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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフ鰐風味
    ⚠本誌ネタバレ有ります⚠
    若様⚔ギルド加入if
    ふわっと脱獄して⚔ギルドに加入した🦩と、ギルドの人たち(🐊🤡🦅)
    ※モブの主張が強い
    ※オリジナル設定
    ※風味程度のドフ鰐

    REBIRTH&DESTROY「意外だな」
    「フフフフッ……!別に、あくまでおれは、"スポンサー"。鰐野郎の下についたつもりも、ましてやあの道化野郎の手下になったつもりも無いぜ」
    「……いや、」
    平和とも見紛う、穏やかな昼下り。
    アンティークな様相のカフェのテラス席に座る"鷹の目"、ジュラキュール・ミホークは目の前で本を読み、時折紅茶の入ったティーカップを口元へ運ぶ男を眺めて静かに言った。
    思惑とは違う返答を聞いたミホークの、反する相槌にドフラミンゴは怪訝そうに顔を上げる。
    「もっと、喧しい男だと思っていた」
    「フフフフッ。相変わらず、扱い辛ェ男だ。おれァTPOを弁えているだけさ」
    「……そうか」
    クロコダイルが突然連れてきた"金ヅル"は、何だかんだと言いながら、クロスギルドに錨を下ろした。
    この組織に入ったわけではないと公言しながらも、こうして"スポンサー"探しについて来たドフラミンゴを不可解に思いつつ、それに言及する予定はない。
    詰まるところ、"興味"が無いのだ。
    「クロスギルドにゃァ、おれも一目置いているんだ。この海の勢力図を書き換えるとな。フフフフッ、期待してるぜ」
    「それが、」
    突然、二人の見聞色に掛かる、"何か"が動く気配。
    テラス席に投げ込まれた物体を、殆ど無意識で掴んだミホークはそれが、割と重たい麻袋だと後から悟った。
    「……」
    「……なんだ?爆弾か?」
    モゾモゾと動くその袋を、二人して覗き込み、訝しげに顔を見合わせる。
    やがて、奇妙に動くその袋の口が開いた。

    「プハーッ!クソっ!油断した!!!あのクソ女ァアアア!!!ハデに舐め腐りやがって……!ブチ殺してやる!!!」

    「「……」」

    袋の中から出てきたその"生首"は、元気いっぱい悪態を吐いて、目だけでキョロキョロと辺りを見回している。
    見知ったその青い髪と、赤い鼻に、ミホークとドフラミンゴは思わず黙り込んだ。
    「うおお!ハデに幸運だぜ……!聞いてくれ!同志諸君!!このおれ様の体が"盗まれちまった"……!」
    クロコダイルと一緒に出掛けた筈の、"座長""千両道化"のバギーの生首は、自分を見下ろしているのが同僚である事に気が付き、明るい表情を見せる。
    同僚のつもりは毛頭無いミホーク達は相変わらず、白い目を向けていた。
    「……一応聞こうか。何があった」
    この国に降り立ったのは、勿論、観光ではない。
    まさかの海軍支部から、クロスギルドを支援したいという申し出を受け、クロコダイル率いるドフラミンゴ達がこの島に上陸したのは昨日の事だ。
    G3と呼ばれる支部へ向かうクロコダイルに付いていった男が、こうして文字通り首だけで帰ってきたのである。
    どちらかと言えば、クロコダイルの身を案じたドフラミンゴが、その首だけでもうるさい男の派手な顔面を眺めた。
    「それがよ、天夜叉の旦那!相手が支部に入るのはクロコダイルだけだと言って聞かねェからよォ、おれァ外で待っていたんだが、暇だったもんで酒場で一杯やってたわけだ。そうしたらよ、」

    『”千両道化”のバギー、ねえ、そうでしょう』

    四皇の名を恐れもせずに声を掛けてきた女は、フード付きのマントを深くかぶっていて、顔がよく見えなかった。
    ただ、その影の奥で、青い宝石のような瞳が一度光を反射し輝いたのを覚えている。
    「てなわけで、酔っ払ってバラバラの能力披露してるうちに、いつの間にか"青い目の女"に胴体持ってかれちまったってワケだ!ギャハハハ!!!ハデに迂闊!!!!」
    「貴様の処遇が決まった」
    「殉職。二階級特進だ。おめでとう、道化野郎」
    「座長の二階級上ってなんだ!!!神か?!?!」
    「いや、ホトケだ。畑で採れたナスで馬は作ってやるから、盆はそれで帰ってこい」
    「優しい……!ん?優しい……?!」
    忌々しい青髪を掴み、黒刀を抜いたミホークの隣で呆れ果てたように額を撫でたドフラミンゴは、うんざりと息を吐いた。
    優秀な人材が集まっているようで、意外と波乱万丈なこの組織は何かと忙しない。
    「どうするよ……鷹の目。曲がりなりにも組織の頭がこの体たらくじゃァ、格好が付かねェぞ」
    「安心しろ。もうじきコイツは死ぬ」
    「殺意が凄い……!ほんといつも迷惑かけてゴメン!!!」
    「胴体の行方に心当たりはあるのか?」
    自分の投資を無駄にしたくないというだけの気持ちで言ったドフラミンゴの言葉に、バギーの表情が嬉しそうに輝いた。
    それはそれで見当違いだが、正す気も起きないドフラミンゴは、再び面倒臭そうに額を撫でる。
    「それがよ……」
    気まずそうに笑うその顔に、嫌な予感を感じたドフラミンゴの口角が下がった。
    "てへへ"、とばかりに薄ら笑いを浮かべたバギーの口元がゆっくりと開く。

    『返して欲しかったら……海軍GL第3支部へ』

    「どうやらおれの首から下は……G3支部内にあるらしい」

    ******

    「海賊風情に献金の申し出とは……いいのかね、"基地長殿"」
    「本来私は正義を追うためここに居る訳ではないのだよ、"サー"・クロコダイル。私はその時々によって、一番有利な場所に居るだけだ」
    海軍GL第3支部。所謂G3の"基地長室"へ、裏口から通されたクロコダイルは長い足を組んでゆったりとソファで葉巻の煙を燻らせた。
    話は簡単。クロスギルドのスポンサーとなる代わりに、G3支部に所属する海兵の首に懸賞金は掛けないで欲しいというだけのこと。
    馬鹿共のせいで資金繰りに不安のあるクロコダイルは、悪い話では無いと思っていた。
    「この国に長らく支部を置き、悪党達とは"適切"な距離で共存してきたのだ。結局、それが一番平和だと、そうは思わんかね」
    「クハハハ。その通りだ。基地長殿」
    蝙蝠野郎が、などと、心中で思った悪態を表には出さず、クロコダイルは上機嫌で笑い声を上げる。
    "金ヅル"は、多いほうが良いに決まっているのだ。
    その時、クロコダイルの視界の端で、チラチラと何かが目障りに動く。
    「……ッ」
    「……どうかしたかね」
    「……いや」
    視界の端の、窓の外。
    ミホークと何故か首だけのバギーを抱えて、スー、と静かに降りてきたドフラミンゴが目に入った。
    ドフラミンゴの小脇に大人しく抱えられているミホークが、ス、とスケッチブックをこちらに向ける。

    "トラブルが起きた"
    "どうにかする"

    それだけ書かれたスケッチブックを、クロコダイルが読んだと確認したのか、そのまま静かに三人は、視界の外へ降りて行ってしまった。
    あまりにも間抜けすぎるその一連の行動と、どういうトラブルで、どう対処するのかも示さず去った馬鹿共に、クロコダイルは震える手のひらで葉巻をくわえる。

    『誰が赤っ鼻じゃァアアアハデバカ野郎がァアアア!』
    『う……うわ!千両道化のバギー?!何故こんなところに……!!』
    『面倒だ。全員斬るぞ』
    『止めとけって鷹の目!鰐野郎の機嫌取んのはおれだぞ?!』

    「……」
    「さ……騒がしいな」
    外から聞こえる喧騒に、クロコダイルの額にビキビキと筋が浮かび、とうとう手の中の葉巻がボキリと折れる。
    不審に思った基地長が立ち上がったところで、ドフラミンゴ達の居るであろう中庭とは反対側の方向から大きな爆発音がした。

    『基地長!大変です!!』

    その瞬間、デスクに置いてあった電伝虫の瞳が大きく開き、これまた喧しいがなり声を上げる。
    再び響いた爆発音に建物が大きく揺れて、部屋の前の廊下に海兵達の戸惑う声が飛び交った。

    『クロスギルドに……支部が占拠されたとの報告が!!!』

    怒りの沸点を超えると、人間、冷静になるものだ。
    クロコダイルは"占拠"できるほど、人員を連れてきた覚えはないと、静かに思うのだった。

    ******

    「なんだ今の爆発は……」
    「ギャァァァ!いっぱい来たぞ!どうすんだ!!」
    「全員斬り捨てる」
    「いや待て、ウチはここと協定を結ぶ予定じゃねェのか。誰か殺すと後が面倒だ」
    「んなこと言ってる場合じゃねェだろうが!またインペルダウン行きはゴメンだぜ!!」
    バギーの胴体を探しに、G3支部へ潜り込んだは良いが、中庭で見つかってしまったドフラミンゴ達に大勢の海兵達が押し寄せる。
    タイミング良く、遠くの方で起きた爆発音の正体も分からぬまま、バギーの生首を抱えたドフラミンゴは臨戦態勢を取るミホークの襟首を掴んだ。

    「……こっちよ!」

    突然、ドフラミンゴの眼下で翻る、粗末で簡素な生地。
    マントをスッポリと被った小柄な影が、その腕を取った。
    「あ!テメーは!!おれの胴体返せ……!ハデに舐めやがって……生きて帰れると思うなよ!!」
    小柄な人物の目深に被ったフードから垣間見える、見覚えのある青い瞳。
    その、宝石のような輝きに、バギーが思わず声を上げた。
    「今はそれどころじゃないでしょう?はやく、裏口から中へ!!」
    諸悪の根源、青い目の女に導かれるまま、ドフラミンゴ達は建物の中へと転がり込む。
    待ち構えていた海兵達の構える銃が、煙を上げる前にバラバラと崩壊し、地面に散った。
    「フフフフッ、美人にゃ良いとこ見せねェとなァ」
    「オイコラクソ女!テメーおれの胴体をどこへやった?!つーか何で盗んだんだ?!ファンか?!ハデにおれのファンなのか?!」
    「それはないだろう」
    「何でテメェが否定するんだ鷹の目!!!!」
    長い廊下を走り抜ける四人は、出てくる海兵達をいなしながら、何度か階段を登る。
    やっとたどり着いたのは屋上で、その隅に置かれたトランクだけがひっそりと見えた。
    「……お嬢ちゃん、あんた、何なんだ」
    扉に大げさな鍵を掛けた青い目の女は、黙ってトランクに歩み寄ると、それを開ける。
    その中から出てきた、紐で一纏めにされた人間の足や胴部にバギーが嬉しそうな声を上げた。
    「おれの胴体ー!!無事だろうな?!一個も無くしてねーだろうなァアアア!」
    ドフラミンゴの腕を離れ、自分の胴体に飛び付こうとしたバギーの首を、ひらりと避けた女は屋上の縁に立つ。
    そして、胴体を下へ投げ落とす格好で止まり、顔を上げた。

    「G3支部"基地長"の首に……多額の懸賞金を掛けて欲しいの」

    ******

    「ハァアア?!なんでテメェみたいな小娘の言うことを聞かなきゃならねェんだ!!馬鹿か?!バーカ!!!」
    「「大人気ない」」
    「G3支部は完全に腐りきっているの。数々の汚職に、悪党との癒着……意見する者は反逆罪で捕まってしまう」
    「ナルホドなァ……。そりゃァ、クロスギルドの出番だ」
    「フザケンナ!こちとら慈善団体じゃねェんだよ!!ましてやこの支部はうちのスポンサーを買って出た!どう考えても懸賞金掛けるより利があるんだよ!!」
    「……その話は、もう御破算よ」
    完全に膠着した状況下で、笑う女の頬は、ずっと、引き攣っている。
    名だたる悪党を相手取り、よくやるもんだとドフラミンゴは素直に思った。
    「建物を二箇所爆破し、クロスギルドがG3を占拠したという情報を流した。すぐに海軍本部からの応援がくるわ。貴方達は基地長に懸賞金を掛ける約束をして、はやくこの場から立ち去るべきよ」
    「……それは良いが。お嬢ちゃん。あんた、その落とし前は、どう付けるつもりだ。見込んでいた莫大な金を反故にされたのを、まさか、笑って許せとでも言うのか?」
    「……たとえ、」
    フードの下で、また青い瞳が光を放つ。
    この時代特有の、踏み躙られた者が見せる、明るくて強烈な光。
    ドフラミンゴはその眼球を覗いてから、嬉しそうに顎を擦った。
    「たとえ、わたしを殺しても、クロスギルドは海軍本部との衝突を避けられない。貴方達が"あの男"に懸賞金を掛けてくれるのなら、安全に出港できるルートを教えてあげてもいいわ。もう、貴方達はわたしに従うしかないのよ」
    「ぐぬゥ……ハデに生意気な小娘だ……!おいとっとと殺してトンズラしようぜ!」
    「……何故、」
    一日や、二日で、思い付いた計画ではないのか。
    長い間、憎悪を溜めて、お誂え向きの外部干渉を待ち望み、憎い男の死に顔を夢に見てきた者だけが持つ、激情には程遠い、冷たい殺意。
    クロスギルドがどっちに付くのか、そんなのは、"部外者"であるドフラミンゴには関係の無い話なのだ。
    「何故、国王はG3支部の好きにさせている。ここは、王国だろう」
    至極真っ当な疑問に、揺れた眼球をドフラミンゴの目ざとい瞳が捉える。
    数秒、妙に静かな時が流れ、女の口元がゆっくりと動いた。
    「……この国の王家に、代々受け継がれてきた書籍。"ニカ"という名のその本の内容は、残念ながら古代文字で書かれていて読めないけれど、国王家が始まって以来の数百年、国宝として大切に保管されてきた」
    想像もしない方向に向いた矛先に、ドフラミンゴ達が怪訝そうに瞳を細める。
    単なる昔話でないのなら、この騒動の根幹は割と根深いものになるようだ。
    「その書籍を解読しようという動きが先代国王の時代に始まり、国を上げての研究が始まったわ。何の因果かは知らないけれど……G3支部がこの国に拠点を移したのも同じ時期よ」
    「それで、何が書いてあるのか分かったのか」
    「……いいえ。前国王が事故死したことをきっかけに、研究は打ち切りに。そして、G3支部の基地長は、その研究は"オハラ"の大罪に匹敵する代物だと現国王を脅しているわ。本部に研究がバレれば、オハラの二の舞いになると。G3の行動を制限できない王家の信頼は失墜し、今やこの国は海軍支部に支配されている」
    "それ"を"知る"この女が、一体何者なのか。
    その疑問に大きな意味は無いだろうと踏んだドフラミンゴの指先が滑らかに曲がる。
    その瞬間、女の手元でバギーの胴体を纏めていた紐が切れ、あっという間に持ち主の元へと戻って行った。
    「……!」
    「エエー!マジか!!天夜叉の旦那ァアアア!あんたいいヤツだな!!!!ありがとう!!!!!!」
    「どういたしまして」
    初めて、怯えたような表情を見せた女の青い瞳を、ドフラミンゴはサングラス越しに眺める。
    今この瞬間、この男の優先順位は決まったのだ。
    「残念ながら、人質は救出され、お嬢ちゃんの頼みを聞く道理がなくなっちまったな……フフフフッ。だが、一つ、もっとイイモンを寄越せば……そうだなァ、基地長殿の首を持ってきてやらんことも無い」
    「……ドフラミンゴ、一体何を、」
    唐突にドフラミンゴが言い出した台詞の意味を、汲み取れないミホークが鋭い視線を向ける。
    それには応えないドフラミンゴは青い目の女から視線を逸らさなかった。
    「その本を寄越せ。そうすれば、懸賞金目当てに誰かが奴を殺してくれるという他人任せで曖昧な夢が、今日、この時に起こる現実となる」
    「オイオイそんな本、手に入れたからってどうせ読めねェじゃねェか!本部の応援が来る前に、トンズラしちまおうぜ!!?」
    ゆっくりと、歪む、裂けるように割れた口元。
    ドフラミンゴの肩を掴んだバギーは、その表情に思わず息を呑んだ。
    「奴ら、いつだって"火消し"に必死だからなァ。消される前に、手に入れておきてェのさ」
    「……あんた、一体何がしてェんだ」
    まるで、世界政府を相手取るとも取れる台詞に、バギーは消え入りそうな声で呟く。
    とんでもない"凶弾"を、懐に入れてしまったのだとその時やっと悟ったのだ。

    「この世の勢力図を入れ替え、頂点でのうのうと暮らす馬鹿共を地獄へ叩き落とす」

    「"破壊"と"再生"」

    「奴らの牛耳る世界を、全て壊してゼロにする」

    そこまで思う、この男の腹に抱える"憎悪"は、一体、何に引火しているのだろうか。
    小心の自覚はあるが、恐いよりも、哀れだと思ってしまうのは、この海で一番、"自由だった"男を知っているからだ。
    自分で描いた理想からも逃げ出せない、その男の不自由を、バギーは心底、気の毒だと思う。

    「……あげる。"ニカ"は、貴方にあげるわ」

    押し黙っていた青い目の女は、ようやく決心したように口を開き、ドフラミンゴは喉の奥で笑い声を上げた。
    こうやって、奴の周りに増え続ける"駒"は、果たして、彼を救うのだろうか。

    (全員テメェの"玩具"なら、そりゃァ、一生独りだわな)

    奴の人生には"それ"しかなかっただけのこと。
    それ以外の人間関係を、築かなかった理由すら知らないバギーには、それを、どうこう言うつもりは毛頭無いのだ。
    「ってオオオイ!どこ行くんだ!」
    「あ?おれァ、基地長の首を撥ねてくる。どうせ協定話はおじゃんだろ。お前ら鰐野郎と合流して出港の準備でもしてろ。最悪先に出して構わねェ。スグに追い付く」
    「クロコダイルに言わなくて良いのか。勝手に動くとまた怒るぞ」
    「……そこはお前らでどうにかしてくれ。おれは"部外者"だ」
    「「ずるい」」
    バサリとファーコートを翻し、踵を返したドフラミンゴは軽々と青い目の女を抱え、屋上から身を投げた。
    その、消えてしまった背中に、ぼんやりと思うのは、"もしか"の話。

    (ロジャー船長と、出逢えば良かったのにな)

    ******

    「意外と……切れねェモンだ。あんたと、あっしの縁も……」
    カラン、カラン、と、下駄の底が軽い音を立て、杖代わりの鞘がカツカツと地面を叩く。
    中庭に降り立ったドフラミンゴの背後で、唸るような声音を聞いた。
    「あっしのような下っ端にゃァ、あるとも知れねェ"六番目"から、遥々こんなところまで、あんたの"執着"にゃァ恐れ入る」
    「ヘェ……。海軍本部は随分、デカい兵器を寄越してきたモンだ……なァ、"藤虎"」
    一歩、近づく度に、ザワザワと騒めく空気は恐らく、幻想の類では無いだろう。
    ドレスローザ陥落の一つの要因。忌々しい犬の登場に、ドフラミンゴは内心辟易とした。
    「帰りやしょう……"天夜叉"の。"大参謀"がお待ちだ」
    「フフフフッ……!いつからテメェ、おれの"ホゴカン"になったんだ。お前らは一つ、勘違いをしている」
    対峙するイッショウの足が滑るように肩幅まで開くのに合わせ、一際、周りの空気が怯えるように揺れる。
    深く腰を落とし、静かに息を吸い込むのが見えた瞬間、ドフラミンゴは抱えていた女を植木の影に放り込んだ。
    「おれの"計画"が……"ドレスローザ"で潰えたなどと、お前らまさか、そうは思っちゃァいねェよなァ?!」
    「勿論でござんす。天夜叉の。だから……あっしはここに居る!!」
    肥大した、消えることのない憎悪と衝動。その矛先が、未だ平穏に過ごしている悪夢のような現実。知ってか、知らずか、またその地獄へ引っ張り出した、野心的な男。

    『更生したか?フラミンゴ野郎。お前、手下にしてやるから顔貸せ』

    "出たかった"訳ではない。
    ただ、腹の底の衝動が、静まる事を知らなかっただけ。
    地獄に落ちたあの日から、巣食う獰猛な獣は、ドフラミンゴに穏やかな夢を許さない。
    「"猛虎"」
    ズシリと、息もできない程の重力に押され、ドフラミンゴの足元がへこむ。
    身動きも取れない圧迫感の中で、ギラリと光る、"虎"の"牙"を見た。
    「あんたァただの……"亡霊"だ!!世界の破壊などという、大それた妄想に縛られ続け、成仏できない怨念……!!死に際を見誤った亡霊に……引導を渡す"誰か"は、居なかったんですかい……!?」
    (あァ……うるせェなァ……)
    自分すら、"それ"を許さないのに、そんな事、できる筈がないだろう。
    刀身が太陽の光を反射し、その光を受けた眼球が眩む。
    迷いの無い牙が、ドフラミンゴの喉笛に食いつく間際、イッショウの"勘"に割り込む、知らない"匂い"。
    突然ドフラミンゴとイッショウの間に入り込み、その刀を握る腕を押し返した人間が、一体誰なのかを知る前に、その刀身が呆気なく胴体を断ち切った。
    「……あァ?」
    二つに分かれた体が、重たい音を立て地面に落ちる。
    それでも、息絶えなかった生命がガバリと喧しく起き上がった。

    「ウオォオオ!!!!こえー!!こえーよ!!覇気?!覇気で斬られた?!いや、覇気じゃねェな!!!!よっしゃセェェエエフ!!!!!おれ様無事生還だ!!!」

    斬られた筈の胴体が、いとも容易くくっつき、一人楽しそうなバギーに気を取られていたイッショウの周りに、ザラリとした砂が巻く。
    砂の塊が徐々に人間を形作り、その中から現れた手のひらが、イッショウの顔面に伸びた。

    「……亡霊?馬鹿言うなよ……そいつは、」

    ドフラミンゴの眼前で揺れる葉巻の煙と共に現れた、"サー"・クロコダイルの瞳が凶暴そうに光を上げる。
    思えば、この男の真意だけは、未だ不明なのだ。

    「コイツはおれの、"金ヅル"だ」

    ******

    「オーオー、クロスギルドのお偉方が、揃ってお出ましかい」
    「残念。お宅のお偉いも登場だ」

    クロコダイルの右手を振り払い、後退したイッショウの足元に、ミイラと化したG3支部基地長の体を投げたクロコダイルは、得意気に笑う。
    そして、懐から取り出した大小様々な紙切れを続々と放った。
    「基地長の直筆サイン入りマフィアとの不可侵協定、数々の悪党共から支部への献金の証拠、武器供与に、証拠捏造による不当逮捕……。どれから詳しく教えて欲しい」
    「……ヒーローの真似事のつもりですかい、"砂漠の王"」
    「面白い事を言う……おれはヒールさ。だから……"全て"壊して"ゼロ"にする」
    「……何を、」
    地面に付いた"右手"が、抗う間も与えずに、全ての生命を枯らす。
    パキ、パキ、と軋むような音がした一瞬後、建物諸共弾けるように辺り一面が砂に飲まれた。
    「鰐野郎。お前、いいのか。スポンサー候補だったじゃねェか」
    「……いいのか、だと」
    崩れ落ちる支部の一部が瓦礫となり、イッショウとドフラミンゴ達の間を分断する。
    その様子を眺めたドフラミンゴの台詞に、クロコダイルはゆらりとその胸ぐらを掴んだ。
    「いいわけねェだろうが糸屑野郎……!ここの分の金はテメェが払えよ……!!」
    「……おれのせいじゃねェだろうが」
    「監督不行き届きだ。テメェも同罪なんだよ……!!!」
    「じゃあ鷹の目もだな」
    「あいつはノーカンだ」
    「あからさまな贔屓!!おれは部外者だぞ!!」
    ドフラミンゴはため息を吐いて立ち上がり、植木の影で怯えるように縮こまっていた女を釣り上げ、再び抱える。
    基地長の首は、クロコダイルが取ってしまったが、まあ、結果に変わりはないのだ。

    「"部外者"を……望んだのは、テメェじゃねェか」

    支配と服従の形にしか、愛を見いだせぬ哀れな化物。
    その違う価値観を、自分の為に変えて欲しいと思う程、この男に入れ込んだ覚えはない。
    ただ、"気に入らない"だけなのだ。
    ずっと変わらない"部外者面"は、何も、今始まった訳では無い。
    クロコダイルの気だるげな視線を受けて、ドフラミンゴは喉の奥で笑い声を上げた。
    そして、ゆっくりと視線を逸らす。

    「"そうしろ"と、言ったのはテメェだ。……鰐野郎」

    応えない、クロコダイルの背後で瓦礫が弾け、再び軽い、下駄の足音が聞こえた。
    くだらない問答に終止符を打ち、ドフラミンゴは落ちてくる瓦礫から逃げ惑っていたバギーの襟首を掴む。
    「クハハハハ!!"破壊"と"再生"だ、政府の犬共。壊すのは悪党の勤め、再生は君達の勤めだ。宜しく頼むよ」
    「あ!オイ!藤虎ァ!!もう七武海は無ェんだ!おれの懸賞金上げてくれよ。できれば鰐野郎よりも高く頼むぜ」
    「ムショ帰りの小物がイキがってんじゃねェよ」
    「おれの金額は正直もう少し下げて欲しい。ハデに」
    「「それはそう」」
    好き勝手言いながら、一目散に逃げ出した悪党達の背中を眺め、イッショウは足元に散らばるこの支部の闇を見下ろした。
    何故、この海は、正義と悪を明確に分けられないのか。

    『"破壊"と"再生"だ』

    壊せる、その自由を、羨ましいと思うから、自分は"見る"のを辞めたのだ。
    イッショウは抜き身の刀身を宥めすかして、息を吐く。

    「これで、貸し借りは無しと致しやしょう」

    ******

    「フフフフッ……!オイオイ、見ろよ。酷ェ書かれようだ」
    クロスギルドが拠点を置く島で、持ち込んだデッキチェアにゆったりと腰掛け新聞を読むドフラミンゴが、書類仕事に精を出すクロコダイルに言った。
    顔も上げないクロコダイルは、返事のつもりか、緩く煙を吐き出す。
    「G3支部占拠に破壊、基地長殺害、国宝強奪……ん?」
    「何だ、どれも真実じゃねェか」
    「いや……一個マジで覚えのねェ罪が……」

    "王女"を人質に、国宝を奪う。

    「ボス。手紙が届いています」
    二人して、新聞を覗き込んだ矢先、控えめなノックの音が響いてダズ・ボーネスが顔を出した。
    レースや、リボンで飾られたその平和な封筒を怪訝な顔で受け取る。
    見知らぬ名前から届いたその手紙は、紛れもなく、結婚式の招待状だ。
    「……この女、」
    新聞に小さく載った"王女様"の写真は、モノクロで、瞳が青いかは分からない。
    ただ、この気の強そうな視線を、見紛う筈が無かった。
    そして、届いた招待状の差出人と一致する、そのフルネームにドフラミンゴとクロコダイルは"マジか"と、何とも頭の悪い台詞を吐く。
    「"反逆罪で捕まっていた幼馴染と結婚予定"だとよ……。フフフフッ!愛の力って奴か。恐ろしい女だぜ」
    「阿呆臭ェ。まんまと使われたな」
    疲れ果てたように、葉巻の煙を吐き出したクロコダイルは集中力が切れたらしく、大雑把にペンを置いた。
    そして、揶揄うような笑みを浮かべ、ドフラミンゴの顔を見る。
    「愛の力は無限だなァ、フラミンゴ野郎」
    「何だよ。気持ち悪ィ」
    「その価値観を、壊して一度、ゼロにするなら……或いは、おれの"部外者面"は無くなるかも知れねェなァ」

    変化するという事は、立派な"愛"の形である。
    但し、それをタダでやる程安くも無いのだ。
    ドフラミンゴはその心中を目敏く察し、困ったように笑うだけだ。

    「そんな怖ェ事、できる訳ねェだろうが」
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    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202