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    くろせ

    @icomg39

    長いのとかえっちなのとか致命的なネタバレ含む奴とかとにかくワンクッションおきたいの置き場

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    くろせ

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    #モクチェズ
    moctez

    ラプソディ・イン・マリッジブルー久方ぶりに食の好みが合う友人と食事に出かける機会を得た、となるとついつい箸も進み、ついでに酒も進んでしまうのが人の性。酒に弱いモクマの相棒とは違い酔いはすれどもそれなりに嗜める相手となると、つい酒を注ぐ手も忙しなくなってしまうというものである。
    懐かしのミカグラで、舌鼓は今夜も高らか。大衆居酒屋を喜んでくれる相手との気兼ねない酒の席。出会ってからはや数年が経つが、こんな機会は何度あっても良い。
    「あまりにもうま~い!」と恵比須顔で頬を落とすルークを肴に飲む酒はモクマにとっていつも格別に旨く感じるのだ。

    「モクマさんまれ!僕をティーンのころも扱いしてえ」
    「ルークごめんね、おじさん調子乗っちゃった。ほらこれ、お水飲んで」
    「お水なんかれ、誤魔化されませんからあ!」
    それがどうしてこうなるのか。
    数十分前まで和やかだった席の荒れ模様。己の愚行を悔いれど時すでに遅し。
    へべれけに酔ったルークに座った目で詰め寄られながら、この失態を相棒が見れば大変厳しく叱られるだろうなとモクマは濁々の冷や汗をかいていた。

    モクマは酒を飲むのが昔から好きだ。
    過去好んでいた理由はともかく、今はアルコールの助けで場が盛り上がったり口や心の栓が緩まって気安く話せることを楽しんでいる。酒の席に付き物の愚痴やぶっちゃけ話だって、他人の人生の喜怒哀楽に触れられる良い機会だ。
    だから今日、ルークの酒が思いの外よく進んで守秘義務に抵触しない程度の仕事の困りごとやちょっとした過去の恋愛事情とそこから発展する猥談が出始めた時も、ルークには悪いなと思いつつそれはもう楽しく聞いていた。外に漏らす気も翌日酒気が消えた場に話題を持ち出す気も勿論ない。人に喋ることで発散される鬱憤もあるだろうという善意が大半だが、管を巻きながら飲む酒の味わい深さもモクマの舌には合ってしまうので。
    とはいえ今日は相手がルークということもあり、モクマもつい羽目を外してしまった。自分自身もよく飲んだし、酔いの経過を慎重に見極めなければならない相手でもないため年長者として最低限の気遣いを忘れてしまった自覚がある。
    「なんれ!ふたりして僕には隠すんですかあ!お祝いくらいさせてくらさいよお!」
    その結果がこれだ。どこに出しても恥ずかしい立派な酔いどれの完成である。
    「隠してたっていうかね、いい歳したおじさんの恋バナなんて若人は興味ないかと思ってね」
    「聞きたいに決まってます!僕ばっかり仲間外れにして!アーロンもナデシコさんもスイさんもシキも!みんな知ってるみたいなのに僕だけ!」
    「いや、皆なんか気づいちゃって…突っ込まれたら隠すのも違うし…アーロンにはチェズレイから絡んでたけども」
    「あれで気付くなって方が嘘ですよ!僕だって聴取したい気持ちを抑えて、いつ報告して貰えるんだろうってドキドキして、クラッカーにコングラッチュレーションのバルーンまで買ってたんですよ!」
    「それはなんちゅうか…ごめんねぇ…」
    果たして、本日ルークの憤りは飲み相手であるモクマとその相棒に爆発している。内容はいたって単純、「二人の色んな意味での進展具合を自分だけ教えて貰ってない」という拗ね混じりの可愛いものである。

    ルーク・ウィリアムズ、28歳男性職業国家警察。射撃の名手であり数々の難事件にも持前の正義感で果敢に立ち向かい解決してきた地力と胆力のある素晴らしいヒーローだ。仕事柄観察力は高く人の機微にも敏感で、未成年からのアプローチに二十歳を超えてからまた告白して欲しいと返すような理性的で模範的な大人と言える。
    なのにどうしてか、モクマの相棒はこの成人男性を子ども扱いして憚らないのだ。
    正直モクマはルークにだって察されている自覚があった。けれどこの好青年が人の恋愛事情を軽々しく掘り下げたりしない自制心に甘えてのらりくらりと躱して今日まで来た。モクマの昔馴染みの世界一の女性などはミカグラを発つ空港までの送迎で「チェズレイとはどこまでいったんだ?言ってみろ、ん?」だったというのに。
    今この瞬間まで、きっと気になりながらもずっと口を噤んでくれていたルークが酔いに任せてついにここまで踏み込んだことを、むしろモクマは称えたいくらいの気持ちでいる。よくこれまで我慢してくれたねという感謝、それからちょっとした下世話な話も選んでくれるようになった気安さに対して。
    ただし、いざ口火を切ろうとすると恋バナは意外と匙加減が難しい。付き合うきっかけから二人の性事情まで、話題のグラデーションがあまりに幅が広すぎるのだ。

    「さて何から話したもんかな。ルークが察しとる通りの関係ではあると思うんだけども」
    「いつプロポーズしたんですか」
    「へっ」
    「盛大な式、するんでしょうだってチェズレイですもんね!?色々と都合もあるかもしれないけど、僕だって二人を祝福したい!!!これでも余興には自信あるんですから!!」
    「ええっ、え!?」
    プロポーズ。式。てっきり付き合うきっかけや家族への挨拶事情、ここまで酒が入っているなら下世話に夜の話題でも求められるかと思ったが。
    虚をつかれて動揺するモクマに、ルークは更にぐびりと酒で喉を潤して、そのままグラスをテーブルに叩きつける勢いで置いた。あまりの剣幕に追いつめられる犯人の気持ちになって、若干椅子を引きながらモクマは身を縮こまらせる。
    「証拠はあがってるんですよ…今日は僕に気付かれたくなくて外して来たのかもしれませんが、左薬指にある日焼け跡。くっきりついているのを見ればそれなりに長期間指輪を付けている事くらい分かります。普段アクセサリーをつけたりしないモクマさんがそこに指輪をつけることがどんな意味を持つかなんて、THINKING TIMEに入るまでもない!」
    「げ、現役警察官から恋の尋問だなんて…おじさん、ドキドキしちゃうっ」
    場所柄の喧騒と幸いにも周囲の客も酒が入って周りへの関心が薄いお陰でどうにか悪目立ちせずに済んでいるが、もはやルークはこの場で立ち上がらんばかりにヒートアップしている。どう鎮めるべきかとモクマが言葉を選んでいる間に、殆ど噛みつくような勢いでモクマに迫っていたルークは静かに佇まいを直し、そのまま肩を落とし俯いた。
    「…二人が仕事柄、僕との関係に気を遣ってくれているのは分かってます…。でも、大事な友人の結婚式に呼ばれないのって、やっぱりさみしくて…」
    「ルーク…」
    徐々に小さくなって消えていく言葉尻からは寂しさが痛いほど伝わってくる。
    すっかりしょげて垂れ下がった犬耳が見えるほどの落ち込みようは、流石のモクマも茶化したりは出来なかった。
    「ルークすまん、俺たちが何も話さんことで不安にさせたね。ちょっとだけ誤解を解きたいんだけども、俺とチェズレイはまだ結婚とかはしてないんだよ。指輪はこないだまで夫婦を装う必要があるオシゴトしててさ。式の予定も今のとこないからルークだけ誘ってないなんてことはないからね」
    「…………………」
    「…あ~、でも付き合ってるとかも全然言わなかったのは、逆にちょっと気まずかったよね!チェズレイがボスにはまだ早いですっちゅうもんで…でも一応チェズレイも」
    「………………………」
    「ルーク?」
    モクマがどれだけ言葉を重ねれどルークからの返答はない。俯いたまま動きのない様子をモクマがよくよく窺えば、しばらくの後ガクン!と体の力が抜けたように頭がテーブルに落ちた。
    そのまま聞こえ始めるのは健やかな寝息。
    深刻な雰囲気かと俄かに緊張していたモクマは大きく息を吐いて脱力する。酒の勢いもあったとはいえ、ルークにここまで詰められたことは過去になかった。些細な話題だと思っていたが、殊の外思い悩ませていたのかもしれない。
    今は穏やかな表情で机に頬を預けている寝顔に己を省みながら、それでも一抹の微笑ましさに苦笑するしかないモクマだった。


    ****


    詫びにもならないが今夜の会計は全て支払って、さてどうしたものかとモクマはちょうど後ろの席で一人食事をしていた女性の肩を叩いた。
    「流石に今夜は仕切りなおしていいよね?」
    「当たり前です。モクマさんあなた、今日は本当に羽目を外し過ぎていましたよ」
    「いや~、だってこんなん初めてだから緊張しちゃって…」
    肩程までの茶髪をふわりと揺らして、可憐な女性が振り返る。フェミニンな雰囲気には似合わない剣呑とした視線に厳しく咎められ、またもモクマの背には冷や汗が滲んだ。美しい紫の瞳に射られるとどうにも落ち着かず、普段よくしているように後ろ頭を掻いておどけて宥めるしかないモクマである。
    「記憶あるタイプだっけ?ルークって」
    「ここまで酔ったボスを私は見た事がありませんので何とも」
    「ま、明日起きたら改めて言うってことで良いんじゃない?だから言ったでしょ、ルークはとっくに気付いてるってさ」
    一向に起きる様子のないルークの体を左右から支え、店の扉を跨ぐ足は六本。大衆居酒屋ではよく見られる光景なのか誰も気に止めた様子はなく、扉をくぐると同時に姿を変えた女性も勿論見咎められることはない。妖しく緑がかった長いブロンドが夜風に靡く。
    「何であんなにルークには言っちゃダメって頑なだったの」
    「余人に秘密の関係を悟られる恥じらいを私が持ってはならないと?特に両親の寝室をわざわざ想起させるなど…健全な育成を阻害する可能性すらあります」
    「あ、まだ続いてたのねそれ…。じゃ、それを言うつもりになったのはどういう心境の変化?」
    「何も知らないまま式に呼ばれてはそれこそ寝耳に水でしょう。心の準備は必要かと」
    「へえ。……へえ!?」
    今夜。モクマはルークを酒に誘ったが、実は初めからチェズレイもその場同席していた。ただ楽しく酒を飲みたい気持ちも勿論あったが、今回ルーク達と時期を合わせてミカグラを訪れる予定になった時からチェズレイが二人の関係をそろそろルークの耳に入れても良いのではというのでその機会にしようと思っていたのだ。
    変装したチェズレイが背後の席に控え、程よく場が温まった頃にサプライズで登場しじゃ~ん二人は付き合ってました!とでもすれば場も和むのではと浮かれた提案をされ、それに合わせた形だった。しかしいざ伝えるとなると、母への挨拶で妙に畏まって頭を下げた気恥ずかしさを思い出し緊張を紛らわせるためアルコールを求めた結果がご覧の有様だった。
    夜道は程よく風が涼しく、酒精ははらはらと解けていく。チェズレイが何気なく告げた言葉を聞き逃せない程度には。
    「式って何?!おじさんが寝耳に水ですけど!?」
    「先日次に狙う組織をお伝えしたでしょう?下す手段として、結婚式を予定しておりましてェ」
    「な、なんで」
    「その組織、主な資金源が違法薬物という時点で度し難いですがなんと取引場所として自らの経営する式場を利用しているのですよ。スタッフや客に売人を混ぜ華やかな祝福の場を隠れ蓑にするばかりか、一般客まで言葉巧みに騙し商品を捌いている。浅はかで卑しい外道には…是非とも悪の鉄槌を」
    神が最高傑作と誇りそうな程の美貌を悪魔のように歪ませながらチェズレイは笑う。軽く聞いていた仕事の詳細に内心驚きながら、しかしそれもモクマにとっては慣れたものだ。何せ、この悪党と同道してはや数年が経過しようとしている。世界征服の道すがら、これ以上に度肝を抜かれることはごまんとあった。
    「それで、式を挙げる新婚夫婦を装う訳ね。式場スタッフに扮するでも良い気がするが…まあこないだも似たような潜入したしこっちの方が慣れたもんかもね」
    「えェ。そして今回の作戦には、叶うならボスやあの野獣の能力もお借りしたい。けれどボスはいくら犯罪組織壊滅の為という名目があれど偽りの結婚をお許しにはならないでしょう。ならば事実があれば良い。私とあなたに掛かる鎖はこの小指に絡んだもので充分と思っていましたが、良い機会とも言えるでしょう」
    チェズレイの口から淀みなく語られる今回の「作戦」は、彼の立案にしては隙だらけで合理性に欠けている。わざわざ手間をかけて式を行うよりもスタッフとして内部に潜入する方が滞りなく必要な情報は得られるだろうし、手練れた武闘派集団でもない麻薬組織の壊滅などモクマ一人の手で軽く事足りる。
    けれどこういう時、チェズレイが殊の外人間である事を既にモクマは知っていた。
    然るに、欲を優先しているのだ。
    「式挙げたいって言ってくれたら、おじさんだって協力したのに」
    「作戦の一環だと申し上げたでしょう?私が立案し、あなたはそれを完遂してくださる。いつものことです」
    「意思確認が大事でしょこういうのは」
    「はァ。ではモクマさん、病める時も健やかなる時も私を愛することを誓えますか?」
    「来世の絆まで誓っといて今更愛が誓えんとでも?馬鹿にされたもんだ」
    「ほら見なさい。それにあなただっていつも人の意思確認を省いて先回りをなさっている。行動はいずれ己に返ってくるもので」
    「んっ!ゔん!」
    常日頃からもはや癖となった言葉の応酬が咳払いのような声に堰き止められる。
    帰路の歩みこそ止めないままだったが、しかしここは相変わらず屋外で、勿論二人の間にはよたよたと引きずられる酔っ払ったルーク・ウィリアムズがいた訳で。
    「……ぐーぐー」
    「どうしますお父さん。あなたが騒ぐから起こしてしまいましたよ」
    「そうは言っても母さんや…」
    「すみません僕は寝ていますので…お気遣いなく…」
    一体どこから目覚めていたのか、どこから口を挟めずにいたのか。酔いとはまた別の要因で頬を茹らせながら困り果てているルークだが、モクマとチェズレイもさていよいよどうしたものかと目くばせをして相手にこの場の打開を委ねたがっている。アーロンの前でならともかく、先ほどまでの会話をルークに聞かれたのはそれなりに気恥ずかしいし、何よりおおいに気まずかった。

    「…とりあえず、式には呼んでもらえるってことで良いんだよな?チェズレイ」
    「…勿論ですとも、ボス。素敵な余興も楽しみにしております」
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