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    mizuho_hidaka

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    mizuho_hidaka

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    俳優パロなのに転生パロも混ざってしまったココイヌ。

    #ココイヌ
    cocoInu

    俳優パロかつ転生パロ「Tokyo Revengers」、略称は「TR」。
    知らない日本人はいないどころか、ドラマの放送時間は街から人が消えるとネットは勿論、新聞記事にまでなったテレビ史の記録を塗り替えたドラマだ。
    再放送の視聴率ですら現クールのドラマを大幅に上回っているという数字ひとつとってみても、その人気振りが伺える。
    元々本名のあて書きという異色の脚本だったせいか、俳優陣も皆既知、初共演問わず非常に仲が良かった。

    「よう、青宗」
    「いらっしゃい、一」

    合鍵を片手にまるで自宅の如く部屋に入ってくる九井一も、そしてそれを当然のものとして出迎える乾青宗も今をときめく「TR」に出演している。
    第一期のドラマでは終盤のみの登場だったが、近日公開の映画では準主役に近い主要キャラという役割だ。
    あて書きの設定と同様、九井と乾はお互い芸能一家ということもあり幼馴染だった。
    が、ドラマの共演は今作が初めてである。
    九井はドラマもバラエティも映画も司会すらもこなすマルチタレントで演技経験も豊富だったが、乾はモデル業がメインで演技らしい演技は今回が初めてだった。
    乾以外でも今回が初演技という人間は多い。当初は不安視する声も大きかったと聞くが、本名のあて書きにしてまで脚本を執筆した制作チームが「指名した人物以外にキャストを当てた場合、ドラマを含むプロジェクト全てを中止する」とまで宣言して、絶対に譲らなかったらしい。
    結果として空前絶後の大ヒット作となったわけで、彼らの先見性もまた大きな話題となっていた。

    「随分荷物多いな。何かあった?」

    お互い別々に部屋を借りてはいるものの(九井に至っては複数所持している)、どちらかがどちらかの家に入り浸っていることが多い為、私物もお互いの家にかなり置いてある。なので、泊まるにしろただ顔を出すだけにしろ手土産以外の荷物はほとんど必要ない。
    だが、今日の九井はバッグと紙袋を複数手に持っていた。
    寝転んでいたソファから起き上がり、九井の座る場所を空けてやる。
    隣に座った九井は、丁寧な手つきで紙袋から更に厳重に包装された書類らしきものを取り出した。

    「検品終わったばっかりの劇場版のパンフレット、ちょうど事務所に届いてたから貰ってきた。あとそれ以外にも色々」
    「お、刷り上がったんだ。でもよく持ち出せたな」
    「絶対失くすなよって念押されまくったけど。青宗と一緒に完成品見たかったし」
    「連絡くれたら事務所に行ったのに」
    「せっかくのオフなんだから家でゆっくりしたいだろ。俺ももう今日は仕事終わったから、一緒に見ようぜ」

    乾の家は「芸能一家」だが、九井の場合は正確には「芸能一族」である。表舞台に出てくることはなくても、裏方として優秀なスタッフ、経営手腕を発揮する身内が非常に多い。そして当然のように九井も一族経営の事務所に所属していた。一族の事務所だからこそ、そして持ち出すのが九井一だからこそ念押しで済んだのだろう。
    触れ合った互いの膝にパンフレットを乗せ、早速ページを開く。
    イントロダクションもあらすじもキャラクター紹介も飛ばして九井が真っ先に開いたのは、キャストのコメントとプロフィールのページだった。

    「はー、青宗は当然美人だけど『イヌピー』も凄い美人だよなー」
    「……一も『ココ』も、この顔にこだわり過ぎだろ」
    「だって好きだし。好みだし」

    うっとりと囁きながら、九井の指先が乾の額に触れてきた。
    パンフレットの写真と違って、実際の乾には傷ひとつない。
    だが、特殊メイクの火傷痕は不思議なほど乾自身に調和していた。
    生まれてこの方顔に傷を負ったことはないはずなのにと首を傾げたが、クランクイン前の顔合わせや打ち合わせでは距離を計りかねていた共演者達が撮影に入った途端、気安く話しかけてくるようになったという事実もある。
    造形が完璧過ぎて話しかけづらかったんじゃねぇの、と言ったのはモデル仲間の八戒だった。
    老若男女、ほとんど美形しか存在していないような現場で何を言ってるんだと思ったが、演技未経験者が自分を含めて案外多かったことを思い出す。多いというか、どこで見つけてくるのか芸能界以外からでも平気で指名して連れてくる。
    例えば愛美愛主総長役の長内は大道具のチーフである。本人は最初は大工の内弟子役のエキストラだと思っていたらしいのだが、脚本を読んで度肝を抜いたらしい。
    それでも撮影は驚くほどスムーズで演技も自然に出来たとのことだった。
    NGを出したのはむしろ演技経験が豊富な演技派アイドル松野千冬の方で、本番で二回も「長内君」と呼ぶところをいつもの癖で「長内さん」と言ってしまって顔を覆ってしゃがみ込んでいた。
    周囲は笑って許していたが、乾は自分もつい「ココ」ではなく「はじめ」と呼んでしまうのではないかと不安になったことを覚えている。
    今回の映画では何とか呼び間違いのNGだけは出さなかったが。

    「どうした?」
    「いや、写真見るだけで撮影中のこと思い出すなって。クランクイン前の本読みや撮影の見学も含めて」

    頬を緩ませながら己のコメントとプロフィールに目を通していく。
    事前に何度も確認したおかげか、問題はなかった。少し九井とのことに話が終始し過ぎていて映画やプロジェクト全体について言葉を割くべきだったかもしれないな、というくらいか。
    少しパンフレットを自分に寄せ、九井の写真に目を移す。
    九井は事あるごとに乾の顔を褒めるが、九井自身も当然ながら充分すぎる程の美形だ。
    しかし今回の役は顔より先に髪型にまず目がいってしまう。
    他の仕事に影響が出てしまうのではと乾は幼馴染の今後に気を揉んだが、当の本人は非常に乗り気で関係各所を見事に説得しきっていた。
    結果としてプロジェクトそのものが大当たりしたことで九井の髪型は市民権を得た。むしろ最近は「是非劇中のスタイルで」と各種メディアから取材の際に衣装や髪型の注文がつくまでになっている。
    幼馴染ではあるものの、分野があまり重ならないせいで今まで共演らしい共演がなかったことなど信じられないほどに二人同時に取材を受けることが増えた。
    まさか劇場版のパンフレットの同じページに載る日が来るなんてな、と感慨深く思いながら乾は九井のコメント欄を読み始めた。

    「ちょっ、おい、これ!」
    「どうしたー?」

    『(イヌピー役の)青宗とは幼い頃からずっと一緒だったのですが、劇場版の撮影という仕事の場でも今回初めて長期間一緒にいることができて、心から現場を楽しむことができました』
    ここまでは良い。自分も似たようなことをコメントした。
    『クランクイン前のアクション練習も本読みも現場入りも現場もずっと一緒だったので、スタッフにも共演者にもカップルと呼ばれるほどでした』
    これは必要だったのか。事実ではあるが、わざわざ映画を観にくるファンに伝える必要のあるコメントなのか。

    「関係各所には許可取ったよ。監督にもスタッフにも。青宗のマネージャーにも確認したし」
    「何で俺の確認は取らなかったんだよ!」
    「読んだ時の反応が見たかったから」
    「完成前でも良いだろ! 本当に花垣達は何も言わなかったのか!?」

    花垣武道は主演兼制作チームのリーダーである。
    本人曰く「色んな人の力を借りているだけ」とのことだが、これだけのプロジェクトを成功させた手腕は並大抵のものではない。博打とも荒唐無稽とも影で言われていたにも関わらず、粘り強く出演者との交渉を繰り返し、前評判をひっくり返した男だ。
    年下ながら尊敬するし、そんな彼に演技未経験であるにも関わらず見出された己を誇らしく思う。
    「何で俺なんだ。九井一の幼馴染だからか」と聞いてしまった初対面での時のことを思い出す。
    その時花垣は目を逸らさずはっきりと告げた。
    「仮に乾君が九井君と初対面だったとしても、この役は君に依頼していました。君以外に演じられる人がいないからです」
    そして明るく笑って言った。
    「撮影が始まったらきっと納得してくれます。でも、今少しでも理由が欲しいなら……そうですね、『乾青宗以上にヒールを履きこなせる格好良い人がいないから』だと思ってください。これなら少しは納得して貰えますか」
    数年前の雑誌のヒールブーツの特集をわざわざ見たのだろうか。そこまでキャスティングする相手をリサーチし、演技の素人玄人問わず絶対に出演させるという強い意志があるのなら、信じても良いかもしれない。そう思えた。

    「ああ、花垣? 『イヌピー』の許可は取ったよって言ったら『イヌピー君が良いなら良いですよ』って返事きたぜ」
    「はじめ、お前わざとだろ! 花垣も騙されやがって……!」

    『青宗』の許可ではなく、『イヌピー』の許可。
    役名の方が周囲に馴染んでいるせいもあるが、あだ名で呼ばれる方が多い役柄の人間はこの手のドッキリや悪戯に引っ掛けられることが多かった。
    花垣も『タケミっち』と呼ばれることの方が多いせいで、よく悪戯の被害に遭っていた。
    遭いすぎて耐性がつきそうなものなのだが、何故か懲りずに引っ掛かってしまうらしい。
    人間性も仕事も信頼できると思ったことに嘘はないし揺らぐこともないが、こういった些細な日常のじゃれあいに関してはもう少し気をつけて欲しいと思う。

    「ダメだった?」

    神妙な表情で顔を覗き込まれる。
    絶対にわざとだ。腹立たしい。

    「だって映画が公開されたら青宗のファン増えるだろ。『青宗は俺のだ』って公言することはできなくても、『カップル』って呼ばれるくらい昔も今もこれからもずっと一緒にいるって見せつけて自慢したい」
    「……」
    「なあ、青宗」

    いつの間にかパンフレットがソファの端へ追いやられ、白い手で両頬を包まれる。
    相手の顔に弱いのはお互い様か、と自分に呆れつつ乾は添えられた手に己の指を絡ませた。

    「次は事前に確認させろよ……」
    「どうせなら二人の対談形式のインタビューにするか」
    「おい」
    「それとも『イヌピーも青宗も俺のものです。これを載せても良いって青宗が言ってくれました』ってコメントした方が良いかなー。事前に幾つか案を出すから、どの表現が一番伝わるか青宗も考えてくれよ」

    やはり先程の表情は演技だったらしい。
    神妙な顔から一転してにっこりと機嫌良く目を細めた九井は、乾をソファに押し倒しながら口元を吊り上げた。

    「好きだよ、青宗」
    「……知ってる。俺も好きだよ、一」

    額に、頬に、唇が落とされる。
    乾の肩の力が抜けたところを見計らったかのように舌が入ってきた。

    「ん……っ」

    舌を吸われる。
    それだけで息が上がる。翻弄される。

    「一生離さない。ずっとついていく。俺はお前を選んだし、お前は俺を選んだんだ」

    酸素不足で頭が回らない。九井の言っていることの半分も理解できない。
    けれど何か大切なことを言われている気がする。

    「俺だけがお前を支えられるんだ、……」

    青宗、と呼ばれたのか。
    イヌピー、と呼ばれたのか。

    キスに酔わされた乾にはよく聞こえず、わからないままだった。
    それでも、滲む視界で九井が乾だけを見て抱き締めてくれるのが嬉しくて。
    乾は恋人の背中にそっと手を回した。
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