人の部屋に入る時はいつも少しばかり緊張してしまう。
招き入れられたとはいえ、慣れない派手な装飾に視線を彷徨わせた。
「突っ立ってないで座れば?」
苦笑気味に声をかけられ慌ててカーペットに腰を下ろすと、言葉にし難い沈黙があたりを包んだ。
「えっと……どうする?」
「どう、ってなんだよ」
困ったような問いに思わず問いで返すと、上鳴はやっぱり苦笑気味に表情を歪めて「そう言われても」と呟いた。
「そっちが命令してくれないと、俺にはどうにも出来ないんだけど」
「……あぁ、そうだよな」
前期はそれぞれの性質の仕組みを座学で学び、後期は実際に触れ合ってみようとくじ引きで決まったペアを組むことになったが、まさか上鳴が相手とは思わなかった。
DomとしてSubへ命令と報酬を与え、Subはそれに従うことで信頼を与え庇護を得るとかなんとか。よく分からないが、とにかく何かコマンドをもらえないと困ると上鳴は苦笑した。
「じゃあ……命令、座れ」
「いや、もう座ってるけど」
思わず噴き出して笑う様子にカッと頬が熱くなる。
そもそもあんなに性的なコマンドが多くてどうして同級生に使えばいいと言うのだ。好き合っている訳でもない、ようやく最近話すようになった相手に使えるコマンドなど限られているでは無いか。
「……じゃあ、命令。来い」
真っ直ぐ上鳴の瞳を見つめて告げると、ゆらりと彼の金糸雀色の瞳がゆらりと揺れた気がした。
先ほどまでの軽薄そうな笑いを顰めて真っ直ぐにこちらに向かってくる。
「座れ」
先ほどより一段と低い声で囁くと、素直に従って床にへたりと座り込んだ。
この後どうするんだっけ。命令をして、それを遂行した暁にはきちんと褒めてやる。
褒める、なんて、どうすればいいのか。
座学で学んだテキストを頭の中で捲りながら、いや、あんな恥ずかしい言葉をどうやって言えばいいのか。
「……いい子だ」
じっと見つめる金糸雀に居た堪れなくなって、観念したように呟くと上鳴はふっと息を吐いて再び苦笑気味に表情を歪めた。
「恥ずいなこれ」
「本当だよ……これ毎日やんのか」
はぁ、と大きくため息を溢す。なんだかどっと疲れた。上鳴はまぁでも、と小さく呟いた。
「異性の方がしんどかったろうし、めっちゃ仲良い相手も気まずいからちょうど良かったかもな」
このくらいの距離感の方がまぁまだ、と言う言葉になんと返していいのか分からずまあ、と曖昧に答えて口を噤む。
「……じゃあ部屋に戻る」
「ん。また明日な、轟」
「お休み」
そう呟いて上鳴の部屋を出る。大きく息を吐くとなんとも言えない感情とこれが半年、毎日続くのかと言う煩わしさに後ろ手に頭を掻いて自室へと足を向けた。