【no title】順番を間違えた。
鈍く痛む腰と口にするのも憚られる場所の違和感に眉を寄せながら、枕に顔を突っ伏して目覚めてからずっと唸っている。
自分はフェイスのことが好きで、フェイスも自分が好きだった。
結論としてはこれだ、文句なしの両思い。
問題なのはそこに辿り着くまでの過程だった。
想い人が自分だなんて思わない。性別とか普段の態度とか理由は山のようにある。
その結果、互いに勘違いをしてすれ違って、昨夜はいつものように言い合いになり、気付いた時には自分はフェイスに組み敷かれていた。
天井と覆い被さるフェイスの仰ぎながら混乱する中で「他の人に渡すくらいなら」とか「俺のことしか考えられなくなればいい」とか耳を疑う言葉ばかりを聞いた気がする。
そんなのフェイス以外に見向きもするつもりもないし、悔しいけどフェイスのことばかり考えているのに。
いい加減に暴かれるだけ暴かれたところで、ぐちゃぐちゃになった思考が鈍り「おれが好きなのはおまえなのに」とぐずぐずの告白をした。
フェイスはひどく動揺したがそれでもすることは最後までした。手が止まることはなかった。
何なら嬉しそうな顔をしていたし、自分を揺さぶる力は増したと思う。
冷静になって思い返すと途中まで強姦だ、最低だ。
それでも受け入れてしまったのだから惚れた弱みというのはこういうことかと痛感する。
さておき。
思いが通じ合ったのだから今日から自分達の関係は変わったはずだ。
恋人同士というやつだ。そして今日は恋人初日だ。
むずむずと胸の辺りが擽ったくて口元がにやける。
「まー、クソDJはいねーんだけど」
小さく溜息を吐き、首を反対側に動かした。
すっかり冷たくなったシーツを指の腹でゆっくり撫でる。
自分は午前はオフだったが、フェイスは午前中からパトロールに出るシフトだ。そして昼からオフになる。すれ違いだ。
別に夜になれば顔を合わせるのに、名残惜しそうに頭を撫でて額や頬、唇にキスを落として出ていった。
「うぅ……」
この身体の奥から湧き上がる感情をどうしたらいいのかわからない。
叫び出したいような暴れ出したいような気持ちをひたすら喉の奥で押し留める。
朝のフェイスはとろけそうな視線と声だったけれど、もう動揺なんてしていなかったし気恥ずかしそうな素振りもなかった。
経験の差なのかと思うと悔しくて堪らない。
自分ばかり、そう思うと負けたような気持ちになる。
「くそ……帰ってきたら覚えてろよ」
決意の気持ちを言葉を呟いて勢いよく身体を起こし、痛んだ腰の衝撃に負け力なくベッドに沈んでしまった。