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    magic_flowerd

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    王子と騎士

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    1000年後のカイアサの朝
    めちゃくちゃ捏造です

    #カイアサ

    1000年後のカイアサ(1)夢の中で鳥が唄っていた。陽気で、明るい鳥だった。窓から射す太陽の光が、瞼の内側をじんわりと赤く染めていく。柔らかいベッドシーツに指を寄せて寝返りをうつと、珈琲豆の香りが鼻をくすぐった。

    「う……ん、朝か…」

    重い瞼と気だるい体をゆっくりと起こそうとすると、ぼやけた視界の隅で人影が揺らめき、こちらに近づいてきた。そのまま額に口付けられて、心地良さに再び目を瞑りそうになると、大きな掌が優しく頭を撫でた。

    「おいおい、二度寝か?」

    人影の主はカインだった。恐らく彼もベッドから出たばかりなのだろう。指先で触れたシーツの上にはネクタイと、黒い隊服の上着が乱雑に置かれている。
     
    「ん…カイン、今何時だ?」
    「十時だよ」
    「…すまない…随分寝てしまったようだ」
    「気にするなって、ほら、コーヒー」
    「…ああ…、いい香りがする、ありがとう」

    カインの両手には大きめのマグカップが握られている。熱いぞ、と慎重に渡されたその片方を受け取ると、手のひらにじんわりとした熱が伝わった。

    「…あたたかいな」

    昨晩、身体中で感じていた熱を思い出させるような、そんなあたたかさだった。無意識に頭に浮かんでしまった情景に少し気恥ずかしくなっていると、背中をさするカインの手に意識を戻される。

    「…アーサー?」
    「え?あ、ああ、なんだ?」
    「…体、痛くないか?」
    「…ありがとう、大丈夫だ」

    考えていた事を見透かされていたのだろうか。千年前から変わらないカインの蜂蜜色の瞳が、こちらを覗き込んでいる。
    大いなる厄災との戦いが終わり、昔と変わらず、彼は今もこうして隣にいた。賢者の魔法使いとしての役目も終えて、王という立場からも退位したあと、カインとはずっと二人旅を続けている。もう何百年と当たり前だった日常を手放して、ただのアーサーという一人のヒトとして始めたこの旅は、長い寿命を考えてみれば、まだほんの数十年の出来事だった。昨夜のようにカインと体を重ねるようになったのも、毒味もなしにコーヒーを飲むようになったのも、つい最近の話だ。

    「どうだ?今日のコーヒーの味」
    「ん…おいしいよ」

    そう微笑みかけると、カインは得意げに笑った。旅を始めて分かったことその一。カインはものすごく料理が苦手だった。私の好みの味が知りたい、といったカインに毎朝コーヒーをいれてもらって、今日のこれで何杯目だろうか。初めは色んなものを爆発させていた彼だが、今はこうしてコーヒーを豆から挽いて淹れられるようになっていた。豆を挽く方法、抽出する時間、お湯の温度、カップの大きさや手触り。普段は大雑把なカインの、意外なこだわりがたくさん詰まったコーヒーだ。

    「今日のコーヒーは何点ですか?アーサー様」
    「うーん、92点?」
    「…あとの8点は?」
    「…まだ眠くて、味が分からない」
    「あははっ、じゃあかなり高得点だな」

    ベッドの脇に置いてある木で出来た小さな丸椅子に、カインが腰掛ける。もう一口、コーヒーを口にしようとすると、カインが何か言いたげな目でこちらを見つめていた。

    「…カイン?」
    「ん?」
    「私の顔に何かついてるか?」
    「…ああ、…いや、」
    「なんだ、らしくもない…どうした?」
    「……いや、声がまだ、その…かすれてるなと思って」

    目を細めて頬を撫でてくるカインの手は、とても優しい。言葉の意味を理解すると、自分でも分かるくらいに、身体中が熱くなった。恥ずかしさと焦りでコーヒーを口に含んで、なんでもないかのように少し声を振り絞った。

    「元からこういう声だよ」
    「あははっ、これは失礼しました、アーサー殿下」
    「またそうやって…もう殿下じゃないだろう、いつまでそう呼ぶつもりだ?」
    「いいじゃないか、たまにはさ」

    にっ、と歯を見せてカインが笑った。朝飯出来てるぞ、と、ぽんと頭を撫でられると、カインはそのまま立ち上がって、キッチンの方へと向かっていった。

    ここは北の国と中央の国の間にある、小さな家だ。二人旅を始めてからしばらくして、カインとは何でも屋を開くことになった。何でも屋といっても、魔物の討伐や、人助けがほとんどではある。
    各国を旅して、そこで出会う場所で寝泊まりをしながら旅をするのも悪くは無かったのだが、共に帰れる家が欲しかった。
    この家は、私とカインの好きな物で溢れかえっている。旅先で買った藍色と紅の糸の織物、小さい頃に夢中になって読んだ絵本、木製のシチュー皿、カインが描いた私の似顔絵や、中央の国の花で作ったリース…数えるときりがない。

    「いい匂いだ」

    そう言ってベッドから体を起こしてキッチンに足を運ぶ。市場で買った銀河麦の香りが、ふわりと鼻を擽った。普段は私が先に起きて朝食を作ることが多いが、今日は私の目覚めが悪かったからか、カインが朝食を用意してくれたようだ。

    「今日の朝飯はパンと、それから」

    フライパンを揺らしながら、カインが嬉しそうにこちらを振り返った。近寄ってフライパンの中を見ると、薄切りの肉が、食欲をそそる音を立てて香ばしく焼かれている。

    「ふふ、ベーコンだ」

    どうりで朝から嬉しそうなわけだ。
    カインが鼻唄をうたっている。夢の中で聞いた鳥の唄の正体は、この声だったようだ。 

    旅を始めてわかったことその二。
    五つ年上のカインは、魔法舎に居た時よりずっと、色々な表情をするようになった。時々歳上ということも忘れて、不思議とカインのことをかわいい、と思ってしまうこともある。まさに今、こんなふうに好物を目の前にして機嫌がいい時は、思わず頭を撫でてしまいたくなる。

    「…かわいいな、お前は」

    朝からキッチンに立つカインの後ろ姿はなんだか新鮮で、普段は言わないような台詞がぽろ、と口からこぼれた。昨日の熱がまだ冷めていないのだろうか。広い背中へと腕を伸ばして後ろから抱きしめると、うっ、と、上擦った声がカインの喉から漏れた。

    「………」
    「大きいな、カインの背中」
    「…まだ眠いか?」
    「いや、なんだかこうしたくなって」

    背中に頬を擦り寄せると、カインのシャツが肌に擦れてふわりと甘い匂いがした。
    旅を始めてわかったことその三。
    カインの匂いは少し甘くて、時々少し目眩がする事がある。こうして傍に居るだけで、穏やかな眠気が襲ってくる。

    「いい匂いがする、ふふ」
    「………」
    「あたたかくて、…きもちいい」
    「…参ったな、」
    「…何が?」
    「…いや、朝からってのはさすがに…」
    「朝から?」
    「………昨日の続き?」
    「!?…ち、違う、そういう意味じゃ…!」
    「そういう意味じゃないのか?じゃあ、どういう意味だ?」

    そう言うと、フライパンから炎の魔力が消えた。こちらを振り返ったカインに顎先を掴まれると、柔らかい唇が口に触れる。

    「ん…」
    「…あんたから甘えられるなんて、最高の朝だ」
    「違うって…だから、ん…こら、カイン…」

    顎先からするりと指が降りると、今度は首の後ろへ這うように手のひらが伸びてくる。昨日の夜を思い出させるように、わざと同じ手つきで項をゆるゆると撫でられた。そのまま、ぐい、と頭の後ろを引き寄せられて、空いた方の手が腰の後ろを緩やかに滑る。ぐ、とカインの腰に密着するように抱き寄せられながら、先程よりもずっと強く、口付けを落とされた。

    「ん、…まって、くれ、カイン」
    「…かわいい」

    食むように口付けが深くなって、息苦しさで助けを求めるようにカインの胸元を掴んだ。こういう時のカインの手は、誠実な人柄とは違い、まるでそういったことに手慣れている人間のように滑らかだ。それと比べると、いつまでもこういったことに慣れきれない自分が、少し情けなく感じてしまう。

    「カイ…いい加減に、し、…んっ、ぅ」

    こちらの声も無視して、遊ばれるようにカインに何度も口付けられる。ようやく唇が離れると、カインは満足気に目を細めて、熱のこもった瞳で笑った。

    「…続き、する?」
    「…そういう意味じゃないっていってる、」
    「っあははっ!拗ねるなよ、分かってるって、嬉しくなっちまってつい」

    声をあげて大きく笑うカインに、今度は優しく抱きしめられる。首元に鼻を寄せたカインが少し甘えた声で、アーサー、と呟いた。

    「…くすぐったいよ、カイン」
    「…悪い、ちょっとやりすぎたな」
    「ちょっと?」
    「いや、…思ったよりクるものがあって…」
    「…?」
    「………いや、何でもない、朝飯にしよう」
    「…??」

    カインは深呼吸をして、何でもなかったかのように離れていく。トーストの乗った皿をテーブルへと運んでいく彼にやり返す暇もなく、私はフライパンの中身を白い皿へとうつした。
    二枚と四枚のベーコンをのせたそれを手に持って、カインの背を追いかける。

    「上手に焼けてる」

    少し焦げているけど、美味しそうだ。
    すっかりと見慣れた朝の風景と共に、今日が穏やかに始まった。
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