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    しらい

    治角名しか勝たん。

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    しらい

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    長距離ドライバーの治と売り専の角名の現代パロ。まだまだ序章だが書ききる自信はない。

    #治角名
    nameOfTheCorner

    奇妙な男 本当に、たまたまだったのだ。その日は朝早くからの出勤で、いつも通り運送先の確認や運転前のアルコール検査、車両のチェックをおこなって荷物を積みに行く途中。どちらかといえば郊外に当てはまる道を走り、駐車スペースの広いコンビニに滑り込む。昔はこんなに広くなんていらないだろうと思っていたが、この仕事を始めてその有難さがよくわかった。
     季節は秋のはじめで緩やかに寒くなり、陽が落ちるのも早くなってきていた頃。助手席に置いていた上着を引っ掴んで運転席から降りると、ぽつんとした影を見つける。コンビニの入り口近くの駐車スペース。その車止めに腰かけ、膝を抱えて丸くなっている、おそらく男。コンビニの裏手側から入ってきたため気づかなかったが、トラックが停まっても近くを人が通りかかってもびくともしない。

    (酔っ払いか……? こんな街外れに?)

     言っちゃあなんだが、この辺りはお世辞にも栄えているとは言い難い。運送トラックが通りやすいように道路は広く、住宅よりも質素なビルやコンテナが多いこの辺りには飲み屋すらないし、娯楽もぽつんとあるコンビニくらいのものなので、イコール皆無と言っていいほどだ。人が歩いていないとまでは言わないが、通行人よりもトラックの交通量の方が圧倒的に多い。
     そんな中、こんなに朝早い時間帯から人を見るのはめずらしかった。同じドライバーだったらまだわかるものの、男はどう見ても車を持っているようには見えない。そもそも持っているのなら、こんな寒空の下で蹲るより車の中にいた方が何倍もいいに決まっている。だからこそ車を持っていないのだと決めつけ、そこまでお人好しでもない治は男の背中側を通ってコンビニへと足を踏み入れた。

     ピロピロと音を立てて入店を知らせても飲み屋のような従業員の声は聞こえてこない。あまり人が活動する時間帯ではないため、この時間を利用して品出しだったり雑務をしているのもすでに見慣れた光景だ。

    (茶ぁと眠気覚ましのガムにコーヒー、あとばくだんおにぎりと、寒なってきたから肉まんもええなあ)

     あまり悩んでいる時間もないためすぐにレジに向かい、店員が肉まんを取り出している時に手持ち無沙汰にちらりと外に目をやる。まださっきの男がいるのか気になったが、生憎と店内からその姿は確認できなかった。いなければ見えなくて当然だが、座ったままなら見えなくても無理はなく、きっと店員すら気づいていないのだろう。
     やる気のない「ありがとうございました~」を通りすぎ、またピロピロと鳴る自動ドアに差し掛かったところで気づく。

    (まだおるやん……)

     治がコンビニに入って十分も経ってはいないが、思わずそう思ってしまった。いつからそうしているのかはわからないが、少なくとも治より先にコンビニに着いていたのは間違いないはずだ。それなのにこの寒空の下、微動だにせずにいるのは異質と言ってもいい。

    (あー……もう、しゃあないなあ……)

     そこまでお人好しでもないからと一度は通りすぎたものの、完全に薄情になりきれないのが治だった。実は気分が悪いのかもしれないしと言い訳を並べ、男の肩をとんとんと叩いて呼びかける。

    「なあ、自分どうしたん? 気分でも悪いんか?」
    「……ぅ、……な、に……?」
    「うわ、顔色わるっ」

     少しの身動ぎの後、腕に突っ伏すのはそのままに顔を横向きにして小さく唸った男は明らかに顔色が悪かった。血の気は引いて顔は真っ白、唇だって色味を失くして生気がない。これは本当に具合が悪かったのではなかろうかと最初に声をかけなかったことを悔いる。

    「顔ヤバいで、自分。この辺に住んどんの? 救急車呼ぼか?」
    「……いい、から。そんなの、呼ばないで……」
    「ほんならどうするん? このままここにおる気か?」

     呼びかけても、男は顔をまた腕に埋めて黙りこむ。コンビニの店員に任せてもいいが、これから朝のピークを迎えるであろう店員には少し荷が重い気もする。しかし、このままにもしておけない。どうしたものか考えること数秒、すぐ傍に停めてあるトラックを見て、もう一度男の肩を優しく叩く。

    「なあ、ほんなら俺のやつに乗り」
    「……ぁ?」


    ◆◆◆


     そうして男を乗せたのが朝方の五時前。今は空だったコンテナに荷物を積み込み、目的地に向かってトラックを走らせている最中だ。長距離ドライバーは車内で過ごすことが多いため、自分好みにカスタマイズしていてもお咎めなんてものは特にない。あくまでも法に触れず、会社にも迷惑がかからない範囲ではあるが。だから走行中にガンガン音楽をかけていても、簡易冷蔵庫を置いていても、ぬいぐるみ塗れになっていようともなんら問題はない。

    (……まあ、さすがに一般人乗せるのはどうかと思うけどな)

     ちらりとバックミラーで確認してみても、特に変化はなし。一見すればなにかあるようには見えないが、車内で寝れるようにベッドが備えつけられているし、そこにもう一人乗っているなんて誰も思わない。コンビニで男を乗せたまではいいものの、予想外だったのは男の神経が意外と図太かったことだ。
     荷物を積んだ後ならいいが、さすがに助手席に堂々と乗せるわけにもいかずに後方のベッドスペースにいるよう言えば、男はデカい図体の割に猫のようにするりと移動した。そのまま寝入ったようなのでとくに声をかけることもなく出発して荷を積み込み、高速道路に入ったところではた、と男の存在を思い出したのだ。積み込む荷物の量も大きさも膨大なので、いくら注意を払っていても多少の音や振動はする。それでも男は起きず、今もなお眠り続けているようだ。これを図太いと言わずしてなんと言うのか。

    (腹も減ったし、サービスエリア停まった時に起こしてみるか)

     無事に目的地に荷物を届けられるなら途中の寄り道や休憩は問題はないので、いつものようにサービスエリアに車を停めてエンジンを切る。普通車よりいい座席で疲れは少ないものの、やはり同じ姿勢でいれば疲れもする。肩をぐるぐるとまわして凝りをとったところで後方に振り向き、身を乗り出して中途半端に閉まっていたカーテンを開け放つ。

    「なあ、気分どうや? 少しは回復したか?」
    「んん……、だれ、あんた……」
    「まだ寝ぼけとるんかいな。コンビニで会うたやろ、忘れたんか?」
    「……ああ、そういえば。……で、なんか用?」
    「腹減ったから休憩すんねん、ちょうど昼やし。お前もなんか食わん?」

     治としては至極当然のことを言っただけなのだが、男はびっくりした猫のように瞳をきょとんと丸くしていた。そんなにおかしなことを言っただろうかと思いつつも、動かない男に再度「食わへん?」と訊けば小さく「……食べる」と零す。
     そのまま連れ立ってサービスエリアに入り、券売機で数分悩みながらもカツ丼とカレーを注文する。男はぼんやりと券売機を眺めたと思えば、迷うことなくピッ、とボタンを押して注文口に差し出す。席の確保を男に任せ、セルフの水を取りに行って戻ればすぐに男が席を立つ。なんやトイレかいなと思ったらもう男が注文したメニューが出来たようで、お盆に一つの器を乗せて戻ってきた。

    「……自分、そんだけで足りるん?」
    「え、充分でしょ」

     そう零してしまうのも無理はなく、男が頼んだのはただのシンプルなうどんだった。月見やら天ぷらが乗ってるわけでもない、お揚げや蒲鉾が申し訳程度に乗ったスタンダードなうどん。付け合わせにお稲荷や唐揚げなどがあるわけでもなく、お盆にはうどんただ一つがちょこんと鎮座していた。いただきますと小さく手を合わせて割り箸を割ったまではよかったが、一向に食べる気配はない。うどんを箸で掬っては戻し、掬っては戻し。時折全体をかき混ぜるようにぐるぐるとゆっくり箸をまわし、そのたびに熱々の湯気がもわっと立ち上がる。

    「なにしてんねん。ええからはよ食えや、冷めんで」
    「冷ましてんだよ」

     猫舌だから、と男はぽつりと漏らす。男で猫舌っておるんか、と思ったのが正直な感想。生まれた時から一緒にいた片割れの影響で食卓は常に戦場、運動部に所属していた学生時代もいかに多くの飯を食べるかに注力していたから、熱いうちに食べるのが当たり前だった。周りも似たようなもので、俺ほど意地汚くなくても飯を冷ましてから食うやつは見たことがない。だから猫舌といえば自然と女子を想像してしまうが、そうか男でもいるのかと変に新鮮な気持ちになる。
     そうこうしてるうちに俺の注文したメニューが出来上がったようなので席を立って取りに行き、戻ってからも男はまだうどんに口をつけてはいなかった。がしゃ、と少し乱雑に置いた音に反応して俺のお盆をちらりと見、そして動きが止まる。男の湯気が消えかけたうどんとは違い、俺のカツ丼もカレーも出来立てなのでほかほかと湯気が立ち昇っており、仄かにカレーのスパイシーな匂いが強く鼻を掠めていく。

    「……それ、そんなに食うの……?」
    「あ? 当然やろ。これでも腹八分目くらいや」
    「うぇ、食べる前から腹一杯になりそう……」

     そう零したのち、やっと食べれるほどに冷めたのかうどんに口をつける男。ちゅるちゅると素麺のように啜る様はまるで子どものようで少し幼い。飯は出来立ての熱いうちに、が心情の俺はいただきますと手を合わせてからカツとタレがほどよく沁み込んだ白米を一緒にかっ食らう。衣はサクサクの方が好きだが、しんなりと味の沁みた衣もまた美味いことに変わりはない。驚くほど箸が進み、片割れもいないから取られる心配もないのに飲み込むように頬張り、水で一旦口をリセットしてからカレーに照準を合わせる。
     大きめの野菜や肉がごろごろと入ったカレーはそれだけで美味しそうで、スプーンを握る手に知らず力が入った。しんなりとした玉葱、大きいけれどよく煮込まれて柔らかくなったじゃがいもや人参、ブロック肉。これだけで店が出せるんじゃないかと思えるくらいの味に手が止まらず、文字通り飲み込むように平らげていく。はあ、と感嘆の溜息をつきながら間食すると、目の前の男と目が合う。男の手は止まっていて、まだうどんも半分しか減ってはいない。

    「なに止まってんねん、はよ食えや」
    「いや、……すごい、美味しそうに食べるなって」
    「実際美味いからなあ」

     安いけど美味いって最高やんと笑いかければ、男はつまらなさそうに目線を逸らす。なんや、失礼なやっちゃなとは思いつつ、口には出さない。

    「ちゅうかお前、全然進んでへんやないか。俺より遅いってなんやねん」
    「お前の食べっぷり見てたら食う気失せたんだよ」

     そう言って箸を置くので、まさか残すつもりじゃなかろうかと声をかければ「……そう、なるかな」と返ってくる。残すなんて選択肢が存在しない治からしてみれば、男の行動は到底信じられるものではなかった。

    「それ貸し。俺が食うわ」
    「はあ? え、ちょっ、おい……!」

     自分のお盆を横にスライドさせ、男のお盆を引き寄せて箸をとる。半分ほど残っていたうどんはお世辞にもあたたかいとは言えなかったが、それでも食べれないほど味が落ちるわけでもない。治が食べたメニューに比べればあっさりとした味つけだが、それでも出汁の味が感じられて美味しかった。まるで掃除機のようにずるずると吸い込んで出汁まで美味しくいただけば、目の前で見ていた男は感心七割、呆れ三割な表情をしている。残そうとしていたものを食べてやったのだから、お礼を言われても呆れられる筋合いはないはずだが。

    「マジで食いやがった……」
    「なんや、やっぱり食いたかったんか?」
    「違ぇよ。あんたの食い意地に感服してんの」

     カンプク、ってなんやろか。言葉の意味がわからず二の句が告げないでいると、男は残った水をちびちびと口に含む。おそらく歳はそう変わらないだろう男の情報としては、意外と背が高いこと、若干猫背で姿勢が悪いこと、猫舌で一口が小さいことくらい。けれど、そのどれもがあんな朝方にコンビニで蹲っていたことへの理由にはなり得ないので直接訊くしか手はないだろう。言いたくないならそれでもいいが、半ば無理矢理連れてきた以上、目的地くらいは示してもらわねばならない。遠くに行きたいのなら適当なところで降ろすし、あのコンビニ付近に住んでいるのなら時間はかかるがまたそこまで乗せていくだけ。長くても往復分の、男にとっては小旅行、治にとっては通常業務の範囲内なので特別気にかけてもいなかった。か弱い女の子でもないので、最悪ここで意見が対立してもなんとかなるだろう。そう思って、男に問うた。

    「なあ自分、どこ行きたいん?」

     なにも理由がないのに、朝方のコンビニに行く人はそう多くはない。お悩み相談を受ける気もなければされても困るので簡潔に訊いたそれに、男は一瞬言葉を詰まらせる。少しだけ目線を泳がせた後、まるで怒られてしょげた子どものようにぽつりと零す。

    「……行くとこないから、このままいてもいい?」
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    Replies from the creator

    しらい

    MOURNING軍パロ「Chain」の最後、ボツになった微エロ?を置いときます。
    設定としては治角名二人とも軍人で、角名はトラウマで首を触られるのがダメ。治としては角名を泣かせたいと思ってる。
    その先の未来−another− それでも許してくれたのは、俺に気を許してくれているから。そう思うと気分がいい。

    「なんかされたら嫌なことあるか?」
    「……首、触られるこ」
    「それは却下や」
    「チッ」

     聞く気ねぇじゃんと角名が零し、それ以外でと俺が指定する。不機嫌になりながらも暫し考え、思いついたのか角名はゆっくりと口を開く。

    「……じゃあ、手」
    「手?」
    「治の手、掴んでていい?」

     伏し目がちにそう言われ、思わぬ要求に可愛いと思ってしまった。「ええよ、そんくらい」と承諾すると、掌ではなくがっちりと手首を掴まれる。

    「……なあ角名。手ぇ、握るんやないん?」
    「んなこと言ってねぇだろ。……まだ、殺されない保険かけとかないと、怖い、から」

     ごめんと小さく零す角名の額に触れるだけのキスを送れば、パッと目線を上げるので綺麗な瞳がよく見える。不安そうな顔は俺がさせているのに、そんな表情もええなと思っている俺はやっぱり人でなしかもしれない。俺に嫌われるのが怖いと思ってくれているのだろう、なんて初心で可愛いのか。きっと今俺は、とても締まりのない顔をしているのだろう。好きなやつに特別に想ってもらえるのが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
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