Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    z168o

    @z168o

    @z168o

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    z168o

    ☆quiet follow

    架空のバンドの⚡️誕ライブレポ
    とどかみ
    モブ女視点
    大遅刻だけどデンキおめでとう!!!!

    #とどかみ
    #バンドパロ
    bandParody

    デンキ誕ライブレポ まるで学生の文化祭のようなデザインのチケットを握りしめて小さく深呼吸。
    FC限定と書かれた華々しい券面にうっとりしながら、スタッフの指示に合わせて列をなした。
    二十番。相当良い番号だ。
    初めてのファンクラブ先行。チケットの抽選販売。こんなことがあって良いのだろうか。
    前後に視線を向けると見知った顔がちらほらある。よかった、みんなチケットを確保できたようだ。
     インディーズとはいえレーベル所属になり、ファンクラブが出来て、初めてのメンバーのお誕生日ライブ。初めての抽選チケット。あっという間に人気になってしまったバンドに少しの寂しさと誇らしさとが混ざった複雑な気持ちになる。当選のお知らせが来た時には思わず会社で震えた。正直当落まで仕事どころではなかった。FC先行分はオリジナルチケットが自宅に届くという文言に正直めちゃくちゃカッコいいデザインのチケットを期待したが、文化祭っぽい少しチープな作りが、彼らがまだ身近にいるような、また今日の主役に似合うような気がしてくる。
    「それでは一番から五番までどうぞー」
     開演三十分前に入場が始まる。六番から十番、十一番から十五番と次々と会場内へ吸い込まれていく。
    自分の整理番号が呼ばれ、列が崩れないように案内されながらも心なしか小走りに会場に入ると、もちろん最前列は埋まっていた。今日の主役のファンの子達へ前方は譲って、二柵目最前を陣取った。
    少し段差があるだけで随分見え方が違うのだ。何せ、私の推しはステージ奥。
     少し高さをつけてくれてるとは言ってもどうしても見難い。ささやかでも段差があるだけでその見え方は格段に変わるのだった。
    後半番号の友人たちがそれぞれ推しのベスポジへと陣取っていく。
    本日の主役を推している友人はもちろん最前にいた。流石すぎる。一体整番は何番だったんだろう。
    「柵最前最高じゃん」
     ボーカル推しの友人が柵前にやってきた。彼女は今日はやや諦めモードらしいが、その厚底でよく諦めモードと言えたものだ。
     みるみるうちに会場は埋め尽くされ、熱気が渦巻いていく。間も無く開演時間。携帯の電源を落とし、今か今かと待ち構えていると、煌々と会場の明かりがついたままのステージに鮮やかなツートンカラーの青年がステージにセッティングされた椅子に腰を下ろした。手にはアコースティックギターを抱えて。
     まるで当たり前のように出てくる様子に、会場は一瞬呆気に取られた。キャー!という黄色い声もシャウトも上がらない。
    ざわざわとした動揺。
     軽く弦を弾いてチューニングを終えると、ステージから二階側に軽く手を振った。
    それを合図に客席側のライトが消え、彼ーギター担当のショートへスポットライトが当たる。
    いや、始まり方が斬新すぎる。
     アコースティックの超絶技巧を披露して(なんの曲かわからないがとにかくすごかった)一度ドヤ顔を決める。
    おかしい。今日の主役は彼だったか?
    とんでもないマイペースぶりにファンが依然として動揺しているのをよそに、ショートは慣れた手つきで伴奏を始めた。
    「ハッピバースデー……トゥユー」
     ぬるりと歌が始まる。ボーカルのデクがこれまた普段あまり見せない歌い方でバースデーソングを歌いながらステージ上に登場すると、ようやく事態を飲み込み始めたファンから「ヒュー!」と声が上がった。
    「ハッピバースデー!ディアデンキ〜。ハッピーバースデーートゥーーーーーーユゥウゥ〜〜〜〜!」
     癖の強すぎる歌い上げと共に、本日の主役ーデンキが袖から飛び出してきた。
    「俺様のお誕生日だよーーーん!!!」
    「「「ウォーーーーーー!!!!!」」」
     元気な掛け声とリズムカウントのシンバルにいつもの調子を取り戻した客席から叫び声が響く。いつの間にかエレキギターに持ち替えたショートのギターにエージローのベースが重なる。バスドラムの低音と勢いのあるスネア。ノリノリのいつものデクの歌声に、センターに置かれたキーボードの音色が重なって、分厚い音楽がのし掛かってくる。
    そうそうこれこれ、と拳を突き上げて、全身で音楽を浴びる。
     そのまま三曲、アップテンポな曲で客席のボルテージは最大まで高まっていった。
    熱気と、興奮で身体中が熱くなる。こめかみを流れる汗を拭いながら、楽しそうなメンバーを目に焼き付けるようにステージに目を向けた。
     今日のカツキもカッコ良すぎる。袖を捲り上げた黒いTシャツの胸元にワンポイント何かがついているような気がしてが気になる。
    いつもカツキは真っ黒しか着ないはずなのに。
     煽り曲三曲を歌い終え、ようやくMCに入った。
    デンキは今更本日の主役という襷をかけ、バースデーサングラスを掛けて客席を見渡すと嬉しそうににっこりと笑みを浮かべた。
    「今日のバースデーボーイ、デンキくんでーす!」
    「デンキくんお誕生日おめでとーー!!」
     ファンの誰よりも先にデクが声を上げて拍手をするので、客席からは「おめでとー」と不揃いなお祝いのメッセージが飛び出した。
     いつの間にか三角帽子を被ったエージローが、カツキの鋭い視線を無視して無理やり自分と同じ三角帽子を被せる。ショートもいつの間にか帽子を被り、「おめでとう」とデンキの目をまっすぐ見つめてボソボソと呟いていた。
    なんだそのテンションは。家か。
    思わず小さく声に出して呟きながらも、すっかり全員仲良しの雰囲気に頬が緩む。
    「おい見ろよ上鳴!爆豪のTシャツに雷マークついてる!」
    「えーやだかっちゃんお祝いしてくれるのー?うれぴー!」
    「っせぇ!!こっち見んなウゼェ!」
    「ちなみにTシャツのワッペンはかっちゃんが自分で取り付けてたよ!」
    「クソナード黙れ殺すぞ!」
    「フゥーーー!!はーぴーバースデー俺ー!」
     ウソその見慣れない胸元の刺繍はカツキが自分でつけた雷マークなの?
    とんでもない爆弾を落とされ気を失いそうになる。
    まるで照れ隠しのように陽気にはしゃぐデンキに絡まれ嫌そうな顔をするカツキが心なしか優しい笑みを浮かべているように見えて、あまりの興奮に息苦しさを感じる。
    前に立っていたデクの女は呆然として立ち尽くしていた。気持ちはわかる。情報量が多すぎる。
     会場全体を巻き込んだ仲良しMCが終わると、デク、エイジロウ、カツキがステージから捌けて行った。
    残ったショートとデンキは椅子をステージのキーボードの隣にセッティングすると、楽器の前に腰を下ろした。
    「せっかく俺の誕生日だから、あまりみんなには見せない俺を見せちゃおっかなーと思って、今日はキーボードとアコギのセッションをお披露目するよ〜」
    「いつものロックとはテイストが違うが、気に入ってくれると嬉しい」
     そう言って二人が目を合わせると、再びステージにはスポットライトが二つ。
    呼吸でリズムを取ると、美しい指先からおしゃれなジャズのリズムでR&Bの名曲が奏でられた。アコギの柔らかなリズムにキーボードの優しいメロディが重なり、会場の雰囲気が一気におしゃれになる。
     掻き鳴らすギターや鍵盤の上を跳ね回るいつもとは全く表情の違う二人の様子に、なぜだか少し恥ずかしくなった。楽曲のせいだろうか。
    時折二人が見せるアイコンタクトのせいかもしれない。
    恋多き男でお馴染みのデンキが最近安定してるのは、ショートと付き合ってるからだという噂が実しやかに流れているが、この雰囲気を目の当たりにするとあながち嘘ではないかもしれないと思てくる。
     デンキのガチ恋女は息をしているだろうか。
    「Isn’t she lovely
Isn’t she wonderful
Isn’t she precious
」
     舞台袖から登場したデクがオープニングともいつもの楽曲とも違う柔らかな声色で、最も有名なサビを歌いながら現れると、次第に物静かなドラム、控えめなベースも加わって、ロックバンドとは様相の違うバンドサウンドが会場内に広がった。
    僕たちはこんな音楽もできるんだと、技術や音楽への造詣の深さを見せつけられているようで、会場中が多幸感に包まれていた。

     そのままバラードを二曲歌って、インディーズ時代から恒例のお手紙タイムに入る。
    いつものようにボーカルに注目していると、上手から派手な紅白頭がぬるりとセンターに躍り出た。今回はなんと、ショートからのお手紙だ。
    「えー……今日は上鳴の誕生日なので、手紙を書いてきました。読みます」
     一方的な報告に笑いと嬌声が入り混じる。デクのようなコールアンドレスポンスが彼にはないが、このマイペースさが癖になるのだと旧ギターから乗り換えた友人が言っていたのを思い出す。
    「上鳴。誕生日おめでとう。俺たちが出会って約一年半が経ちましたね。えー……上鳴には公私共に色々迷惑を掛けてます」
    「家賃払えー」
    「洗濯くらい自分でしろー」
    「帰れー」
    「待て爆豪。帰れはおかしい」
     いつもなら感動で咽び泣くはずのエージローから突然野次が飛んだかと思うと、デク、カツキがそれに続く。
     いつにないお手紙タイムに会場が微かにざわめいた。笑って良いのか、真面目な顔をすべきかわからないと言った表情で唇を引き結んだデンキの表情が、なおさら会場を沸かす。
    「初めは部屋汚ねぇし我儘だし変なやつだと思ってましたが、」
    「お前が言うなー」
    「ヒモー」
    「ヒモ男ー」
    「俺も今一緒に働いてんだろ!」
     一向に進まない手紙に「これは笑っていいやつだ」と判断した会場からは、野次やツッコミに合わせて次第に笑い声が上がった。
     こんなに和気藹々とした誕生日ライブが未だかつてあっただろうか。
    MCで、メンバー全員がノリノリでボケるなんてと思うと、なぜだかすごく胸が熱くなる。
    一緒に追ってきた友人も同じだったようで笑いながらも瞳を潤ませているような気がした。
     まるでコントのようなお手紙タイムは「全然泣けねぇよバカアホバーーカ!!」というデンキの悪口と共に幕を閉じ、再びアップテンポな曲が三曲、レーベル所属前の曲三曲とぶっ続けの六曲演奏にこちらの熱気も最骨頂まで高まった。そうして、たっぷり二時間の演奏を終えると、ステージ上で汗だくになりながら、彼らは嬉しそうに笑った。
    「今回、初めてファンクラブとか出来て、チケットも抽選になっちゃって、なんか今までずっと来てくれてた人からしたらすごく遠いって言うか、あーお前らもそんななっちゃったのねって思った人もいるかもしれないんだけど」
     額の汗を拭いながら、デクが客席をゆっくりと見回してぽつりぽつりと呟く。
    まるで心を見透かされてるような気がして、思わず息を飲む。今回自分は無事に当たったから平気でいられるだけで、もし外れていたら。
    有名になっていくことを素直に喜べただろうか。
    「あのね、僕たち事務所っていうバックアップがついたから、もっともっと大きい箱でライブやったり、ライブの映像を円盤として残したり出来るようになったの。自分たちのお金だけじゃ、出来なかった事とか、見せられなかった事とか、そういうの、もっともっとみんなに届けたいなって、そう思ってます」
     デクの言葉がズンと胸にのしかかる。
    複雑なファン心理というやつだ。デクの言うように、彼らがやりたいと思っている、でも出来なかったことが出来るようになる喜び。
    応援したい気持ちとどんどん遠くなっていくような寂しさ。
    「デンキくんのお誕生日のチケットの柄とか、今回初めて作ったTシャツとか、会場限定ジャケットのCDとか、あ、ライブの後物販コーナーで発売するからチェックしてね。そういうの、もっともっといっぱいやって、ライブも前よりいっぱいやって、もっとみんなに会えるようにがんばるから、これからもよろしくお願いします!」
     シン、と会場内が静まり返る。感動的な言葉だった。感動的で勢いに任せてもちろんと叫びたかった。叫びたかったのに、急にぶち込まれたお知らせに頭がついて来ない。
    「緑谷、宣伝入れる場所違ったわ」
    「あれ?違った?」
    「だってみんな困っちゃってるもん」
    「女装ジャケットのCD売りまーす」
    「轟お前まで空気読まねぇの!?」
    「「えぇーー!?!?!?!?」」
     頑張って、応援してる、一生ついていくエトセトラ。言いたいことが沢山あったのに、デクとショートの天然コンビ(デクは計算かもしれないが)の爆弾発言に、会場から上がった声は驚きと喜びと悲喜交々の叫びだった。
    「俺のお誕生日何したい?って事務所に言われたからみんなで女装して超絶可愛いジャケット写真撮ったからみんなよろしくねん」
    「プロのメイクとプロのスタイリストとプロのカメラマン入れたからマッジで可愛くなった!」
    「切島くんとかっちゃんと轟くんは引くほど肩幅が残念だったけどね」
    「たかだかインディーズのバンドなのに良くやるよな」
     なるほど、これが事務所の力か、と思い知らされる。寂しいとか遠くなったとか言わせるつもりなど毛頭ないのだろう。
    カツキの女装、ヤバすぎる早く見たい。聞く用飾る用保存用最低三枚は欲しい。
    ムキムキの肩幅の女装なんて見たすぎる。
    「あ!曲は新曲三曲入ってて、後日かっこいい僕たちのジャケットでCDショップに並ぶらしいからカッコいい僕たちが見たい!って人はそちらをぜひ」
     どっちも買うー!!という叫びに便乗して全部買うー!と叫びながら、財布の中身を思い出しながら、明日からの仕事を頑張ろうと強く決意した。ありがとうデンキ。誕生日おめでとうデンキ。来年も再来年もずっとずっと応援しますと心に近いながら「ラストの曲行くよー!」という掛け声に合わせて力強く拳を上げた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works