艇に戻ったら猫耳生やしたままのアグロヴァルがいた。ノックに対する返事を待たずに開けた扉を、文句が飛んでくる前に後ろ手で閉める。
船室の壁に造り付けられた机に向かっていたアグロヴァルは何かしら言おうとしたらしい口を閉じ、何事もなかったように手元の書面へ視線を戻した。
元々、艇への滞在はひと晩のみの予定のところへ、ほとんど間髪入れずに書状が追ってくるのだから一国の領主は多忙である。
「この後また街へ降りるのか?」
「いや」
ジークフリートがもう二歩ほど室内へ踏み込んでも相変わらず視線は寄越されないが、歓迎されないだけで追い出す気もないようで返事はちゃんとある。
おかげで、部屋の扉を開けた瞬間に目に入った珍妙な光景の理由を、アグロヴァルに尋ねることができた。
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