紗誕(一紗+結乃)※未完 不意にその眼前に飛び込んできたのは花だった。
「……は?」
放課後の被服室は築一紗の城だ。部活があればミシンを上機嫌に歌わせ、なければなかったでプレイヤーで音楽を流しながら好きに過ごしている。教室や図書室のように他の連中に気を遣う必要もないが、それでいて適度に他人の気配があるのがいい。夕焼けが窓から望めるのも好きだ。強いてマイナスを上げるなら購買部が遠いことだが、それはまあ許容の範囲内だろう。
今日もそんな城で一人寛いでいた王様の前に差し出されてきたのは彼のパーカーやその瞳を思わせる赤を基調とした花束で、確かに自分に向けられたものと彼は理解した。理解したからこそ疑問にも思って、差し出す人物を見上げた。
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