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    ヒョウ

    @fu_hail

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    ヒョウ

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    ・ウツハン♀
    ・デフォハンターの容姿の描写あり
    ・死ネタではないけど死ぬ描写あり
    ・閲覧は自己責任で何卒

    #ウツハン
    downyMildew

    鬼火を纏いし黒い虎は雷炎と遊ぶカムラの里の近くにある大社跡。
    朽ちた社の前の、今では沼地となっているそこは清らかなせせらぎが流れる、夏になると鮮やかな桃色の蓮が咲き乱れる美しい所だった。
    立派な社と蓮畑。それはまるでこの世のものとは思えない神聖な空気が流れる場所。

    そこに掛かる小橋に立つ男と女。

    二人は明日祝言をあげる。

    千歳茶色の髪の男はカムラの里の、優しくも逞しい美丈夫。
    その男に寄り添う女は濡羽色の髪をしていて聡明で美しい。

    静かな、時が止まったかのようなこの場所で大輪の蓮を眺めていた。

    「いよいよ明日だね…今から緊張してしまうよ」
    君の白無垢、楽しみだなあ。照れたように男が笑う。

    勇敢にモンスターに立ち向かう方が緊張などと何を言うのです、と女が笑い返した。

    心底幸せだ…二人がそう思った、その時

    ガラガラガラガラ ガシャッ

    今まで見たこともないほど巨大な怨虎竜が崖を下り、そのまま社を押し潰した。
    社は無惨にも木屑に変わり果て原型をとどめてすらいなかったのだ。

    そのまま怨虎竜はゆっくりと蓮畑を歩く。
    鮮やかな桃色の花弁は鬼火にあてられて紫色にぼんやりと光った。
    虎が獲物を前にしたかのように怨虎竜はゆっくりゆっくりと距離を詰めて歩く。男は即座に悟った。

    (このままでは二人とも死ぬ)

    男は意を決して女に告げた。

    「俺が引きつける。その間に君は逃げるんだ」

    女は男の胸に縋り叫ぶ。

    「いやです!私は貴方と生きて貴方と死ぬのです!」

    頭を振る女の説得など到底できずに男が女を強く抱く。

    「君に白無垢を着せてあげられないことがこんなに悔しかったなんて…約束するよ。生まれ変わっても俺は必ず君を見つけて君と生きる」

    頬を染めて女は「待っています…必ず」。言い終わるが早いか、怨虎竜の太い爪が体を裂いて二人は絶命した。

    その翌年から二度と蓮は咲かず、そのうち全て枯れ果ててしまった。




    がばり、とウツシは体を起こした。

    (なんだ今のは…夢、にしてはやけに…)

    汗でじっとりとした肌を手ぬぐいで軽く拭い、髪をかきあげる。外はまだ暗く日が上る少し前でひやりと冷えた風が吹いている。

    今日は愛弟子が百竜ノ淵源の討伐へと発つ日。そんな日に愛弟子によく似た娘が死ぬ光景など見たくはなかった。

    このままで愛弟子を送りたくない。
    そう思ったウツシは頭を冷やそうと装備を整えて外に出た。しばらく歩いていると同じく装備を整えた愛弟子に会う。

    「あっ…教官、おはようございます」

    「…こんな時間にどうしたの。眠れなかった?」

    頬をするりと撫でると躊躇うかのように「実は夢見が悪くて」と呟いた。

    俺もだよ、朝の散歩に行こうか。愛弟子の手を取って大社跡に向けて翔蟲を飛んだ。

    てくてくと二人で坂をのぼり、囲の屋根を潜って旧拝殿の方へと歩く。本来沼地があるはずのそこには目を疑うような光景が広がっていた。

    「な…に、これ…花…、蓮?こんな色…」

    紫色に淡く光る大輪の蓮畑。
    ウツシは思わず、まるで何かから守るようにぐっと愛弟子を引き寄せた。

    「教官、私、怖い…」

    不安げに瞳を揺らす愛弟子を抱きしめて努めて穏やかな声色で囁く。

    「大丈夫、君は強い。君は今日、雷神龍を討伐してカムラに戻ってくるんだ」

    師の背に回した手を震わせながらもはい、と愛弟子は答えた。


    里に戻り出立の準備を整えて、船頭が待つ小舟に愛弟子を乗せる。
    ウツシはもう一度彼女を抱きしめて「いいかい、必ず戻ってくるんだ」と静かに言った。

    小舟が見えなくなるまで見送った後に、今度は自分が出発する支度を整える。百竜ノ淵源が動くのだ。間違いなく起こるであろう百竜夜行のために。

    里を発つ前に里長に紫の蓮について報告した。何かが起こっている。それが何なのかはわからないが。里長は留守を預かる里守の一人に大社跡の観察を命じた。

    時刻が正午を回ろうかという頃。地響きがして百流夜行が始まった。これまでで最大級の竜の群れ。これまでで最も激しくいきり立つ群れが容赦なく砦へ押し寄せた。里守が次々と傷つき倒れ、砦の設備が壊される。

    「ウツシ!ここはワシが引き受ける!砦の防衛に専念せい!」

    里長が太刀を振るい襲いくる竜を薙ぎ倒しながら咆哮する。

    「承知しました、ここはお願いします!」

    シュッと風を切ってウツシが飛ぶ。持ち場である最前線を離れて砦へと入る。

    「ウツシさん!」

    その姿を見た里守たちが湧き立ち、水を得た魚のように反撃に出る。

    「そうだ、その調子だ!カムラを守るぞ!」

    檄を飛ばしてウツシも双剣を振る。刹那、砦のかい盾を薙ぎ倒す巨大な黒い影。
    鬼火を纏った、大きな大きな怨虎竜だった。

    (何故!?最前線からここまでマガイマガドなどいなかった、なのに…いや、これは…こいつは…)

    おそらく、いや、きっと間違いではない。


    夢で見た、あの怨虎竜。

    ウツシは双剣を握り直して怨虎竜に向き直る。
    殺らなければ自分が殺られる。自分は死ねない。

    もうすぐ雷神龍を討ち取るはずの、愛弟子の帰る場所であるために。

    怨虎竜は辺りのモンスターを全く気にする様子もなくウツシに飛びかかってきた。

    振り下ろされる爪をかい潜って後脚を切りつけ動きを封じる。
    負けじと鬼火を振り撒き爆発させる。里守たちには誰も手出しができないほど激しい戦いが始まった。

    どれほどの時間が経ったのか誰にもわからないほど長く、激しくそれは続いた。

    その中でギャアァ、と怨虎竜が悲鳴をあげた。

    ウツシの双剣が怨虎竜の尻尾を刎ね飛ばし、怯んだ瞬間を見逃さず鉄蟲糸を繋いだクナイで縛り上げたのだ。


    ウツシが勝利した。

    ぜぇぜぇと肩で息をするウツシが、目の前に伏せる怨虎竜にとどめをさそうと前に出ようとした時、怨虎竜は鬼火をぼんわりと光らせてそのまま跡形もなく消えた。


    ウツシも里守たちも何が起こったのかわからなかったが、ともかく砦を守りぬくべく再び武器を振るった。




    一方で
    彼の愛弟子は大穴の底で雷神龍と対峙していた。
    互いに深く傷ついているものの英雄たる彼女の方が深手を負い、執念だけが体を突き動かす。
    同行していたオトモたちも血に濡れヒューヒューと息を鳴らしながら何とか回復薬を使おうとしている。

    「勝って帰らないと…私は教官と…約束してるの…!」

    ぐっと武器を握り直して、痙攣する筋肉を叱咤しながらどうにか構えた。



    突然、雷神龍が上を見上げた。
    雷神龍の雷光で昼のように明るかった大穴の中がふっと暗くなる。

    「ギャアァ」と怨虎竜が悲鳴に似た咆哮を上げながら降りてくる。

    そんなはずはないのにまるで彼女を守るように雷神龍に襲いかかった。
    それでも相手は百竜ノ淵源。雷撃を浴びせられて伏してしまった、その体から蒼く光るー……


    「……鉄蟲、糸ッ!」

    すかさず怨虎竜の背に乗り手綱を引いた。

    躁竜された怨虎竜は恐ろしいほどの速さ、恐ろしいほどの力で雷神龍が殴り飛ばす。

    形勢は一気に逆転した。

    部位破壊を幾度となく強いられた雷神龍は一つ大きく鳴いて、事切れた。

    怨虎竜は雷神龍を一瞥した後、彼女を見た。ぐる、と鳴いたあとそのままどこかへ行ってしまった。




    彼女はオトモと共に、里に盛大に迎えられた。
    一足先に里に戻っていた百竜夜行隊も一緒になって彼女を讃える。

    茶屋で宴が始まり、夜がふけるまでそれは続いた。



    彼女は折を見て抜け出して、師たるウツシの元へ向かう。

    月光に照らされながら屋根の上にいたウツシが彼女に「おかえり」と言った。

    「ただいま、です。約束…守りました」
    「うん、流石俺の愛弟子」

    すり、と彼女の頬を指で撫でた。


    「…今日、マガイマガドが、突然大穴に降りてきたんです」

    偶然なんかではないことを本能が感じていた。それはウツシも同じだった。

    「俺もね、砦にマガイマガドが出てきたんだよ」

    それとね、と続ける。

    「里長が紫の蓮を確認させたんだけど」

    そんなものはどこにもなかった、と。


    二人はしばらくの間見つめあい、どちらともなく手を取って大社跡に向かった。

    朝に見た紫の蓮畑。その場所はいつもの淀んだ沼地になっていた。

    手を繋いだまま、沼に掛かる小橋に向かう。

    橋の中央に二人で立った時、薄暗いその沼地がパアッと白い光に包まれて思わず目を瞑る。
    次に目を開けた時には鮮やかな桃色の大輪の蓮が咲き誇っていた。廃墟だった場所にはそれは立派な大社が建っている。

    「…………っ」
    ウツシは彼女をぐっと抱き寄せる。いつか遠い昔にここで彼女とこうしていた記憶。彼女と約束した、あの光景。

    涙を堪えて、彼女の体温を己に染み込ませるように、震えながら抱きしめた。

    「愛弟子、俺…」
    「教官、私…」

    互いにぴったりと体を合わせる。

    「俺、約束通り君を、俺…君のそばに居たんだ…」

    ウツシの瞳から涙が溢れ落ちた。その涙を頬で受けながら愛弟子は「私、教官と生きて、教官と死にます」と美しく笑った。


    怨虎竜に気に入られた、そんな二人の話。
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