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    rosso_addict

    @rosso_addict
    犬辻のDom/Subユニバース長編書いた人。
    荒奈良も書きます。

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    荒奈良アドベント企画に提出させていただいた作品2本です。

    #荒奈良
    rough-off-the-beaten-track

    ジンジャーボーイ/初雪のプレゼントジンジャーボーイ

     トリオン体は生身の痛覚や不快感をオフにできる便利なものだけど、それでも12月ともなると寒さが堪える。
     荒船が自動販売機の前でホットの緑茶とほうじ茶、どちらにしようかと悩んでいると、
    「お疲れ様です」
    と奈良坂が声をかけた。
    「おう、お疲れ」
    ほうじ茶のボタンを押して、ペットボトルを手にとるとついでにもう一本分小銭をいれる。
    「お前もなんか飲むか? 」
    「ありがとうございます。じゃあ、同じやつで」
    「了解」
     ほうじ茶のボトルを渡してやると、交換するように透明な袋に入ったクッキーを渡された。
    「途中のパン屋で買ったんで、よかったら」
    「お、うまそうだな」
     赤いリボンをほどいて、取り出してみるとひとの形をしたジンジャーボーイクッキーで、かわいらしい顔がアイシングで描いてある。
     かじるとジンジャーのピリッとした辛みと、スパイスの香り、砂糖の甘みが口に広がっていく。温かいほうじ茶を飲むと腹の中からじんわり温かさが伝わってくるようだ。
    「これ、牛乳がほしくなりますね」
    「ここの自販機、ラテがねぇんだよな」
     お茶に牛乳を入れた飲み物というものを敬遠してきた荒船が、奈良坂の影響で飲むようになったのはつい最近のことだ。
     袋の中に残ったジンジャーボーイの顔が、一枚だけ笑顔でなく眉を上げて口をヘの字に曲げている。負けん気の強い横顔をちらりと見た。
    「……」
     小さく笑う奈良坂を見つけると、荒船も口角を上げて肘で小突く。
    「なんだよ」
    「いえ、少し似てるなと思って」
    「誰にだよ。俺か? 」
     大きな手のひらで奈良坂の髪が乱暴にかき混ぜられる。
    「すみません、つい」
    「お前だってしかめっ面だろっ」
     ヘッドロックを仕掛けられ首に鍛えられた腕がぎゅっと巻き付く。圧迫感と笑い声で苦しくなりながら奈良坂はそうだ、と気づいた。
     狙撃手として常に冷静でいようとしてた。こんなに笑う人間じゃなかった。
     きっとジンジャーボーイの香辛料に温められているんだろう。

              END





    初雪のプレゼント

     防衛任務を終え外に出ると、生身に冷気が染み渡る。吐く息が白い。
    すっかり暗くなった空を見上げれば、アッシュグレーの雲が薄くかかっている。
    「お疲れ」
    「荒船さん」
     目を丸くする奈良坂に、荒船は帽子のつばをつかんだ。
    「送ってく」
     フライトジャケットの裾に隠すように掴まれた手が冷たくて、奈良坂は思わず呟く。
    「外、寒かったんじゃないですか? 」
    「まぁな。予報見て、つい出てきちまった」
    「予報? 」
     首を傾げる奈良坂を見て荒船はニッと笑った。
    「今夜、初雪降るかもしれねぇんだと」
    「雪。もうそんな時期なんですね」
     他愛もない理由で寒空の下、ボーダー本部まで来て、待ってくれた。奈良坂の張詰めていた表情もほころぶ。
     白い息とともに空を見上げるが、まだ初雪の姿は見えない。雲の切れ間から小さく星が瞬いて、冴え冴えとした寒さを思い知る。
    「もうすぐ年末だな」
    「その前にクリスマスがあるでしょう」
    「まあな。なんか、欲しいもんでもあんのか? 」
     荒船に顔をのぞきこむように聞かれて、奈良坂もつい顎を引いて顔を伏せる。なんだか、子ども扱いされたみたいで癪だったのだ。
    「欲しいものなんか、無いです」
    「はは、欲がねぇな。俺は免許と車欲しいぜ」
    「免許と車」
     どちらも自分からはプレゼントできそうにない。
    「歩いて迎えに来るより、車の方が格好つくだろ」
    「そんなことないですけど……」
     目標を真っ直ぐ遂行する荒船のことだ。来年の今頃にはもう自在に乗りこなしているかもしれない。
    「車はオフロード車とかですか」
     非常時に警戒区域内を走る可能性があるからか、ボーダーの駐車場には市街地の駐車場らしからぬ大きなタイヤで車高の高いワイルドな見た目の車が多い。
    「当然、と言いてぇとこだが最初は安いヤツだろうな」
     ハンドルを握る荒船はきっとかっこいい。奈良坂も一年待てば追い付ける未来だ。
    「……あの、荒船さん」
    「ん? 」
    「欲しいものとは、少し違うんですけど」
     繋いだ手がにわかに熱くなる。頬を撫でる外気は一段と寒さを増しているのに、荒船のジャケットに匿われた手だけがこんなにも温もりを持っている。
    「またこうして二人で、歩きたいです」
    「おう」
     優しい眼差しを向けられて、胸の内までじんわりと暖かくなってくる。
    足元のコンクリートに白い雪片が舞い降りた。

    END
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