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    rosso_addict

    @rosso_addict
    犬辻のDom/Subユニバース長編書いた人。
    荒奈良も書きます。

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    荒奈良WEEK24開催おめでとうございます!
    2022年の荒奈良合同誌に寄稿した過去作をWEB再録します。遠征直前に奈良坂に別れ話を切り出される荒船の話です。

    #荒奈良
    rough-off-the-beaten-track

    静態のリスク 遠征試験前、荒船と奈良坂は時間を惜しむように一緒に過ごした。学校の帰り道、本部の狙撃用訓練施設やトレーニングルームで。奈良坂は口数の多い方ではないが、それでも荒船の話に耳を傾けて、時折柔らかく微笑む。その表情を見るだけで、荒船は十分幸せだった。
    訓練帰りに寄ったファーストフード店で、奈良坂はポツリと言った。
    「別れましょう、俺たち」
    「は? 」
    まさかこんな形で別れを切り出されるなんて思ってもいなかった。
    「……理由、聞かせろよ」
    ついぶっきらぼうな声を出してしまって、荒船は前髪をかき上げため息をついた。
    陽気なBGMとは裏腹に二人の間に重い沈黙が流れる。
    「俺のせいで、あなたが弱くなるのは見たくない」
    「なんだよ、弱くなるって」
    今シーズンはランク戦の戦績こそ奮わなかったが、それは玉狛第二という台風が吹き荒れたせいで奈良坂とのデートにうつつを抜かして隊の連携を疎かにしたつもりはない。狙撃手としてのソロポイントだって着実に伸ばしている。
    「俺は、一人でも大丈夫です」
    「オイ、勝手に話進めんな」
    乱暴に肩をつかむと強く唇を噛んだ口元と、今にも雫が零れ落ちそうな目元が荒船の視界に飛び込んできた。
    「……俺も、荒船さんといると弱くなる。そんな自分を俺は許せない」
    苦しげに絞り出された言葉に、奈良坂の肩をつかんでいた左手から、力が抜けていくのがわかった。

    〇 〇 〇

    「うお、暗っ! 」
    降り立った先で半崎は危うく転倒しそうになった。
    「夜間設定か」
    荒船は帽子のツバをつかみ目深にかぶり直す。転送された先の市街地はまっ暗な闇に包まれていた。ビルや街灯の灯りも全て失われている。
    『こちら東。みんな驚いたか? 今日の狙撃手合同訓練は停電下の夜間市街地を想定して行う』
    内部通信で全員に東からのアナウンスが通話されると、右往左往していたC級隊員達も少しずつ落ち着きを取り戻しているようだ。
    『これからランダムに出現するビーコンを狙ってくれ。今回に限っては人型の的は狙わない。人型は民間人の代わりだ。誤って撃たないように気を付けてくれ。五秒後に視覚支援が入るぞ』
    生唾を飲み込む音がごくりと体内に響く。
    『五……四……三……二……一……視覚支援、オン』
    東の合図と共に視界がクリアになる。同時にマップ上に各隊員の位置が表示される。試しにバッグワームを起動すると自分の位置がマップ上から消えた。
    「なんだ? 他の隊員を妨害してもいいってことか? 」まるでランク戦のような表示に荒船は首を傾げた。『全員、大規模侵攻のことを思い出してくれ。近界民はいつ襲撃してくるかわからない。非常時に自分の隊員が全員揃っているとは限らないぞ』
    「即席チームッスか? うわ、ダルっ」
    目視できる範囲にいる隊員は自分と半崎以外はC級隊員ばかりのようだ。
    『周囲の隊員で五名から十名の即席チームを作ってくれ。隊長はB級以上、C級隊員を三名以上加えること。隊長が決定次第こちらからオペレーターと接続させる。なにか質問は? 』
    『こちら荒船。他チームの妨害や一度組んだチームの解散や組み換えは可能なんスか? 』
    『質問が二点あるな。まず、他チームの妨害は不可だ。近界民が襲撃してきた時に仲間割れは論外だからな。むしろ協力を推奨する。二点目、一度組んだチームの解散や組み換えは自由だ。ただ、C級隊員が三人以下の状態が十分以上続かないよう気をつけてくれ。俺からは以上だ。他に質問は? 』
    『こちら当真。東さん、おもしれー訓練考えるじゃねえか。ビーコンを撃った数だけ点数になんの? 』
    当真の質問を聞きながら荒船はレーダーと周囲の実像を見比べる。おそらくマップは市街地A。的の数はそれほど多くないから順次追加投入されるかもしれない。
    『いい質問だ。ビーコンを撃った数はポイントになるが、それだけじゃない。訓練終了後に全体を振り返って適切な対応だったか話し合ってもらう。撃破数、実際の行動、終了後のディスカッションの三点合わせての評価だ』
    『当真、了解。一筋縄じゃいかねえなあ』
    『はは、面倒くさいと思ったか? 』
    アタリ、と当真の声が聞こえたような気がした。
    『点数や評価はあまり気にはしなくていい。どちらかというと防災訓練みたいなもんだ。危機的状況にいかに対応するかを心がけてくれ』
    『『『了解』』』
    内部通話を聞いていた半崎もマップを見ながら「なんかゲームのマルチプレイみたいッスね」と呟いた。「穂刈はこの辺にはいねぇみたいだな。どうする半崎? 隊
    長やって自分のチーム作るか? 」
    荒船は口角を上げた挑戦的な表情で聞いたが、
    「んなダルいのやってらんないッスよ。荒船さんのとこ入れてください」
    と半崎が言ったのでチームに入れることにする。周りのC 級隊員を三人集めればもう即席チームの条件はクリアだ。
    『こちら荒船。チームを組みました。隊長は俺です』
    『早いな。オペレーターと接続させる。以降は基本的にオペレーターを通じて報告してくれ』
    『了解』
    これはさっさとチームを組んだ方が早く動きだせそうだ、と思っているうちにオペレーターからの内部通信が入る。
    『ども~、小佐野です。荒船さん、今日はよろしく』
    『小佐野か。よろしく頼むぜ』
    東はおそらくオペレーター全員に声をかけて狙撃手・オペレーター合同訓練の形を取っているのだろう。
    諏訪隊にスナイパーはいない。普段の、加賀美のようなスナイパー有利のオペまでは期待できないかもしれないが対応していくしかない。
    あちこちでチームが組まれているらしく、内部通信が飛び交っている。
    『こちら奈良坂、チームを組みました。隊長も俺です』
    『了解。オペレーターと接続させる』
    一番近いチームは奈良坂の隊のようだ。自分のように古寺と組んだのだろうか。
    『体制が整ったチームから戦闘開始を報告して撃ち始めてくれ』
    東の号令を聞くとすぐに荒船は小佐野へ通信した。
    『荒船隊、戦闘を開始する』
    『りょ~かい』
    『で、どうするんスか? とりあえずビーコン撃てばいいっスか? 』
    半崎に方針を問われた荒船は即席チーム全体に通信が聞こえていることを確かめ、指示を出す。
    『そうだな。まずは一つずつ撃って確実に数を減らすぞ。小佐野はC級の命中率カウントしといてくれ』
    『ほいよ~』
    まったりした喋り口調にどうもペースが狂う。苦笑しながら荒船も撃ち始めた。
    荒船と半崎は速さ、正確性共に問題なく撃てるがC級隊員たちは正確さにややバラつきがあるように見える。
    周囲でもチームができあがってきたようで、小佐野がマップ上に情報を追加していってくれる。
    (奈良坂はどこだ? 近いのか? )


    〇 〇 〇

    遠征選抜試験の前に実施されたアンケートで、初めて回答に躊躇した項目があった。
    『あなたは遠征への参加を希望するか? 』
    荒船はいつもなら迷うことなく『いいえ』を選択してきた。近界民を倒したり、黒トリガーを奪取することは大事かもしれないが、その間は誰が三門市を防衛するのか。そう考えて街を守ることを優先してきた。その気持ちが、初めて揺らいだ。
    (奈良坂は、たぶん行くんだろうな)
    お好み焼きかげうらで、絵馬にかけた言葉を思いだす。
    (自分で遠征に行って、自分で守ってやりゃあいい)
    奈良坂は狙撃手でもランキング二位の実力者だ。雨取のように守ってやる必要はないかもしれない。それでも、遠征中は何が起こるかわからない。その時、自分はそばに居てやらなくていいのか?
    選抜試験までの少ない時間を惜しむように二人で会っても、そのことが気になってふとした瞬間に難しい顔をしてしまう。
    「あの、荒船さん? 」
    「ん? ああ、悪りぃ。考えごとしてた」
    奈良坂はそれを咎めるでもなく、目を伏せて荒船の様子を伺うと、そっと肩に頭をのせてもたれかかった。
    「別に。こうしているだけで、十分です」うわの空を咎めるでもなく、無理に聞き出そうとしないでいてくれることが荒船には心地よい。アンバーブラウンの髪が落ちるさらりとした音が、耳に届く。
    奈良坂に遠征に行くなと言うつもりはない。それは奈良坂自身が決めることだ。荒船がそれを求めるつもりがないのなら、後はもう自分がどう決断するかの問題でしかない。

    〇 〇 〇

    初めは比較的固まって動いていたビーコンが、徐々に分散して動き始める。民間人を想定した人型の的と混じると狙いにくくなるのは明らかだった。
    『荒船さーん、C級隊員達の命中率下がってきてるよ』
    「了解」
    小佐野の報告を受け、荒船は自分の即席チームへと振り返った。
    『C級隊員は今から射線を固定して撃て! 壁とか細い路地とか、極力人型の的と近接しない、自分で撃ちやすいポイントを探して、そこにビーコンが来た時だけ撃ちゃあいい』と指示を出す。
    「……一つのマップに狙撃手全員ってのはなかなかの密度だな」
    いつものランク戦では絶対目にしないであろう数の狙撃銃の光が流星のように夜間の街を貫いている。
    と、その時住宅街で炸裂弾が閃いた。
    「炸裂弾(メテオラ) 置き弾か」
    小佐野が荒船が指示するより先に判明している炸裂弾の位置をマーキングしてくれてマップ上にほぼリアルタイムで爆発した位置が現れていく。
    動揺する隊員達に呼びかけのアナウンスが入ってきた。
    『こちら東。マップ上にランダムに仕掛けられた置き弾が爆発したようだ。今の爆発で、民間人役の的が八体被害を受けた。置き弾で民間人の被害が出ないよう各自対処してくれ』 仕掛けたのはおそらく東だろうが、実際の起動役は別の隊員、一人ではなく複数の可能性もあると荒船は考えた。狙撃手以外だとワイヤーによる起動か、射手トリガーによるものか。
    『俺は下で置き弾探してくる。半崎、こいつらの面倒頼む!』
    荒船がそう言うと半崎からは、
    『ええ 俺が面倒みるんすか』とブーイングが返ってきたが、
    『他にいねえだろ』と言う他ない。
    狙撃位置の高台から駆け下りて、住宅街の入り組んだ道路へと向かった。
    ビーコンに攻撃機能はないので、どれだけ近づいても問題はないが味方の射線に入らないよう気をつけなければならない。
    置き弾は見つかって処理されればそれまでだから、おそらく高台や建物から死角になる位置に仕掛けてあるはず。壁や塀に沿って走っていくが一人でマップ上全てを走り回るのは現実的ではない。
    『こちら荒船! 置き弾探しに人手が欲しい! 射線読めるやつは降りてきてくれ! 』
    他のチームに呼びかけると、置き弾の対処については同じ
    考えの者も多かったようで、
    『了解』
    という声がいくつも返ってきた。小佐野からも、『荒船さん、オペレーターマップ共有していい?』と提案の通信がくる。
    『おう、頼む』
    すぐに共有された情報がマップ上に表示されていく。すでに爆発が確認された位置に置き弾はないだろうと踏んで、空白地帯へと走っていく。
    (実行役の隊員は誰だ? 木虎か? 三雲や蔵内って可能性もあるな)
    鉢合わせになれば、戦闘開始は免れない。東に許可を求めようとした時、声が届いた。
    『荒船さん、二時の方向に十五度動いてください』
    静かだが、はっきりとした声は内部通話でも誰の声かわかった。
    返事をするより先に狙撃音が荒船の耳を切り裂き、数メートル先の置き弾が爆発する。
    『……さすがだな、奈良坂』
    発射方向を向くと建物の屋上で一瞬だけバッグワームの裾がひらめく。
    『いえ。置き弾の法則性はだいたい読めてきました。移動します』
    『了解。ビーコンもなるべく減らしてくれ』
    『奈良坂、了解』
    背中を見送ることに不安はない。そうだ、戦場ではあいつと背中を預け合えるような関係になりたかった。
    守ってやりたいわけじゃない。奈良坂に頼られるような、あいつを信じてやれる自分でいたかったはずなのに。
    「チッ情けねぇ」
    舌打ちすると、気持ちを切り替えるように東へ内部通話を入れた。
    『東さん、こちら荒船。置き弾を爆発させてるヤツを見つけたらそいつとの戦闘は許可されますか? 』 東から返ってきたのは意外な内容だった。
    『戦闘は許可しない。民間人役の的の保護とビーコンの撃破を優先してくれ』
    『……荒船、了解』
    眉根を寄せ納得できない気持ちを押し潰すように通話を切ると、今度は東から全員へ向けた通話が聞こえてくる。『あと数分でビーコン内のトリオンが切れる。そこで訓練は終了だ。現在、ビーコンの撃破率は約六十五パーセント。民間人役の的の被害は約十二体とみられている。混乱した状況だが、上手く対応してくれ』
    東のアナウンスを受けて、ラストスパートをかけるべく、荒船も周囲へ通話を飛ばす。
    『置き弾の処理はここで終了するぞ! 下に降りてきたやつ
    も戻ってくれ! 今からはビーコン優先で撃つ』すぐに周囲から
    『了解』
    という声が複数返ってきて、マップ上で隊員が移動していくのが見える。
    荒船もイーグレットを構えるが人型の的とビーコンがわさわさと入り乱れながら動いていてどうにも撃ちにくい。(ワイヤーか、固定シールドかなんかで一まとめしちまいてぇぜ)
    実際の戦闘なら民間人は避難場所へ誘導することもできただろうが、仮想のマップではそうもいかない。逃げ惑う一般市民を想定した人型の的の厄介さは、想像以上だった。
    敵を倒すだけでなく、守りながら戦うことの難しさを肌で感じながら、荒船はビーコンが停止するその瞬間まで撃ち続けた。

    〇 〇 〇

    「お疲れさん。 映像で確認するぞ、大会議室へ移動してくれ」
    スピーカーから東のアナウンスが聞こえる。荒船は勢いよ
    く起き上がると、
    「悪い! 先に行く! 」
    とだけ声をかけ、三輪隊の隊室へと走った。
    言いたいことがある。
    確かにお前と付き合って、悩んで、それは頼りなく見えたかもしれねえ。
    けど、このまま別れて、元の強さに戻って、それは本当に強いのか? 弱さから目を反らしただけじゃないのか?
    「……奈良坂! 」
    三輪隊の作戦室から出てきた奈良坂を呼びとめる。
    「荒船さん」
    驚いた顔でこちらを見る奈良坂に、荒船はどう話を切り出そうかと肩で息をしながら数秒、考えた。
    「俺は、強くなる。今よりもっと、だから」
    奈良坂の肩を強引につかんでにらみつける勢いで強く見つめた。
    「遠征行っても、離れても、心だけ、俺にくれ」
    もちろん、俺のもやる、と整わない息のまま切れ切れに伝えると奈良坂は眉を歪めて、唇を震わせた。「そんなもの、もう荒船さんのものになってます」
    「じゃあ、別れるなんて言うなよ。もっと足掻いて、悩んで、そうすりゃもっと強くなる。奈良坂の背中を押してやるくらい、強くなってやる! 」
    奈良坂は荒船の勢いに圧倒されたように目を丸くしていた。
    「そうか……。そうですね。悩んでも、不安になってもそれを踏み台に強くなれるなら、俺もそうでありたい」
    夜間設定の仮想空間から昼間の室内へ出て、まぶしさに目がちかちかと灼ける。
    「もう、俺のせいで弱くなったなんて言うんじゃねぇぞ」 荒船の言葉に、奈良坂も深くうなずいた。



    END
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