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    07tee_

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    bllの無い世界線の幼馴染みseis♀。過去捏造しまくい。seさんが比較的マイルド。受けが息するように女体化してる。初恋編。誰のとはあえて言いません。後編はkrくん登場。krくんがまたもや嫌な奴になってしまった。地の文だけどrnも出てくる。

    #seis
    stop
    #seis♀

    冴が来た(3) 冴が『レ・アール』のスカウトの一件を話した時。世一は笑っていたが、一瞬の隙間に、何か考えるような素振りをしていた。最初に気付いたのも冴だ。また世一が泣いていると身体が反応するように振り返れば、遠くを見るような目で上の空の世一がとぼとぼと付いてきている。
    「潔、ぼうっとしてると危ないよ?」
    「うん、ごめん」
     凛も世一の様子に気付いている。凛も冴に続いて世一の変化に聡いところがある。二人以上に、世一はたまに心を覗いたように鋭い。
     その夜。冴は突然、世一に告白された。
     凛と世一が先に寝入り、リビングで夜遅くまでサッカーの中継を視ていた冴は、大あくびをかきながら部屋に戻ろうとしていた。階段へと続く廊下を歩いていた時、世一が物音を立てずに階段を駆け下りて来た。
    「潔…」
     世一は冴の懐の中に飛び込んだ。冴の胸当たりの服をぎゅうっと掴み、身体を震わせ、嗚咽を必死でかみ殺そうとしている世一を見下ろして、冴は世一が泣いていると察した。
    「こわい夢でも見たのかよ?」
     昔のようにてっぺんの双葉を潰すように撫でても、世一は泣き止まなかった。
    「おい…」
     ただ事ではないと目を見張った。
    「冴が……冴が、遠くに行く夢を、見た…」
    「そりゃ、もうすぐスペインに行くからな」
     世界一になる為に。それは決定事項だ。
    「冴の夢だってわかってる……最初は、よかったって、うれしかったし、わたしもがんばるっておもった……でも…」
     ぐずり、と嗚咽交じりの声で紡いでいる間、ぽたぽたと涙がフローリングの上に落ちていく。
    「冴と、はなればなれになるの……さびしい…」
     帰り道で見たあの憂いの表情は、それが原因だったと気付く。
    「言ったろ。俺は先に行くだけって。凛とお前は後から来い。そんだけのことだろ」
     言葉を繰り返しても、世一は泣き止まない。心臓が変に緊張し出した。どくどくと。
    「――――冴が、好き…」
     息が詰まりかけて、冷たいのと熱いのとが同時に足元から心臓に込みあがった。
    「冴がずっと好き…好きだよ、冴のこと…」
     家族愛とは別の、憧れも多少含まれた、子供の初恋だ。世一は純粋に、純情に、冴に感情を向けた。その意味がわからない程、冴も子供ではない。何人もの女子から持て囃されてきたし、告白されたこともあった。けれど冴にとってはどれもこれも歯牙にかけるものですらなかった。
     でもこれは違う。誰であろう、世一からの気持ちだ。冴にとって世一は特別で。特別だからこそ黄色い声を上げるうるさい連中と一緒にしてはならないと英断を下す。
    「潔」
     凛も両親も寝ていることを幸運に思いながら、世一の両肩をやんわりと掴む。言いたいことを言い終えた世一は少し治まりを見せて、冴から離れて涙を指で拭っていた。
    「俺にとってお前は妹だ。凛と同じ存在だ。わかるな?」
    「うん…」
     目元を赤くさせながら、世一は物わかりよく頷く。
    「俺は世界一以外には興味がねえ人間だ。恋愛に現を抜かすつもりもねえ」
    「うん…」
     ぐずりと鼻を鳴らして、世一は冴を見る。丸い瞳に吸い込まれそうになるのを、足元に力を入れて耐えた。
    「今のは忘れてやる。だからお前も忘れろ。お前にはもっと相応しいやつがいんだろ」
     凛とか。今はそれしか思いつかない。口には出さなかったが、その意味を含ませた。世一は冴を静かに見つめて、言い終わるのを待ってから、答えた。
    「冴は…冴に伝えても、無理っていうって、わかってた……だからすっきりした」
    「そうか」
    「ごめんけど、ずっと冴のこと、好きでいていい?」
    「馬鹿かお前。俺の言うことわかんねえのか?」
    「だって、冴がいいんだもん。クラスの男子よりも、ずっと冴がいい。冴サッカーうまいし、かっこいいし、私にも凛にもやさしいし」
    「褒めても何にも出ないぞ」
    「だって本当のことだし」
    「お前の中で俺は随分とよくできた人間に仕上がってんだな」
    「まあちょっと口が悪くて手が出るの早いけど」
     生意気な口を脳天を叩いて黙らせた。叩かれた箇所を抑えながら、世一はふにゃりと笑みを浮かべた。その笑顔に心臓が締め付けられた気がする。
    「ごめん。もう寝る」
    「俺も寝る」
    「一緒に寝る?」
    「ベッドが狭くなるから却下」
     いつもの世一に戻った。あの一瞬のことは、冴は忘れられないでいて、そっと胸の奥にしまい込んだ。
     渡西当日に、見送りに来たのは糸師家と世一だった。家族に見送られて、冴は旅立った。夢の為に。



     一晩ぐっすり眠った後、早朝の時間に設定していたスマホのアラームで起き上がり、着替えと洗顔を終えた後にリビングに行ってみると、潔家は全員起きていたので、冴は目を丸くした。
    「早いなお前」
    「うん、六時に学校開くから、そっから朝練に行ってる」
    「そんな朝早くから行ってんのか、毎日?」
    「じゃないと付いていけないんだよ」
     そうか。と端的に返して、世一の頭を無意識に撫でた。世一はむっと口を結ばせて、子供扱い!っと反抗する。あんなに素直で聞き分けの良かったのも、大きくなって思春期に入ると口答えが増えてくる。成長の証として冴は呑み込んだ。
     とはいうもの、冴も東京まで出向かないといけないので、朝食を食べたら直ぐに出なければならない。折角なので途中まで一緒に出ることになった。
     制服の世一と私服の冴と並んで歩くと、傍から見たら関係性に疑問を持つような組み合わせである。仲の良い兄妹にも見えるし、付き合ってる大学生と女子高生のようにも見える。他人から見たら自分たちがどんな風に見えるかなんて、冴も世一も気にするような質ではないので、気にせずに道中ずっと話し込んでいた。
     道が分かれる手前で、駅に向かう冴に、自転車に乗ろうとしていた世一が呼びかける。
    「冴、行ってらっしゃい」
    「おう」
     それまで若干眠気があったのが、その一言で一気に吹き飛んだ。マネージャーが若干引いた顔で、冴ちゃん良いことあった?と訊いてくるぐらいに好調だった。冴は最後まで無自覚だった。
     東京から埼玉までとんぼ返りをして、冴は足をそのまま世一がいる学校へと伸ばした。授業は終わり、部活動時間となっていた。生徒の関係者であることを建前に無遠慮に校門を潜る。世一の気を紛らわせない距離から優れた視力で一難高校サッカー部の練習風景を見物することにした。
     一言で言うと、練習はゲボだった。なんだこのとろついたサッカーは。こいつらやってるのはサッカーじゃなくてただの球蹴りじぇねえか。本気でやってるんだったら胎児からやり直せ。俺だったらこんなとこ一日だっていたくねえ。評価基準がエベレスト級であると評判の冴の評価はかなり厳しかった。特に監督に対してが辛辣であった。何回心の中で死ねよと吐き散らしたか数えきれない。一難高校サッカー部監督が可哀想である。
     冴が世一に話しかけたのは、自主練習に入ってからだった。
     潔と呼びながらグラウンドに入ると、これからドリブルシュート練習に入ろうとしていた世一がボールを両手に持ったまま振り返り、ぱあっと破顔した。
    「わっ、冴、わあ!」
    「わあじゃねえよ。驚きすぎだ」
    「仕事終わったの?」
    「終わったからここにいんだろうが」
     そっか。汗まみれの顔がふんわりと柔らかくなったのを見て、いつものように撫でたくなった手を理性で留める。
    「今から自主練か?」
     他の部員が、やれラーメン食べに行こうだの、コンビニ寄ろうだのと、気を緩ませて一斉に帰っていくのを背景に、冴と世一はゴール手前で向かい合う。
    「うん、でも、今日はもう帰ろうと思ってたところ」
     わざわざ自主練を中断して冴を気遣っての言葉であろうことは、言わずとも悟れる。
    「するぞ」
    「え?」
    「1on1。今日一日ボール触れてねえから付き合え」
     日本の至宝からのお誘いの言葉に、世一はいっぱいに歓喜した。
    「する!」
     清々しいぐらいの即答に、冴の口元が一瞬だけ緩んだ。
     自主練終了時間ぎりぎりになるまで、1on1は続いた。世一は最後まで冴から一本も取ることが出来なくて、くっそ~と悔しさを露わにしていた。
    「どうしたら冴に勝てるんだよ?」
    「一生無理に決まってんだろ。俺を誰だと思ってやがる」
    「せめて一本は取りたいんだよ。なあ、教えてくれよ」
     程よく身体もあったまっていたので、凍てつく空気の中でも寒いと感じることはなかった。途中のコンビニでまた肉まんと茶を購入して、半分に分け合う。世一はずっと口を動かしていた。無論、話題はサッカー一択。たまに世一から冴ですら気付かなかった視点が見えてくるので、冴は世一との会話が苦痛だと思ったことはなく、時間が許す限り付き合っていた。冴と世一のサッカー談義は家に着いた後も、夕飯の後も、寝る前の時間でもずっと長く続いていた。
     世一に乞われてスペインの試合解説をしていた真っ最中だった。世一のスマホがまた震えた。今度は長く震えている。
     電話かな?と動画を途中で停止した世一はスマホの画面を見るなり大慌てし出した。
     一言もなく飛び出して、冴を自室に置いて廊下に逃げ込んだ世一の反応に、流石の冴も怪訝になる。というか、昨日からスマホを見る度、世一の反応がおかしい。
     こっそりと、扉を無音で開いて、廊下のど真ん中で電話をする世一を盗み見た。
    「ごめん…い、いま、友達が部屋に来てるから…幼馴染だよ。だから、今日は電話できないっていうか…ごめんね」
     何度もごめんと謝っているのも変だと察する。世一も気弱になって対応しているが、どちらかというと困っているような顔色だ。早めに切りたがっているのが声の調子からでもわかるのに、執拗に続けさせられているようである。
     気配を殺して世一に近づいて、背中からスマホを奪うと、そのまま画面を耳に押し当てた。
    「今何時だと思ってるこのヘボ。迷惑かけんじゃねえ」
     常識的な正論を容赦なく言い放ってから、通話を切った。
    「さ、冴…ちょ」
     冴の行動に慌てふためく世一にスマホを投げて返した後、腕をがっしりと掴んで、世一の部屋に世一を連れ込んだ。
    「…で、今の誰だ?」
     今しがた肩がつくかつかないかの距離でサッカー談義をしていた場所で、向かい合って座り込んだ。両腕を組み胡坐をかいて顎を上げる冴の向かいで、正座をした世一は縮こまっている。
    「その…最近できた、友達…」
     目線を逸らして口ごもる世一を、冴は、ふうん、とわざと冷たく漏らした。
    「そのお友達とやらにお前は媚びへつらうようにしきりにごめんを繰り返すのか?」
     伊達に世一が生まれた時から共に過ごしてきた仲なのだ。世一の心理を読むなんて冴にとって造作もないこと。世一は解りやすいぐらいに肩を跳ねらせた。
    「誰にも絶対に言うなよ…話してないんだから」
     冴は強く出た訳ではなかったし、世一が言いたくないのなら言いたくなるまで待ってやる気概でいたのだが、そろそろと伺い立てるような上目遣いで、世一は語り出した。
    「さっきの人……吉良涼介っていうんだよ。私と同じ高校生で、FWで、同じ県のストライカー……日本サッカー界の宝って呼ばれてる人」
    「ふうん」
     至極どうでもいい。こんな弱小国で宝だのなんだのと呼ばれていようともヘボのヘボだ。というのが冴の偏見である。
    「先月の県予選の決勝戦で、吉良君と試合して…その後、合コンで鉢合わせたっていうか…」
     合コンという言葉に、冴は無意識に反応した。
    「お前それ一人で行ったのか?凛は?」
     この時の心理として、自分の知らないところでどこぞのヘボ男なんぞに妹を誑かすなんて許さねえ、というものだったのだろうと冴は後付けする。
    「は?凛?何で?」
    「お前はまだ餓鬼だから知らねえだろうが、碌な知り合いもいねえ場所に一人で行くのは自殺行為だ」
    「いや、誘ってくれたのは同じ高校の友達なんだけど…」
    「お前みたいなぽやぽやは餌食にされるのがオチなんだよ。今後は断るか凛を同伴しろ」
    「凛を呼ぶわけないじゃん!他校だし他県だし人見知りだし!」
     冴と世一以外の人間に対しては塩対応で馴れ馴れしくしようものなら殺気立って威嚇する凛のあれを人見知りで片づける世一も潔母の天然ぶりをしっかりと受け継いでいる。
    「で、お前はそのなんちゃら君という奴の餌食になってるってことか?」
    「吉良君ね。日本サッカー界の宝ね」
    「付き合ってんのか?」
    「違う!」
     世一は食い気味に否定した。
    「確かに付き合おうって言われたけど、断った!これマジだから!本当に付き合ってない!」
    「そうか」
    「本当に本当だから!」
    「わかったから落ち着け」
     必死に否定を重ねる世一をぴしゃりと言いつける。世一はしゅんと肩を落とした。
    「友達でいいからってことで、ライン交換したんだけど……毎日メッセージが来るようになったっていうか。この前は突然遊びに誘われて、他の子も一緒だからって言うから行ってみたら、みんなドタキャンしたって吉良君と二人きりになってた…それが続いて…吉良君も友達に私のこと彼女だって紹介してたらしくって…」
     冴は天井を仰いだ。ダメだこいつ完全にカモられてるじゃねえか。全然進歩してねえ。警戒心ってものを母親の胎内に置き忘れてやがる。昔っからぽやぽやしてるかピーピー泣いてるかのどっちかだったな。やっぱり一人にするのは危ない。常に見ておかないとキリがねえ。だが活動拠点がスペインである冴でも世一の傍にいるなんて不可能。こうなったら凛を常時付けさせておくか。いっそのことGPS着けるか?そんな犯罪紛いなことをしたとばれたらおじさんとおばさんになんて説明する?――――いや大丈夫だなあの二人なら。こっそりつけたのがばれても世っちゃんのこと気にかけてくれてありがとうね~しか思わないだろう。あの天然夫婦なら。
    「冴?どうしたの?」
    「いや…」
     冴の心情なんてこれっぽちも気付いてないであろう鈍ちん世一の頭を叩いてやりたいが、静かに深呼吸をして理性を働かせた。
    「潔」
    「はい」
    「いいか、よく聞け。お前のするべきことは二つだ」
     ピッチの上に立っているような緊張感が孕んだ空気の中で、冴ははっきりと物申した。
    「今すぐそのヘボに付き合うつもりはねえから二度と連絡すんなって言うこと。そいつの連絡先を全部消すこと。いいな?」
     それが最適解だと、世一も気付いている筈だ。だが、世一はうっと固まった。
    「最初の時にはっきりと言ったよ。付き合うつもりはないって」
    「どうせお前のことだから曖昧にぼやかしたんじゃねえのか?」
    「違うって!」
    「向こうのつけ入る隙を与えんな。男ってもんはな、自分に好機があると踏んだらつけあがる生き物だぞ」
    「だから、好きな人がいるからって、断った!」
     一瞬だけ空気が固まった。声を荒げてしまった世一は途端にふしゅうっと茹で上がり押し黙る。冴は遠い眼をした。
    「…………結局お前付きまとわれてんじゃねえか」
    「付きまとい、なの、これ?」
     なんて世一が言うものだから、冴は堪えきれずに強めに頭を叩いてしまった。痛い!と叫んで、世一は両手で叩かれた箇所を抑えて悶えた。
    「だったら連絡先消せ。二度と会うんじゃねえ」
    「いやいや。同じ県内でプレーしてんだからそれは無理だって。何かの拍子で会った時にどんな顔しろっていうんだよ?世間って狭いんだぞ」
    「知るかんなもん。サッカーで黙らせればいいだろ」
    「それができたらとっくにやってるっての…」
     ぶつぶつと小言を言ったかと思えば、世一は何かを閃いたように目を見開いた。
     逡巡するように冴を一点に見つめる世一の視線に、冴は嫌な予感を覚えた。
    「ねえ、冴…お願いがあるんだけど」
     無欲な世一がおねだりすることはほとんど無かったので、もしこれがこういう状況では無かったらなんでも聞いてやる姿勢になっていただろう。だが、状況が状況なだけに予感が拭えないし、世一が何言ってくるのかも予想できないでいたので、さらに掻き立てられてしまう。物理で黙らせるのは簡単だが、家族同然の感情を持っていた為、それが出来ない。
    「一日だけ、彼氏の振りしてくれない?」
     予感的中。冴は思いっきり嫌な顔をした。
    「………………一応聞いてやるが、何するつもりだ?」
    「吉良君に彼氏がいるから付き合えないってはっきり言う」
     さもこれが最適解だと目をきらめかせる世一の頭の中が、冴は心配になってきた。
    「んな見え透いた嘘で騙せるとは思わねえが?」
    「そこはなんとか誤魔化す。一日だけだから、お願い!」
     本当に世一は遠慮の塊で、直ぐ兄に甘える凛とは反対にやってもらいたいことがあっても口に出すのが苦手だったから、冴が読み解いてやることでやっと甘えるような奴だった。手をつなぐでもアイスでもなんでも。冴は世一も凛のように甘えてくれることを何度も期待した。期待をしてそれから何年も経過して――――やっとかと思ったら、なんとも頭痛のするお願いである。
    「てか何で俺なんだ?」
    「だって冴はかっこいいし、冴連れて行ったら吉良君も納得してくれると思う」
    「彼氏の振りをするだけなら凛でもいいだろうが」
    「凛はダメだろ!凛に何かあったらどうすんだよ?」
     むしろ何があるっていうのか。あの歩く核爆弾みたいな弟を相手にするなんざ、余程血の気の多い馬鹿しかいない。世一の中では凛はまだ小さい弟なのか。ぽやぽやしていたのが今や身長百八十六センチの平時仏頂面のコミュニケーション能力が欠如した問題児と成り果て、喧嘩だって世一に絡んでいたチンピラを追い払うぐらいには強くなったあいつを、今でもぽやぽやにしか見えていないのか。世一の頭の中は一体どうなってる?
    「ねえ、冴、お願い…」
     袖をぎゅっと軽く引っ張って、上目遣いで懇願する世一――――滅多に甘えない世一が稀にするこの仕草に、冴は滅法弱かった。
    「…………………………………………………………………………一日だけだぞ」
     不本意ながらも頷くと、世一の顔が緩んだ。
    「ありがとう、冴」
     安心しきったように笑うこの笑顔にも、冴は滅法弱い。昔から、冴は世一のお願いに勝てたことは一度も無い。
     早速その日本のサッカーの宝という人物にメッセージを送り、予定を合わせ、作戦を練っていた最中に、世一がそわそわし出した。
    「なんだ?」
    「あ、いや…」
     問うと世一は頬を赤らめて、しょぼしょぼと小さくなる。
    「振りって分かってるんだけど……振りでも、冴と付き合えるのが、うれしくて…」
     色づいた目をわずかに伏せて口ごもる世一を冴はじいっと見つめ、冷静に突っ込む。
    「お前はそんなんでいいのか?」
    「うん、充分」
    「安上りだな。自分の価値を見誤るな」
     世一はまるで解ってないように、頬にほんのりと熱を乗せながら、口元を緩ませる。
     世一の相貌は確かに特別に可愛いとはないだろう。冴が可愛い妹だと思うのは、長い付き合いの中で何度も救われた、世一のその包容力と影響力の強さに起因している。
     世一は冴のことを優しいのだと言った。だけど、それは間違いだ。冴が優しいのは、世一だからこそだ。世一に向ける感情は、凛とは違うものだ。
     世一の頭を撫でると、今度は跳ねのけられずに、ふにゃりと笑った。その笑顔がまた、冴の淡泊な胸の内を軽くさせた。
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