魔性の男「イヌピー、今の話わかった?」
「いや、まったくわかんねぇ」
イヌピーは話を聞くときは、まっすぐと目を見てくる。なので、話をわかってくれているような錯覚を覚えるが、実際のところイヌピーはなにもわかっていないことが多かった。思えば赤音さんもそういうところがあった。まっすぐに目を見つめられると、もしかしたらオレのことが好きなんじゃないかな?と思ってしまうのだ。おそるべき魔性の姉弟だ。
ゆっくりと視線をあげると、イヌピーとばちりと目が合った。イヌピーは人の目を見る癖があるだけなのに、オレに気があるんじゃないかな、とうっかり勘違いしてしまいそうになる。
「イヌピーってさ、目を見て話すけど、それやめた方がいいよ」
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