朝起きたら女の子に(ry)“片倉”は、玄関に備え付けの、鏡台の前に立つ。
────と、なにを思ったか、上着のすそに指をかけた。
ぱさりッ。
上半身を隠していた寝巻きを脱ぎ捨て、細く白い肌があらわになった。
「ヴェボアッァピピェアバッタラバァ“ァ”ァ“!?!?!?かたかたかたたたたッたたたくらららささささッッッ!?!?!?」
「やかましい」
目玉をひん剥く田丸を、ガン無視し。
さらに、迷いも恥じらいもなく、下着ごと指をひっかけた。
するり、と下までおろし、細い素足を抜いてぱさりと落とす。
“彼女”の、一糸も纏わぬ姿が、あらわになった。
「…………」
眉間を刻むシワが、さらに深く鋭くなる。
……《俺》が映るはずの鏡には、《見知らぬ女》がいた。
やたらと生白い、痩せぎすの身体。
背丈が低く感じるのは、気のせいではないだろう。
耳にかすかにかかるほど、髪がのびているのも、これが原因だろうか。
「…………」
細腕を持ちあげる。
これまた細い指先で触れた顔が、つり目で睨む。
顎が小さく細くなり、鼻筋も細く、全体的に輪郭が丸みをおびている。
するり。
下腹部に触れ、恥骨のあたりへ指先を滑らせる。
局部……男性器が、影もかたちも無くなっていた。
……いや、“陰り”はあるのだが。
「…………」
鼠径部……脚のつけ根から、そのまま側の方へ指を滑らせた。
骨盤のかたちまで変わっているのか、腰まわりが丸く膨らんでいる。
むに。
尻の肉へ指を沈ませれば、不自然なほど指先が食い込む。
臀部の筋肉まで薄くなったのか……尻肉が増したのか?
「…………」
腰まわりから上へ、指先を滑らせれば、急なすぼまりに指が浮いてしまう。
いわゆるウエストが、えぐれたように細くなっている。
元あった腹の筋肉すら薄くなり、釈然としない柔い肌の下に、かすかに肋骨が浮く。
そして、胸には膨らみが…………、
……………………なかった。
────ぺったんこ。断崖絶壁だった。
「…………………………………………」
ふに。
自分のムネ……“男”とそう変わらない乳房に触れる。
……『むにゅ』でも『ぷにゅ』でもなかった。
片倉は、女性の胸部のサイズがどうだの、深く考えたことはなかった。
……だが、自分がそう……貧相な身体つきになって、その虚無感を思い知った。
ふに、ふに
両指ですくい寄せて、持ち上げた。……それでも小さい。
女になってしまった事態は、由々しき問題だ。早急に対処せねばならない。
……だが、それはそれとして、この“仕打ち”はどういう事だ?
何故こうも、このような……
せめて、もっとこう……
ふに、ふに、ふに、ふに
“片倉”は、やり場のない屈辱と虚無(二重の意味で)に、八つ当たりのように薄いムネを揉みしだいた。
田丸は、目を覆い隠すのも忘れて、あんぐりとした口をパクパクさせた。