たった1つの鉛玉で
父はただのガラクタに成り果てた。
間もなく動きを止めるだろう拍動が、空けられた穴からごぽりと気味の悪い音を生み出した。
とぷとぷと溢れる赤黒い液体がゆっくりと足元で血溜まりを広げていく。
ぼろぼろと大粒の涙を垂れ流す弟の叫喚はソレに比例するよう声量を上げた。
地に伏した男の髪を掴みぞんざいに持ち上げると、ぬるりとした感触が混じり、つい、眉尻が跳ね上がる。
穢らわしい。
次第に温度を失うソレの首筋にひたりと指先を添えれば、弟がまるでバケモノでも見るかのように恐怖と絶望を眸に浮かべてこちらを見上げたが、自責の念などひとつも生まれやしなかった。
脈打つ度にずきずきと頭が割れるように痛むのは何故だろうか。
それは恐らく、鼓膜を突き破らんばかりに響いた重い銃声の為だろう。
喉がきりきりと締め上げられるように息苦しいのは何故だろうか。
それは恐らく、不慣れな能力に無理矢理断たれた男の首の断面が、想像以上にグロテスクだった為だろう。
なぁ、ロシナンテ。
お前が父と呼んで泣いて縋るコレは、おれとお前が在るべき場所へ帰る為のただの鍵じゃないか。
だから泣くなよロシナンテ。お前の泣き声は頭に響いて仕方がない。
さて。
結果としてソレは鍵にもなれなかったわけだが。
何の役にも立たぬただ重いだけのガラクタが、鈍い音を立て地面に転がった。
もう一方で、いやだいやだとぐずっていた弟の腕が、遂にこの手からふりほどかれた。
掌ふたつ、覗いたところでソコにはもう何も遺されちゃいない。
おれはなにを間違えた?
いいや、間違えたのはコイツだろう。
蹴り上げた男の頭部が虚しい音を立てながら転がっていく。
そのうち意地汚い鴉共に肉を、目玉を剥がれるだろうが構うものか。
ただのガラクタ相手に、憐れむ心や、悔やむ心を持つ必要なんてないだろう。
おれの愛した父は故郷を離れたその瞬間に死んだのだから。
ああ、それなのに何故だろう。
いつまでも、頭が痛くってかなわないんだ。