君へのノート 乾が九井と離別してから一カ月が経つ。ひとりきりのアジトは味気ないが、だいぶ慣れてきた。慣れなければいけない。だが、飯を食うにも億劫で、ソファーでぼんやりとしていた時、ふと気がついた。なんだか朝と配置が違っていないだろうか。しげしげと眺めてみて、わかった。服の畳み方が違う。これは九井のやり方だ。
離別したが、九井はアジトの鍵を置いていかなかった。鍵はふたつ。乾と九井がそれぞれ持っている。そう考えると、九井が来たと考えるのが妥当だろう。
九井の携帯の番号もアドレスも知っている。けれど連絡をとることに、ためらいがあった。なんとなく怖気づいてしまいそうだ。
「……そうだ」
乾は棚の中をひっくり返し、目的のものを見つけた。ノートとボールペンだ。イヌピーもいちおう学生なんだから、勉強しろよと九井に渡されたが、けっきょく使わなかったものだ。
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