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    seven84273501

    脳内を抽出する。
    #創作
    @seven84273501
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    seven84273501

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    BGM:溺れるほど愛した花

    ドラコルル(+パピとロコロコ)が、両親の墓参りをする話です。
    作中の架空の【ピイナの花】は、
    リンドウ(正義)・スターチス(変わらぬ心)・カモミール(あなたを癒やす)を合わせた花として書いています。

    ※おまけで副官との後日談を書くかも知れません。

    #ドラコルル
    dracol

    ドラコルルの墓参り墓石、墓石、墓石。

    見渡す限りに、墓石が無機質に並列された、芝生墓地。

    冬の寒さがしんと満ち、枯草ばかり一面に広がり、荒涼感を掻き立てる。

    男が、無感情に立っていた。

    ぴんと整然に、軍服に身を包む男は、まるで人間らしさを感じない。
    どんよりとした曇天の下、底知れない冷たさを、影のように湛えていた。

    「ご両親にか?ドラコルル」
    小さな少年が、男を監視するように、後ろから問う。

    口調と声色には、小さな身体には不釣り合いなほど、知性・育ちの良さが満ちている。
    大きく、透き通った、翡翠色の目には、強い責任感と善性の光が宿っていた。

    「どうせ、お調べになったのでしょう?『パピ大統領閣下』」
    低く、抑揚のない声で、皮肉交じりに返す。

    左手に、黒い無地で簡素な、何かを入れたカバンを下げ、
    右手には、色鮮やかな花束を握っている。

    白・ピンク・黄・青・紫など、
    冷たい印象そのままの男には、華やかなソレは、あまりにちぐはぐだった。

    「あなたの個人口座から!お花屋さんへの注文履歴があったので、何事かと思ったのですよ!」
    パピの愛犬、ロコロコが高い声で言う。

    「てっきり厚顔無恥にも、女性との逢い引きに向かわれるのかと勘違いしてしまいました!
    ですが、お墓参りなら問題外です!今のところは真面目に公務に勤しんでいるようですし、せいぜいお好きになさると良いでしょう!」

    ガン無視して歩き出す、ドラコルル。
    軍人特有の、深く早急な歩調で、たちまち小さくなっていく。

    「ほら、おいで」

    パピが苦笑して呼ぶ。
    ロコロコはワン!と嬉しそうに鳴き、パタパタと、長いグリーンの耳で、翼のように羽ばたいた。



    男は大罪人だった。

    数か月前、ピリカ星の統合軍将軍・ギルモアを筆頭に、大規模なクーデターが発生した。

    整然な軍服の男……ドラコルル元・長官は、情報将校・および巨大組織ピシアの指揮官として、ギルモアを星の元首とした恐怖政治を推進した。

    騙す・出し抜く・相手の裏をかく・手段を選ばない。
    鬼のような冷酷さで、悪魔のように二枚舌、三枚舌を使い分ける。

    政治界・メディア界、星の人々の心に多大な影響を及ぼし、数え切れないほどの犠牲と、傷跡を残したA級戦犯の1人なのだ。

    だが、何より恐ろしいのは、その思考・行動・主義は、すべてが星のため、主君の為だった事だ。

    ドラコルルは、己が生きる星を・主君を守護する軍人として、背負う正義を振り翳し、蹂躙の限りを尽くしてしまったのだ。

    何故、そんな男が、こうして空の下へ足を運べているのか。

    それは、かつて星を裏から支配し、利権を貪っていた上層部の者たちからの横槍だった。

    パピ大統領は、【人々を助けたい・悪も悪行も許さない】という純なる思いのままに、汚職も陰謀も一掃する政治改革を行っていった。

    だが、正しい司法の手が、星の全土に及ぶより先に、旧・支配者たちは、宇宙ステーションや他の星に逃げ出してしまった。

    旧・支配者だった人間の1人……元・将軍ギルモアは、それでもピリカに残り続けた。
    クーデターが勃発したのは、その直後だった。

    旧・支配者たちは、クーデターを起こした張本人、元・将軍ギルモアを『トカゲの尻尾』『スケープゴート』として切り捨てた。

    代わりに、『まだ使い道のある傀儡』として、ドラコルル元・長官の裁判・処分を妨害したのだった。

    結果、ドラコルルの処分は、一時的な降給、および降格処分のみ。
    パピ大統領と、姉のピイナ補佐官たちへの仕打ち、そして数々の犠牲を思えば、あまりに裁きが足りない。

    事実上の、無罪放免だった。

    それは、自分たち支配者・上層部を一掃しに掛かり、これまでのような搾取・利権構造を破壊しようとしている『若造』……パピ大統領への、嫌がらせでもあった。

    さらに、陰惨な独裁政治へと加担した、ドラコルルの処分を、わざと甘くすることで、いまだ傷跡と憤懣がくすぶる人々の不満を煽り、パピ大統領への支持を揺るがすネガティブ・キャンペーンでもあるのだった。

    だが…………忸怩たる思いを募らせるのは、ドラコルルも同じだった。

    すべての責任を背負う、その無念と覚悟を背負って……そして、かすかな安堵を抱いて、軍帽を脱いだ。

    はずだった。

    その覚悟すら……そして、これまで自分が蹂躙して来た、数え切れぬほどの犠牲すら、嘲笑ひとつで何もかも踏みにじられたような。

    そうだ。
    これまで散々、自分が行って来た愚行と、まったく同じように。

    だが…………今更、どうでも良い。

    怒り、嘆き、歯噛みした所で、どうにもならない。

    どうにもならないから、諦念と、世の流れに身を任せる他、どうする事もできないのだ。



    「…………酷い」

    パピは顔を顰める。
    ロコロコも、「キュゥン……」と細く鳴く。

    墓は、滅茶苦茶に荒らされていた。

    呪い・侮辱・罵詈雑言が、墓石から石畳まで、悪意たっぷりに書き殴られている。

    鈍器で、何度も、何度も殴りつけたようなヒビ、欠けて抉れた傷にまみれた墓石。

    無理やりこじ開けようとしたのか、金属が擦れた引っ掻き傷が、幾重にも、幾重にも重なっている。

    人々の、煮えくり返る憎悪、行き場の無い無念が、八つ当たりとなって、ありありと浮かび上がっているようだった。

    ドラコルルは、怒りも、嘆きもせず、片膝をついてカバンを開ける。

    灰色の手袋を取り去り、汚れ落としと、布切れを取り出した。

    「手伝おう」
    パピは歩み寄り、小さな手が、布切れを掴む。

    「わたくしも!」
    グリーンの長い耳が、ニュッと伸びる。

    「……」
    何か言おうとしたが、無言で立つ。

    「よいしょ!よいしょ!」
    ロコロコが石畳を拭く掛け声と、落書きを擦る音の他は、無音の時が流れる。

    「ッ、……」
    鋭利な凹みで指を切った。

    血の玉が膨れ、指を伝う。
    煩わし気に舐め、吸う。

    ふと、何の気なしに、後ろを振り向く。

    パピが小さな手で、インクで汚れた布切れを掴み、『豚の親めが!』と刻まれた中傷を擦り落としている。

    その可愛らしくも、整った端正な顔は、眩しいほどの誠心に満ちている。

    「…………」
    じくじくと痛み、また血が滲む。

    目をそらし、墓石に向かい合った。



    「よしッ!」
    「キレイになりましたね!」

    ようやく落書きを落とし切り、滑らかな石肌が現れた。

    青みがかった深縹色の墓標は、たくさんの傷が刻まれながら、どこか静謐な佇まいを見せている。

    「どうぞ」
    冷たい声と共に、自販機の、暖かい飲み物が差し出される。

    「寛大なご厚意、身に余る光栄でございます。畏れ多くも、感謝の言葉もございません」
    わざとらしく、事務的かつ堅苦しい言い回しのドラコルル。

    「なんかシャクに障る言い方ですね!なんですかなんですか!そんなんだからみんなに嫌われるんですよ!」
    ロコロコがいきり立つ。

    パピは「ありがとう」と返し、飲み物を開け、一口含む。

    ちなみに、チョイスは『ぽっかぽかはちみつレモン&ジンジャーカフェオレ ~クリームたっぷり×2増量 コク甘さ超・ぎゅぎゅっと濃厚~』だった。

    「………………………………」
    「………………………………カロリー、エグ過ぎません?」

    嫌がらせなのか、気遣いなのか、イマイチ分からんわ。



    「こんにちはぁー。こんな寒い中、よくいらっしゃいましたね」
    墓地の責任者が、人影を認め、簡易移動機器を降りて来る。

    「「あ」」
    「む……」

    墓石の前には、あのパピ大統領、ドラコルル元・長官(とロコロコ)が居た。

    責任者の顔は、言い表しようがないほど引きつった。

    「墓地の、責任者の方ですね?初めまして。ピリカ共和星大統領、パピと言います」

    パピに真っ直ぐ見つめられ、
    責任者の目が、激しく泳ぐ。

    墓石が、筆舌に尽くしがたいほど、荒らされていたにも関わらず、放置されていた理由。

    その、挙動不審な責任者の様子は、墓を荒らす者たちの姿を、再三、見て見ぬフリをしていた事を意味する。

    「こちらの墓石の、修繕をお願いします。後ほど、官邸から正式に依頼を出しますので、ご確認のほど、宜しくお願い致します」

    非難も叱責もせず、理性的に向かい合う。

    大統領たっての注文に、嫌と言えるわけが無く、墓地の管理責任者は、涙目で応じるしか無かった。

    「お気になさらず。どうせただの石です」

    だが、ドラコルルは断る。

    「へッ!?石ッ!?」
    ロコロコの素っ頓狂な声。

    「墓など、死体を処理する『穴』に過ぎません。墓石は、ただ死人の名を刻む『標識』です」

    無情に言い切る。

    「ただの石の塊りであり、この下にある物も、ただの炭素の塊りです。後生大事に扱うなど、何の意味も無い」

    酷薄な目が、サングラス越しに『それ』を見下ろした。

    「なら、どうして花束を手向けた?」
    パピは、静かに問う。

    「どうしてお前は、ただの石の塊りを、綺麗に拭き清めた?」

    「ただの義務です。それ以上も、以下も無い」
    簡素な、にべもない答え。

    「そうだ」
    パピは肯定した。

    「ただの石へ真摯に向き合う事に、お前は、義務感を抱いてくれた。きっと、それが答えなのだろう」

    一瞬、目を見開く。

    「…………さあな……どうだろうよ」
    飾りも、捻りもしない、投げやりの言葉がこぼれる。

    ドラコルルは、サングラスを外す。

    暗い、紅玉石の刃のような目が、『それ』を見つめた。



    「ああ。それから、救急箱がありましたら、お貸し下さい。彼が怪我をしたようなので」
    「…………放って置けば治ります」
    「雑菌が入ったらどうする。汚れを落としたばかりなのに」
    「………………………………(いろいろ面倒くさくなった)」



    「どんな方々だったのだ?」

    パピたちは踵を返し、歩き出す。

    ふと、パピは疑問が浮かび、何気なく問うた。

    「忘れました」

    あっさりと答えるドラコルル。

    「忘れましたッ!?」
    また、ロコロコの素っ頓狂な声。

    「いやいやいやいやいや!そんなはず無いでしょう!?なんかこう……あるでしょう!?思い出とか、形見とか日記とか記録とか!何も無いってことだけは無いでしょう!?」

    「だから……忘れたものは忘れたと言っている」

    ロコロコの勢いに、心底、面倒くさげに顔を顰める。

    「……」
    パピは、じっとその顔を見つめる。

    嘘か、本当かは分からない。

    「……私も、父と母の事は、あまり覚えていない。小さかったから、忘れてしまったのかも知れない」

    「『【忘れる】と言うのは、今を生きている証』!ゲンブ大臣がおっしゃってましたね!」

    「生きる、か」

    かけがえのない人間が死のうと、毎日は変わらず続いて行く。

    今日を・明日を、生きて行く為には、いつまでも、死んだ人への思いに囚われたままでは居られない。

    生きて行けば、死んだ人の記憶は、だんだんと薄れ、あいまいになって行く。

    だが、同時に、悲しみも薄れて行き、胸の空虚が、時と共に癒され、また新しい大事なもので満たされて行く。

    「私たちは、生きている」
    パピは、何か、大事な抱え物のように言う。

    「生きているからこそ、時折は亡くなった人を思い出して、また新しく、明日を懸命に迎えて行く。それが大事なのかも知れない」

    「お墓参りは大事ってことですね!」
    ロコロコは笑い、ドラコルルに向き直る。

    「ドラコルル!パピ様に感謝するのですよ!これからはきっと、あんな事も無くなりますから!パピ様たってのお願いですもの。墓地のパトロールも強化されて、グッと来やすくなるはずです!」

    「フッ……関係無いな」

    「な!関係ないとは何ですか!故人の尊厳は決して侵されざる物であり、そのためにパピ様は……」
    鼻であしらわれ、プンスカ怒るロコロコ。

    「もう、二度と来る事も無い」

    暗く、凍てついた声。
    パピは、思わず足を止めた。

    「ギルモア様の墓石も、建立されるかどうか、分からないからな」

    無機質な言葉が落ちる。

    深く早急な歩調で、たちまち距離が開いて行く。

    パピは、後ろを振り返る。

    『ピイナの花』が、荒涼とした、色彩を失った景色の中、確かな色鮮やかさを、灯火のように宿している。

    「大丈夫」

    キュゥン……と鳴くロコロコを抱き上げる。

    「絶対に、引っ叩いてでも来させるさ」

    パピはロコロコを抱いたまま、小走りで、ドラコルルの背中を追った。

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