廻る先「……」
「少年?」
取材先を忘れてしまったという記者と会話を交わして以降、少年はどこか上の空であった。思わずアオガミが声を掛けるとはっとしたように彼を振り返り、ぎこちない笑みを浮かべる。
「ごめん、何でもないよ」
「何でもないようには見えなかった」
「最近のアオガミは踏み込んでくるね」
困った表情で、弾んだ声で僅かに表情を緩ませる少年。だが、戸惑いは晴れることなく、少年は頭上を――泡沫の東京の空を見上げるのであった。
「俺も、どこかに行く約束をして気がするんだ」
「……」
「思い出せないんだけどね」
「少年」
ゆっくりと、アオガミへと向けられる緑灰色の双眸。
アオガミは、伝える必要はなかった。自覚してしまった“欠損”に戸惑う少年に言うべきではないと理性的には判断を下していた。それでも、アオガミは。
「私は、覚えている」
――受注したクエストに難航し、東京に帰還出来た時刻が22時を過ぎていたこと。
――大観覧車の営業時間は過ぎていたこと。
――それでもとふたりで足を運び、ナホビノの姿になって輪の頂点まで登ったこと。
『次は、ちゃんと乗ろうね』
――宵闇の中、微笑んだ少年の姿を。
アオガミは、覚えている。
「そっか」
アオガミの懸念に反し、少年の声音は至って穏やかで。
「なら、よかった」
ありがとう、と微笑む少年の顔はあの日にアオガミが見た表情そのままで。
「……ああ」
アオガミはただ、隣に立つ少年の手を握りしめる事しか出来なかったのである。