manicure「兄貴ってそれだけお洒落に気を浸かってるのにマニキュアしねぇんですかい?」
鮮やかな緑色の爪の塗られた手を水平にするように腕を伸ばすペッシにオレは顔を上げた。
「マニクーレなんざオレには必要ねぇよ」
ぱちん、と深爪気味に爪を切る。
そもそも、見た目に気を遣うのもギャングとして舐められねぇようにする為だってのと、弟分の前でダサい格好や派手な服装をして幻滅される訳にはいかねぇからだった。
魚の骨を意味する髪型と柄のスーツというスタイルにしたばかりの頃はその理由と意味を知るホルマジオからは嗤われたりもしたが。
「え~でも兄貴の手綺麗なのに」
オレの手を取り無邪気に覗き込むペッシ。
オレが綺麗な訳ねぇって事、お前は分かってねぇんだろうな。
「オレの手は汚れてる。直触りで殺したり、拳銃で命を奪ったりしてきた手だ」
この世界で生きる為にオレはずっとそうしてきた。
「でもオレは」
ペッシは両手でオレの掌を包む。
「オレを撫でてくれて時にはぶん殴ってくる、世界一優しくて大好きな手だ」
こいつはいつもそうだ。マンモーニの癖に時折眩しいまでに真っ直ぐに素直な感情をぶつけてきやがる。
「……そうかよ」
「うんーーだからさ、兄貴にもオレとオソロのマニキュア塗ってもいいかい?」
「ハン、好きにしやがれ。ステゴロで戦って剥がれても文句言うんじゃねぇぞ」
手を引かれるがまま爪へ絵筆を走らせるようにペッシがオレの爪を緑に塗っていく。
お前の色に染められてるみてぇで悪くねぇ。
今日の標的(ターゲット)にはわざとこの爪を見せつけてやろうか、と邪な思考にオレは唇の端を歪ませた。