スイカの上手な割り方について「もうちょい左……あと半歩」
マトリフはスイカを見ながら指示を出す。ガンガディアは目隠しをして棍棒を持っていた。
ここは世界一平和な世界の砂浜。全ての怨恨を忘れ去り、みんながスイカ割りに興じていた。新旧勇者一行、新旧魔王軍が一堂に会しており、どのペアが一番上手くスイカを割れるかと競い合っていた。今はガンガディアとマトリフのペアである。揃いの海水パンツを履いた二人はスイカを狙っていた。
「アレって狡くねえか?」
ガンガディアとマトリフのスイカ割りを見て不満を言ったのはポップだった。ポップは自分が知るよりも若いマトリフを見上げている。というのも、マトリフはガンガディアの肩に乗り、いわゆる肩車をしていた。そして操縦桿でも握るようにガンガディアの耳を持っている。そしてそこから適切な指示を出しているのだ。
「やっちゃいねけえってルールはねえだろ」
そう答えたのもマトリフだった。しかしこちらはポップのよく知るほうのマトリフで、派手なアロハを着ている。先ほどポップと一緒にスイカ割りをして、スイカに傷一つつけられなかった。どうやらこのスイカはトテモカタイスイカという品種らしく、魔法使いの腕力では割れないほど硬い。ポップは二人のマトリフを交互に見て「時空が狂ってんな」と呟く。その横で勇者アバンと大勇者アバンがガンガディアとマトリフに声援を送っていた。
「よし! そこだ。ゆっくり振り下ろせよ。優しくな」
マトリフはガンガディアの頭上から指示を出す。
「どれほどの力だ? あのスイカとやらは柔らかいのか?」
「硬えけど、お前からしたら全部柔らけえだろ」
「では君に触れる時程度の優しさにしよう」
「それだったら割れねえよ。もうちょい強めだ」
「ふむ。力加減が難しいな。君に触れるより強く、部下を始末するより弱くか」
ポップは聞こえてくる会話を聞かなかったことにする。横にいるアロハのマトリフはスイカ割りよりも水着の女性たちを見ていた。その横にいる二人のアバンに何やら話しかけている何人ものハドラーが煩い。何人だ。四人か。いや、ハドラーばっかり多すぎるだろ。
ガンガディアが棍棒を振り上げ、風を切りながら振り下ろす。しかしあまりの強さに風圧でスイカは転がっていった。
「……手応えがなかった」
「おまえの普段の力加減はどこにいったんだよ」
マトリフは溜息をつくとバギを唱えた。バギは絶妙な加減でスイカを十等分に切り裂いていく。
「いやそれスイカ割りですらねえし」
言いながらもポップはスイカを拾って食べ始める。遠くではさらに若いマトリフと、薄紫の髪を結った見知らぬ女性が楽しそうにスイカ割りをしていた。ポップはそれを見ながら、ぷっぷと種を飛ばした。