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    はるち

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    はるち

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    離艦申請書を受け取るときってどんな気持ちなんでしょうね

    #鯉博
    leiBo

    繋いだ運命が離れないように「この舟を降りたい」
    一瞬、呼吸のやり方を忘れる。息を吐く方法を思い出したのは、彼が目の前にひらひらとかざしてみせる離艦申請書が、彼とは別の龍の手によって書かれたものだと気づいたからだ。
    「って言ったらどうします?」
    「悪趣味な冗談はやめてくれないか」
    睨みつけても、彼の飄々とした笑みは崩れない。冗談ですよ、と彼が隊長を命じられたとき、作戦が始まる前に小隊を解散しそうになったときの、あの慌てた声が聞こえることはなかった。ならばその問いかけの一部は、彼の本心なのだろう。
    「……、止めはしないよ」
    「おや」
    思い出すのは、彼の手にしている申請書を書いたドラコ、ターラーを守護すると決めた赤い龍だ。自らの運命を向き合い、戦火と共にあることを決めた。
    ここはあくまで方舟だ。終の棲家ではない。行くべき場所を見つけたならば、それを拒んで引き止めることがどうして出来よう。
    それに。
    「君がここを離れるってことは、私は愛想を尽かされたってことだろうからね」
    肩をすくめる。軽口に、彼はくつくつと喉を鳴らした。手を離した拍子に紙はテーブルへと落ちた。今となっては不要なものだ。
    「追いかけてはくれないんですかい?」
    「どうだろう、天高く舞う龍に追いつけるとは思えないな」
    私がすべきなのは、そうなる前に首輪でもつけておくことなのかもしれない、と私も手を伸ばす。しかし指先が触れ合う前に、私は両手を掲げた。
    「まあ、そんなことはしないけどね。ロドスはホワイト企業なんだ。従業員の自由意志を大切にするよ」
    「……」
    紙一重で肝心なものを掴み損ねた彼が、恨みがましい視線を向ける。最初に揶揄ったのは彼の方なのだから、そんな目をしないでほしい。
    それに。
    彼は、私のそばにいないほうが余程――平穏で、幸福に生きられるのではないだろうか?彼の言う、贅沢な願いを叶えらるのではないだろうか?
    「ドクター」
    静電気に似た何かが肌を焼く。にこりと、彼は微笑みの底に苛烈な炎を潜ませている。返答を間違えれば、それは間違いなく雷となっただろう。これだから逆鱗を持つ生き物は厄介だ。
    いつだって雄弁は銀、沈黙は金である。私は降参のポーズのまま、他意はないことを訴える。
    「ま、知ってましたけどねえ。手を離したら最後、取り返しがつかなくなるってことくらいは」
    するりと胴に巻き付いたのは、腕ではなく尻尾だった。加えて指を絡めて手を繋がれる。
    「……いいのかい?」
    「何がです」
    薄氷の上でタップダンスを踊っていることを自覚しながら、言葉を探す。
    「不幸になるかもしれないよ」
    戦火、戦争、戦乱、ロドスにいるということは、私のそばにいるということは、それに身を投じ続けるということだ。絶え間なくこの大地を襲う滅亡を回避するために、永劫にも近しい戦いを続けるということだ。差別の廃絶、鉱石病の根絶。それは私達の理想だ。しかしその理想の足元には、暗く爛れて目も当てられない現実が横たわっており、その上を歩く苦痛だけが理想を求めて追いすがるものへの報酬なのだ。
    「君は不幸になりたいのか?」
    私のそばにいるということは、つまりそういうことだ。
    彼は唇を三日月の形に歪める。つまらない問いを一笑に付すように。そして、引き寄せた私の手の甲に、その唇を落とした。
    「してくださいよ、世界一不幸に」
    そうして彼は笑う。世界一幸福な男の笑みだった。
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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