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    ナカマル

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    ナカマル

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    #ナカマルのヒョーセツ

    ポイピクの小説機能使ってみたよ

    最近のあいつら◇◆──────────

     ポケットに入れた端末が震えた。取り出して画面を見ると、摂津の名前、それから【晩飯不要】の文字が表示されている。返信を打とうとしたが、それを阻むように更にメッセージを受信して、俺は思わず舌打ちをした。世代の違いか、年齢の違いか、どうにも文字入力の速度では若い奴らに敵わない。
    【駅で兵頭と会ったんで】
     二つ目のメッセージはこれだった。文脈からして、駅で摂津が兵頭と偶然会い、二人でメシを食いに行く、と、そういうことだろうか。
    【了解した】
     返信を打つと、一秒もしないうちに三つ目のメッセージが現れる。
    【監督ちゃんには連絡済です】
     こういったメッセージアプリを使っているといつも思うが、なぜメッセージを一度にまとめないのだろうか。二度目の舌打ちは思いの外デカい音が出た。
     
     寮で夕飯を食べ終え、風呂に入ってからしばらく経っても、摂津と兵頭は帰ってこなかった。相当話が盛り上がっているらしい。
     秋組の結成当初、摂津と兵頭は非常に仲が悪く、殴り合いを始めないかどうか俺が常に気を払っている必要があるくらいだった。しかし年を追うごとに衝突の回数は徐々に減っていき、最近はちょっとした小競り合いはあれど、手が出るほどの喧嘩はとんと見なくなった。
     それは奴らの精神が成長したからでもあり、数年にわたる同室生活で慣れた────臭え言い方をすれば仲が深まったからでもある、と考えている。
     ただし、稽古中だけは例外だ。今でも取っ組み合い寸前の言い争いをしやがる。むしろ、兵頭に実力と自信がついた分、以前よりも激しくなったかもしれない。芝居に本気になってぶつかることはむしろ望ましい場合もあるから、本当に殴り合いを始めない限り、俺は止めないことにしている。

     坊…もとい、莇は今年で十九になるが、相変わらず二十二時半には布団に入る徹底ぶりだ。今日も早々に部屋に引っ込んだ。今日も俺は暗闇の中で手探りで寝床にたどり着く必要がありそうだ。
     一方、摂津と兵頭はまだ帰ってこない。
     二人とももうすぐで二十三になる。社会人一年目のあいつらは、学生だった去年までよりも忙しくなったようだ。そう、奴らは憎らしいことに、もう大人なのだ。
     秋組は公演の打ち上げ以外で共に外食をすることは滅多になく、それゆえに最近のあいつらについて、俺は寮の中での姿以外はよく知らない。だからつい、高校生だった頃──それこそ、喧嘩ばかりだった二人の手を手錠で繋いだ頃のようなイメージで見てしまうことがある。
     まさに今、飲み屋で熱くなって論争を始めているのではないかと案じて、摂津にメッセージを送ってしまったところだ。

    【飲むと声がでかくなるから、ほどほどにしろよ】

     まずい、余計だった、と思った時にはもう既読マークが付いてしまった。時刻は二十三時四十五分を回っていた。
     摂津はいつも、既読マークが付いてから五秒以内には返信を寄越す。しかし今回は二分ほど経っても新しいメッセージは来なかった。
     さらに二分後、摂津の代わりに、兵頭からの通知が来た。

    【居酒屋じゃない。明日の朝帰ります】

     奴らが今居るのは飲み屋ではないらしい。一体どこをほっつき歩いているのか。摂津は返信も打てないほど泥酔しているのか。俺は通話ボタンをタップしそうになるのを抑え、【了解した】とだけ送った。大人になって分別のついたあいつらにする説教はない。
     端末の画面を消そうとした時、兵頭からまたメッセージが来た。

    【明日左京さんに話したいことがある】
    【時間とれますか】

     一文ごとにぶつ切りにして送ってくるのは摂津のクセだったはずだが、いつの間に移ったのだろうか。

    【LIMEでも構わないが】
    【いや、直接がいい。摂津もそう言ってた】

     話があるのは兵頭個人ではなくて、二人からのようだ。二人揃って退団したい、などとのたまうのなら、理由によってはぶん殴ってやりたいが、次の秋組公演を控えたこのタイミングでは多分、違うだろう。

    【わかった。明日の夜なら。寮の外がいいか】
    【その方がいいです。ありがとうございます】

     数年前ならあの二人が連れ立ってメシに行くこと自体、罰ゲームでもない限りありえなかった。しかし先述の通り、ここのところは摂津と兵頭の言い争いが減り、喧嘩以外の会話が増えた。今年に入ってからは摂津の冗談に兵頭が声をあげて笑う、といった光景まで見られるようになった。
     あいつらが大人になったのだ、数年間同室者として生活することで慣れていったのだ、気にするようなことではない、と思うようにはしていた。実際、あの二人よりもひっついている奴らはカンパニー内にもいる。
     先週摂津が着ていた服を今週は兵頭が着ていようと、兵頭の帽子を摂津が被っていようと、最近の若者は、頻繁に服や帽子や靴や装飾品なんかを貸し借り、もとい「シェア」するものなのだろうと、そう思って納得するようにしていた。
     しかし俺の微かな予感が万が一当たったとしたら、そして、明日のあいつらの「話」が「それ」に関することなら、俺はあいつらにこれ以外言うことはない。
    「好きにしろ」

    ──────────◆◇ おわり
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