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    やはづ

    @ywzbg76

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    やはづ

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    グに「大好き」って言われたビの話

    「友だちと思ってた人に、好きって言われたら、どーしたらいいの?」
    「はあ?」
     ウエストセクターの部屋で、まあ座りなよ、とぶっきらぼうに言われてソファに腰をかけた。ビリーは両手のひらで顔を覆ったまま、ぼそぼそと縋るように声を振り絞る。冷たい声が被さるようにして耳を貫いた。うう、厳しすぎる。涙が滲んだ視界のまま、ちらりと顔を上げた。もう、藁にもすがる思いで相談しに来たって言うのに、相談相手は凍てつくような視線をこちらへ向けていた。
    「相談に乗って、なんて言うから、いつも通り情報収集かと思ってたんだけど……。突然、何?」
    「柄にもないってのは、僕ちんが一番わかってるよ! DJなら、そういうの慣れてそうだから聞いたんじゃん」
     ぶす、と唇を尖らせて不貞腐れた振りをする。そんなことしても可愛くないから。一刀両断。分かってるってば! 軽口の応酬。うん、ベスティって感じだ。
     今回の相談も、友情とかいうあっつい青春な感じで受けてもらったわけじゃない。最近は、DJも優しくなったカモ? と思うことはあるけれど、しっかりと対価は払うつもりだ。どのようにって、もちろん情報で。ベスティがクラブで快適に遊ぶために、女の子たちといざこざがあった時には助けてあげるね、って約束。
     ビリーが友人であるフェイスに相談を持ち掛けたのは、初めてのことではなかった。ただ、情報屋の仕事を抜きにして、こんなにマトモな"相談"をしたのは、初めてのことだった。フェイスが訝しげになるのも頷ける。まあ、その対象は自分なのだけれど。
     フェイスは大きくため息をついて、それからソファにどっかり身体を預けたまま、足を組み直した。どうやら、マトモに相談を受けてくれるみたいだ。なんだかんだ言って、ベスティは優しいのだ。
    「で、なんだっけ。友だちに好きって言われたの?」
    「……ウン」
    「俺なら……お付き合いして、とか言われたら、断るけど」
    「ええッ、何それヒドイ! ていうかDJ、そんな真面目な人だったっけ?」
     フェイスにじと、と睨みつけられる。じゃあなんで聞いたの、って言いたげな視線だ。ビリーは膝を抱えた。ソファの上でそんな座り方しないでって言われるだろうし、個人的に汚れるのはイヤだから、靴は脱いだ。フェイスの顔を見るに見られず、両膝に顔を埋めて次の言葉を待つ。
    「最近は断ってるよ。ていうか普通、友だちと思ってた人と付き合うなんて無理でしょ。それともなに、告白されて満更でもなかったとか?」
    「……」
    「……え、なに。本気?」
     図星だった。フェイスは目を皿にしてこちらを見ている。何、悪いの。そう思ってじっとりと睨み返せば、素直になったね、ビリー。と感心された。
    「『大好き』って、言われたんだよ? すっごく綺麗な目で、甘えた感じでさあ。俺っちのこと好きで好きでたまんない〜なんて態度取られちゃったらさあ……」
    「『好きになるのも仕方ない』?」
    「……う」
     足をソファから放り出して、両手は降参のポーズ。ふざけた調子で言ってみても、鋭いフェイスからはお見通しだったようで、真面目なトーンで事実を突きつけられた。
     そう、好きになってしまったのだ。誰をって、グレイを。


     昨夜は本当に、おかしかったのだ。ジェイやリリー教官に巻き込まれて、グレイはお酒を飲んでしまった。ビールは苦手だと言っていたし、前に巻き込まれた時なんか、帰ってすぐ気絶するようにベッドに倒れ込んでいたことを覚えている。
     ただ、今回は違っていた。ジェイと肩を組みながら帰ってきたかと思えば、アッシュにそのままジェイを押し付けた。アッシュが怒るのを歯牙にもかけない様子で、ご機嫌なまま、呆気に取られていたビリーの手を取り自室へ向かった。
     真っ青な顔だろうと予想して、お水を大量に用意しておいたのに。耳まで赤くさせて眉を下げ、ヘラヘラと笑うグレイは新鮮だった。
    「へへ、ビリーくん、ただいまぁ」
    「お、かえり、グレイ」
     浮ついた声だった。少しトーンが高い。部屋に入るや否や、ぎゅう、と背中に回された腕は火傷するかと思うくらいに熱かった。少しだけ、ふわりと漂ったアルコールの匂い。結構飲んだな、コレは。
     いつもハグをするのは決まってビリーからだったので、グレイからのアクションは珍しくてドギマギした。いつも気を使って自ら触れようとしないグレイが、こうやってフレンドリーになるのは、一度サブスタンスの影響で性格が反対に入れ替わってしまった時以来だろうか。
     気分よく酔った彼は素直になるみたいで、ビリーくんの顔が見れて嬉しいだの、可愛いだの、多分本人は普段隠しておきたいのであろう言葉をぽんぽんと口に出していた。テンパって素直になる癖はよく見かけるし、そういうところが可愛いなあと思うが、こうやってスラスラと口に出されるのは逆に気恥しい。でも、大切にしたいと思う友人からの好意は、ビリーにとってひとつひとつが幸福の欠片であり、心にじんわりと沁みて心地が良かった。
    「どしたの、グレイ。今日はなんか、楽しそうだネ」
    「ふふ、そうかな? ああ、甘いお酒を飲んだからかも」
    「甘いお酒?」
     甘いお酒……リキュールでも飲んだのだろうか。バーテンダーとして働いたこともある手前、なんとなくそれを察した。ビールは苦手だが、ボンボン・ショコラで酔うアッシュよりは、グレイはお酒に強いと思っていたのだが。
    「オレンジジュースみたいで、美味しかったなあ。今度、ビリーくんも飲まない?」
    「オレンジ──ああ、なるほどネ。てか、俺っちまだ19歳だよ。お酒はダメって、いつも言ってるのはグレイの方でしょ」
    「ああ、そっか、そうだよね……」
     レディーキラーとして有名なカクテルを飲んだみたいだ。飲みやすいのもあって、ついつい飲み過ぎたのだろう。いつもは6歳も下の子どもだというようにビリーを扱うグレイも、正常な判断ができないほど酔っているらしい。
    「もう眠いでしょ、寝た方がいいヨ。それとも、お水飲む?」
    「んん、お水……じゃあ、貰おうかな」
    「Gotcha! じゃあ、持ってくるからベッドに入ってて」
     グレイの腕をぽんぽんと軽く叩くと、容易に拘束は解けた。リビングの冷蔵庫から水を持ってこようと思い、扉に手をかける。その時、グッと背中に熱が伸し掛かった。
    「わひ、エ、なになに。グレイ?」
    「うう……ビリーくん、ベッドまで運んでぇ」
    「え、い、イイケド……」
     両肩に熱い手のひらが置かれてる。右の肩にはさらにちょこんとグレイの顎も乗せられて、背中側が熱いし、ふわふわな髪が頬をくすぐるし、お酒の匂いが濃くなって、なんだかどきどきした。ふだん甘えることの少ない彼が、こんなことをするなんて。
     緊張して少し震える身体を、ゴクリと唾を飲み込んで抑えた。それから、身体を左横にずらして、グレイの肩を支えながらベッドの方へと移動した。
    「ありがとう、ビリーくん」
    「どういたしまして」
     いつもなら、ごめんね。なんて言いそうなところを、ちゃんと感謝の言葉で伝えてくるグレイにビリーは頬が緩んだ。最近はごめんねの頻度は減ったけど、それでも時々はビリーが注意していたから。
     ベッドに横たわったグレイに布団を掛けてやる。ドラマとかでよく見る、親が小さい子にやってあげる行為のようだった。グレイはそれをにこにこと微笑みながら受け入れていた。下のきょうだいが2人もいて、甘やかし慣れているグレイだからこそ、こうやって甘やかされるのが嬉しいのだろう。普段は恥ずかしがるから、こうやって気分よく酔った時が狙い目だな、なんて思った。
     じゃあ、お水取ってくるね。そう言って、グレイの元を離れようとした。ああ、待ってビリーくん。なんでもない事のように、ゆったりとした口調で呼び止めるグレイに、ビリーは視線を寄越した。
     アルコールがまわっていたから、頬も、耳すらも白過ぎるほどの綺麗な肌を赤く染めていた。ビリーとは違う、ブラウンにオレンジを混ぜた、蕩けた瞳が映る。これもきっと、酔ってるからだろうけど、少しだけ涙が滲んでいた。その琥珀色が綺麗に歪んで、緩やかに三日月を作った。口端は上がったまま少し開かれて、そこから覗いた赤い舌がやけに鮮明だった。えへへ。グレイの口元からこぼれ落ちた音は、幸せの色をしていた。ビリーには、そういうふうに聞こえた。
    「ビリーくん、大好き」
     息が詰まる。頬を赤らめさせて、瞳をとろんと溶かして、砂糖を煮つめた甘い声でそんなことを言われたら。ビリーはもう、ばくばくと高鳴る心臓の音を無視することなんかできなかった。
     ──あれ、俺たちって、友だち? だよね?
     ビリーがグレイを意識し始めたのは、まさにその瞬間であった。肝心のグレイは、ビリーから水を受け取ることなく、そのまま眠りに落ちてしまったわけだが。


     昨夜のことを思い出して、身体の奥に溜まった熱を押し出すように息を吐いた。
     うるっさいため息。小言を言われる。フェイスは回想に夢中だったビリーを放置して、スマホを弄っていた。それから、画面から目を逸らさず、指を動かしながら、ビリーに訊ねた。
    「というか、それ、グレイが悲しむんじゃない?」
    「──ヘッ? ど、どうしてDJが知ってるの?」
    「は?」
     ぱっと顔が上がったのはお互いだった。視線がかち合う。2人して、困惑の色をしていた。
    「待って。ビリーが友だち、とか言うから、なんとなく不思議だったんだけど……。」
    「あ、待って待って。オイラ、もしかしてトンデモないこと言っちゃった?」
    「まさか、『大好き』って言ったの、グレイ? てか、グレイのこと好きになっちゃったわけ?」
     オーノー! やってしまった。名指しされたから、てっきりフェイスにはお見通しなのかと思って焦ってしまった。まあ、全部バレてしまった今では、本当に全てお見通しなわけで。
    「さっきも言ったけど、大好きって言われたんだよ? 意識しちゃうじゃん……。てか、DJは何で、グレイが悲しむと思ったの」
    「……。ほら、グレイって、何かにつけてビリーくんビリーくん、って感じしたから。そんなビリーが突然"友だち"だと思ってた別の人と付き合い始めてそっちばっか構ったら、ショック受けちゃいそうで」
     なるほど、一理ある。グレイにとって一番の友だちは、ビリーである──と、自分でも思う──。だって、はじめての友だちだと、グレイが言っていたから。ビリーにとってもそうだ。フェイスは"ベスティ"。グレイは、"友だち"。なんとなく、ふわっとしてるけど、それでも確かに、自分の中で違いはあった。
     ビリーとグレイは、友だちになった。隠し抱えていた罪が明かされて、打ち明けて、それから、許してもらった。「おかえり」と言ってくれたあの時を、ずっと覚えている。「はじめての友だち」だと言ってくれたことも、「友だち」だと言って泣かれたことも、これから先忘れることなんてないと思う。それくらい、大切な人。
     大事な友だちだった。今でも変わらない。でも、「大好き」と言われた。びび、と雷に打たれたみたいな衝撃だった。すき、好き? グレイは、俺のこと、好きなんだ? 俺も、好きだけど。アレ?
     好きの意味が、分からなくなった。よくフェイスなんかには、ふざけて大好き! って言うことはある。でも、ビリーと違って、グレイはいつも言葉に対して真摯だったから。おふざけなんかじゃないな、ってことだけは分かっていた。だからこそ、困惑して、混乱して。それから、グレイのことを、そういう意味で意識し始めてしまった。
    「DJは、誰かに本気で『大好き』って言ったことある?」
     女の子たちとよく遊んでいたフェイスは、誰かに対して真摯に向き合ったことはあるのだろうか。兄であるあの人に対してもまだ刺々しいみたいだけど、昔は、大好き! だなんて言ってたり何たりもしたんだろうか。グレイは弟妹たちから昔はよく甘えられてた、なんて言っていたから、きっと言われたことあるんだろうな。ああ、違う違う。今はベスティの話だ。
    「いや、『大好き』とか……そんなこと、言うわけ──」
    「ムム……何そのカンジ。アヤシイ」
    「……ない、ことも無い、かもね」
    「やっぱり!」
     なんとビックリ。あの女癖の悪かったベスティも、誰かに好意を伝えたことがあるらしい。そうか、大好きな人が出来たんだ。何となく、嬉しくなった。
    「あー、うるさいな。一回だけだから。一回だけ、記憶にある……」
    「誰!?」
    「……もう、やめやめ。誰だっていいでしょ。あと、ファンの子とかじゃないから」
     例えばそれがブラッドの話なら、きっとすっごく嫌そうにするから。恐らく兄に対してでは無いってことは、分かる。じゃあ誰だ? ファンの子たちじゃないという時点で、適当に遊んだ子たちの中から誰か1人、というわけでも無さそうだ。エリオス内部の人? 何かフェイスについて、変化したこと、そのタイミングは──。そういえば、ルーキーズキャンプが終わってから、フェイスは雰囲気が変わった。女の子たちと適当に遊ぶことが少なくなったのも、それからかもしれない。思えばバレンタインより少し前、DJは口を開けば「好き」としか言えなくなったことがあった。あの後のバレンタインリーグでは、いざこざがあったものの、ウエストセクターが見事に問題を解決していたっけ。──ああ。
    「なに、その顔」
    「いんやぁ? ベスティに大好きな人ができて、嬉しいナって」
    「……キモチワル」
     多分、ウエストセクターのチームメイトにでも、「大好き」って言ったんだろうな。フェイスは少し照れ臭そうに、眉間に皺を寄せていた。
     ヒドイよベスティ! はっちゃけた声を出せば、フェイスはムッとした顔をやめると、今度はふっと笑った。ほんと、柔らかくなった気がする。DJも、俺も。
    「で、ビリーはどうしたいの?」
    「え?」
    「話、ヘンに脱線しちゃったし、戻すよ。グレイに好きって言われたから好きになった。ハイ、どうするの?」
     そうだった。互いに大切な人できて良かったね。で解決するなら、そもそもこんな会話はしていないのだ。
     フェイスはウエストのみんなが大切で、大好き。でもこれは、恋愛感情は含まれないものだろう。もちろんビリーだって、グレイのことは友だちとして大好きだとはっきり言える。でも、今は少し、それだけじゃイヤだと思ってしまう。
    「友だちのままでいいの?」
    「……イヤ、かも。出来れば、お付き合いしたいナ〜、なんて」
     へらっと笑ってみせる。元気で明るいビリーワイズとして、こんなに真剣なのはちょっと恥ずかしいなあなんて、おちゃらけて見せた。
    「アハ。うん、いいんじゃない?」
     フェイスは軽い口振りながらも、存外に改まった面差しだったので、ビリーは拍子抜けた。エ、いいの? なんて聞き直すと、別に偏見ないし、どーでもいいってだけ。なんて突き放すような言い方に戻ってしまった。
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    ゆんゆん

    DONE・設定ガバガバなオメガバースパロのビリグレです
    ・後からグレイがアカデミー時代にモブから性暴力を受けた描写が出てきます
    ・時系列は10章後のつもりですが今後の展開と食い違う可能性があります。ガバガバ設定なので許してください。
    ・その他色々注意なので閲覧は自己責任でお願いします
    ガバガバースなビリグレ① 甘い、匂いが包む。

    橙色の髪を揺らしながら青年は顔を上げた。スン、と鼻を鳴らして空気を吸い込む。

    (甘い……?)

    首を傾げた。こんなに甘美に香るものが、この部屋にあっただろうかと。
    濃いオレンジ色のレンズ越しに辺りを見渡す。ルームメイトとも完全に打ち解けてゴーグルを外す頻度も増えたとはいえ、長年の癖はなかなか抜けるものではない。彼の視界は既に色づいた世界の方に慣れきってしまっている。そんなわけで今日もまた例に漏れず、彼は愛用のゴーグルでその瞳を覆っていた。
    横たわっていたハンモックから身を起こして一つ伸びをし、考える。
    自身の小綺麗なスペースに置いてあるものはだいたい把握している。ここにある甘いものといえばキャンディくらいであるが、どのフレーバーも自分が気になるほどの香りを発するものでは無いはずだ。
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