波形の特徴 狙撃手の訓練場で、そいつはいつもブースに居た。
忍耐強さが求められる狙撃手の性質なのか、何時間でも平気で撃ち続けている。淡い色の髪と整った横顔が乱れることはない。
「加賀美、ちょっと教えてくれ」
「なにー?」
俺は好奇心から加賀美に手伝ってもらい、訓練データをボーダー支給の端末で解析できるようにしてもらった。
「よぉ、奈良坂。ちっと顔貸せ」
「……なんですか」
相変わらずブースでど真ん中を撃ち続ける奈良坂が怪訝な顔で俺を見上げた。
「お前のその訓練データ、解析したら面白れぇ結果が出るんじゃねぇか?」
他人のデータを勝手に引っ張る権限はねぇから奈良坂に俺の端末からログインさせて、データを連携させる。
訓練場内の使用履歴や命中率が膨大な量のデータとなって流れ込んできた。
「多すぎだろ!」
端末の容量がすぐに埋まっちまうので直近一ヶ月に絞り解析し直す。
「見ろよ」
グラフに表示し直したところでようやく奈良坂も興味を示した。
「三時間以上連続で撃ち続けた時は明らかに命中率が落ちる。精密射撃の訓練をするなら前半にもってくるべきだ」
他にも訓練データから苦手な状況や得意な撃ち方が見えてくる。気がつきゃ奈良坂の訓練メニューの組み方について熱弁を振るっちまっていた。
「……その、ありがとうございます。」
控えめに礼を言われて、初めて俺ばっかり熱くなっちまってたことに気がついた。つい、帽子のツバを下げる。
「いや……がむしゃらに練習してても、強くなんねぇからな」
「わかってます。練習量だけじゃ、才能には追いつけない」
「どうせなら、効率良くやろうぜ?」
俺が拳を突き出してみせると、奈良坂は一瞬目を丸くして、俺の拳に自分の拳を打ち合わせた。
キレイな顔に似合わねぇ、ガサガサの指先だけが俺とそっくりだった。
END