり映えがしないが?」
ヒュンケルの言葉に、アバンの眼鏡の奥の瞳が輝いた。
「それが違うんですよねぇ。鮭はカールの内海で獲れた脂の乗った鮭! 卵はロモスの森の奥、放し飼いで育てられたニワトリの物! パンに塗る蜂蜜はレンゲ畑で養蜂されたもので、とても香りが良いんですよ、それと」
まだまだ食べ物の蘊蓄が続きそうなアバンに、ヒュンケルは唇を重ねて黙らせた。