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    A_wa_K

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    A_wa_K

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    ※アオガミの四肢破損、及び頭部のみの状態表現を含みます。
    ※アオガミに悪魔召喚プラグラムがインストールされてたらいいなぁという妄想が含まれています。

    我が愛しきエゴ 白色の世界を悠々と舞うガルーダを見下ろしつつ、少年は大きな溜息を吐き出した。
    「フィンを仲魔にしていなければよかった」
     もし、まだ彼が"ここ"に立っていたのならば。
     人の良い――否、悪魔の良い彼は困り果てた少年を近場の龍脈まで連れていってくれただろうと。契約を交わした弊害が発生するとは全くの予想外であった。
    「俺も悪魔召喚プログラムを……」
     太宰達みたいに、と続けようとした口を少年は閉ざす。
     少年はナホビノと成る事が出来る。結果、人に非ざる存在として彼は仲魔達の力を借りていた。ナホビノに成っていない場合は、アオガミに内臓されている悪魔召喚プラグラムを利用していた。
     現在、彼が持つ手段はどちらも使えないのであるが。
    「……まぁ、その内に誰かが探しにきてくれるよ。俺がいないと困るだろうし」
     至高天への道しるべとなるという、三つの鍵。
     少年達は既にその内の二つを入手していた。他の誰かが残り一つを入手するか、もしくは最後の一つの所有者が至高天を目指す場合、彼らの存在を無視する事は出来ないのである。
    「いや、オーディンに来られたら困るな」
     どうするべきか、と少年は崖際に腰掛け、改めて白色の大地を見下ろすのであった。
    『少年』
     "声"が聞こえてきたのは己の脳内からだ。肉声を伴わない意思疎通。しかし、少年は己の腕の中に視線を向けた。声を発せられないとは謂えども、"発言者"がそこにいるのだから。
    「どうかした、アオガミ?」
     そっと、少年は頭を撫でた。青色の髪を。
     己が抱いている――アオガミの頭部を見下ろしながら。
    『……私は、君に叱られると思っていた』
     しばしの沈黙を経て、アオガミが述べたのは現状の打開策や提案ではなく、彼が抱いていた疑問の吐露であった。先に述べたように、少年が聞こえているアオガミの声は肉声ではない。けれども、"おそるおそる"といった副詞が似合う話し方と己に向けられる金色の双眸を目の当たりにし、少年の口元は緩んでしまうのであった。
    「アオガミ、俺に怒られる覚悟はあったんだ」
    『君は私の行為を肯定しないだろうと考えている』
    「うん、そうだね。それは正解だ」
     事の起こりはおよそ30分程前に遡る。
     オーディンの所在を掴みきれず、高所から周囲を見渡そうと台東区一帯で最も高い場所――フィン・マックールが座していた場所を目指していたナホビノであったのだが、彼は目的地に到着する直前で一つの大きなミスをした。強敵の気配を察知し、避け続けていた一つのマガツカに取り込まれてしまったのだ。
     結果、予感は正しかったと証明される。
     鍵を二つ入手済みのナホビノでも歯が立たない悪魔達を相手にし、彼の仲魔達は次々に斃れていった。そして、最後に残ったのはナホビノのみであり、彼もまたガキからの攻撃で地に伏す寸前であった。
     そんなナホビノを救ったのは、生命。即ち、アオガミだ。
    『少年!』
    『――っ!?アオガミ!?』
     ガキの攻撃がナホビノに当たる寸前で彼は一方的に合一化を解除し、知恵である少年の身を守った。無論、アオガミには己を守るという意志は一切無く、結果として神造魔人の体は砕け散ってマガツヒと化したのである。頭部のみを残して。
     言葉の通り、身を挺したアオガミの行動。
     アオガミは、己が生き残ることは考慮に入っていなかった。少年の命を守れれば、それで構わないと。
     だが、同時に彼は理解していた。この行動は少年を怒らせると。何よりも守りたい存在を傷つけると。
     だというのに、アオガミを見下ろす少年の視線は――表情は穏やかなものであった。読書を嗜んでいる時の雰囲気に近いとも云える。実際、新鮮なマガツヒに気を取られている悪魔達から逃れて山頂に至る過程でも、少年が声を荒げる様子は一度もなかったのだから。
    「酷いことを言うんだけどさ」
     アオガミの髪を弄る手を止め、少年は腕の中に大事に抱えていたアオガミの頭を己の視線の高さまで持ち上げる。
     ふたりの間には20cm程の身長差があった。だが、今は違う。アオガミの双眸に同じ視線の高さとなった少年の顔が映り込む。
     穏やかではあるが、僅かに眉尻が下がっている表情。
    「アオガミがさ」
     一度開いた口を閉じ、再び開く。
     明らかに躊躇っている様子であるが、アオガミは少年に発言を催促はしなかった。彼が胸の内にしまい込んでおきたいというのならば、そうあるべきだと考えているのだ。
    「……アオガミが」
     再び、己の半身の名を繰り返す少年。
     そこで再び言葉が止まり、一方でアオガミの目に映る少年の顔がどんどんと大きくなっていく。
    「アオガミが、あそこまで自分勝手な行動をしてくれたのが」
     そして――。
    「正直嬉しかったんだ」 
     少年は、己の額をぴったりと半身の額にくっつけるのであった。
     アオガミの視界に映るのは、至近距離によりぼやけてしまう少年の顔だ。今、己の半身がどんな表情をしているのかをアオガミは視認することが出来ない。
    『……』
     何か、言わなければいけないとアオガミは考えた。
     困った表情を見せ、戸惑いながらも己の心情を吐き出した少年に応じるべきだと、アオガミは考えた。
    『……』
     しかし、アオガミの思考には言葉が一切浮かばない。
     身体が喪失した状態であったとしても、アオガミの思考回路に影響は出ていない。だというのに、アオガミは何も口にすることが出来なかった。
     己の一方的な行為を否定しながらも、肯定する少年。
    『アオガミが、あそこまで自分勝手な行動をしてくれたのが、正直嬉しかったんだ』
     少年の心が傷つくことを理解しながらも、貫き通したアオガミの"欲"。少年は怒りを抱えながらも、その実存を喜んでいる。
     ――彼が、己に何を望んでいるのか。
     これ以上、その事実を突き詰めてしまったのならば、きっと自分達は二度とナホビノになれない。アオガミは瞬時に確信した。ダアトの地に足を運ぶどころか、泡沫の東京に居続けることも出来なくなると。
    (君と共に、君の望む、何処かへ)
     ――同時に、少年の消滅を肯定することにもなってしまう。
    『……』
     それが怖くて――そう、怖いのだと、アオガミはこの瞬間に自覚するのであった。
    『少年』
    「……ん、何?」
    『君が無事で、よかった』
     故に、アオガミは己の本心を告げる選択を取った。少年を守れてよかったと。
    「アオガミのお陰さ」
     拗ねてはいるが、やはり少年の声は穏やかであった。
    「ありがとう」
     より接触が強まる額の感触と、至近距離から聞こえてくる少年からの感謝の言葉。
     感覚と聴覚の機能が失われてなくてよかったと思いながら、アオガミは再び口を閉ざすのであった。
     
     ――少年を守り抜く。

     それが、己の使命だと――エゴから目を逸らし続けながら。

    ***

     ――数時間後。
    「繰り返すけど、俺とアオガミに手を出したら鍵は二度と手に入らないと思えよ」
    「助けられる側の言動とは全く思えん」
    「それ、俺にこういう態度を取らせる自分の今までの行動を顧みて欲しいんだけど?」
     ジョカに何を言われたのか少年を近場の龍脈まで案内する羽目に陥った八雲と、救助される側でありながら反抗的な態度の少年。彼の腕の中ではらはらとしているアオガミと、その様子を楽しそうに眺めるジョカという光景が発生する事になるのであった。
     尚、最もジョカが楽しそうに微笑んだ瞬間は道中ではなく。
    「ありがとう」
     龍脈で移動する寸前の少年がしっかりと八雲と視線を合わせて伝えた、感謝の言葉。反論の余地もなく、再びふたりきりとなった八雲が帽子を深く被り直す瞬間であったのだった。 
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