救済の技法ひとつふたつと尾を引くような鐘が鳴り、石造りの美事な講堂に朗々たる声が響く。決して狭くはないそこを埋め尽くす黒いローブに身を包んだ信者たちは一様に膝をつき頭を垂れ、壇に立つただひとりの説教を一言一句聞き逃さまいと熱心に耳を傾けている。鬱々と燃える蝋燭が揺らめいては影を作り、月の光を集めたような髪を赤く照らしていた。
信者と同じローブから覗く彼の四肢は人のそれではなく、冷たい光沢を放つ金属のもので。良く見やればその淡く紫がかった灰銀色の双眸も自然のものではない。人の姿をしていながらもアンバランスで、それでいて完成されたかたちをした彼は『羊の群れ』と称されるカルト集団の教祖である。
名をファルガー・オーヴィド。心に迷いを持つ者は誰も彼もが救いを求めて教団の門戸を叩く。曰く、[[rb:機械仕掛けの救世主 > サルワトルエクスマキナ]]。鉄血の使徒。月下の君。言われようは様々だが、向けられているのは往々にして畏怖と畏敬だ。
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