はい、あーん? 少年には何の意図もなかった。
あったとするのならば、それは共有したいという想い。大事な相手と感動を分け合えたらという、質素な願い。
ティラミスかき氷を一口分掬ったスプーンの向こうにあるのは、珍しく驚いた表情のアオガミだ。
(あっ、しまった)
ここは、都内のとある喫茶店。"虚空"に向かってスプーンを差し出してしまった少年は、 己の行動を即座に反省して手を戻そうとした。少年の行動は"視えない"人達からすれば怪しいと判断されてしまう。これでは、アオガミにも注意さててしまうと。
――しかし。
(え?)
戻そうとした右手をアオガミの手に掴まれ、少年は驚いて目を見開く。
「……なるほど、甘い」
少年が分け合いたいと想ったアオガミはスプーンに乗っていた甘味を口に含み、簡潔な感想を述べるのであった。
ここは、都内のとある喫茶店。満席ではないが、混んでいる店内。
もしかしたら、誰かに見られてしまっているかもしれない。
だが、そんな心配は少年の脳裏から霧散していた。彼の右手に残るアオガミの手の感触。そして、空っぽになったスプーンの先。
「甘いだろ?」
「ああ」
俺もそう思う、と少年は微笑むのだった。