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    chisaorito

    @chisaorito ヴェランをかきます💛💙

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    chisaorito

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    先日書いたものをうっかり消してしまい、思い出しながら書きました。
    同じものにはならなかったので供養💦保存だいじに…

    毎回似たような話を書いてしまうけど、夏はアウギュステ!
    少しでも楽しんでいただけてると嬉しいです

    2024/7/24 up

    【ヴェラン】「満ちる夜」「ランスロットが楽しいこと」とは何だろうか。
     ヴェインは聞こえてくる潮騒に耳を傾け、隣のベッドで眠っているランスロットの横顔を見つめた。
     宿の窓から射し込む柔らかい月光が、ランスロットの美しい輪郭をぼんやりと縁どっている。
    「ランちゃんの楽しいことかあ……」
     今日はアウギュステでの休暇を思う存分楽しんだ。殆どの時間を笑顔で過ごしていたランスロットは、間違いなく楽しい一日を過ごせたはずだ。
     海で泳ぎ、バーベキューをして、蟹退治は数が多く、少し大変ではあったけれど、アウギュステの安全が守られたなら、苦労でもなんでもない。
     夜の浜辺でも、ランスロットは穏やかで満たされた微笑みを浮かべていた。
     祖国にいる時は、ふたりきりでゆっくり語る時間も中々とれないが、今夜は波の音を聞きながら、色々と本音を聞くことが出来た。久し振りにのんびり話せて、思いを吐き出して、ランスロットもリラックスしていたようだ。
     その時に伝えたのだ。
    『ランちゃんが楽しいなら、俺も付き合うし』
     ――と。
     聞きなれない潮騒の音で目覚めたヴェインは、薄闇の中、改めて伝えた言葉を振り返っていた。
     ベッドの上で胡坐をかき、腕を組んで唸る。
    『こうやって、たまには鎧を脱いで息抜きもしようぜ』
     そう伝えた。
     騎士団長の責務を全うする為、根を詰めすぎるランスロットを息抜きさせるのは、自分の役目だと自負している。自分は、ランスロットにとって気を許せる数少ない友達だから。
     お茶菓子とお茶を持って、毎日休憩に誘うのも、ランスロットを息抜きさせる為。
     だが、息抜きと「楽しいこと」は違う。
     考えてみると、ランスロットの思う「楽しいこと」を自分は分かっていないのではないか。
    「うーん……」
     幼馴染みのふたりは、子供の頃からの長い付き合いだ。ランスロットに至っては、ヴェインが生まれた日のことも知っている。
     それなのに「ランスロットの楽しいこと」が即座に思い浮かばなかった。
    「ランちゃん……、いたずらは、すげー楽しそうだよなあ」
     ヴェインの物心がついた頃から、ランスロットはヤンチャで、普段からよく悪戯をしては母親に叱られていた。叱られても、すぐにケロリとして次の悪戯を考え、にこにことしていた。
     ハロウィンになるとそれはもう瞳を輝かせ、全力で本領を発揮していたのだ。――悪戯のターゲットは主にヴェインだったけれど。
    「まあ、ランちゃんだから許すけどお~」
     カボチャのオバケに泣かされたって、「驚いたか?」と笑顔を見せるランスロットを、許せてしまった。
    (それに、その後、慌てて俺の涙を拭うランちゃんは可愛かったし……)
     動揺するランスロットというのは、滅多に見られない。
    「ごめん、ごめん、ヴェイン」と眉毛を下げ、オロオロしながら、「お菓子をやるから」とキャンディやチョコレートを山ほどくれた。
    (今と全然変わってないなー?)
     大人になった今だって、ハロウィンにはソワソワしているランスロットだ。ヴェインのことも悪戯で泣かせている。
     ランスロットが楽しいというのなら、今年のハロウィンも悪戯のターゲットを喜んで引き受けよう。……また泣いてしまうだろうが。
    「あとは鍛練とか?」
     鍛練は彼の好きなもののひとつだ。休日も朝から自宅の庭で活き活きと短剣を振るっている。
     身体を動かすこと自体が好きなのだろう。
    「子供の頃も朝から走り回ったもんな~」
     ふたりで色々な遊びをした。川や湖でも沢山泳いだし、木登りも崖登りも、大人が聞いたら「危ない」と叱るだろう遊びもしていた。
     ランスロットの行けるところには、自分も行ける。そう思っていた幼い自分が、初めて彼との差を意識したのは、岩場から転げ落ち、怪我をした時だ。
     ランスロットが飛び移った岩場に、ヴェインは届かなかった。
    「ごめん、ヴェイン」と、傷口を止血して、涙を滲ませていたランスロット。
     ヴェインは自分の怪我の痛みよりも、ランスロットと同じ場所に立てなかったことが悲しくて、大泣きをした。
     怪我が治り、共に遊びに出掛けると、ランスロットはこれまでのような無茶をしなくなっていた。それが悲しくて、また泣いた。
     ランスロットと同じ場所に行きたい。
     彼が隣の岩場へ飛び移るのなら、自分も飛び移りたい。自分の所為で、ランスロットが飛び移るのを諦めてしまうのは、いやだ。
     いつだって、ランスロットには全力を出して欲しい。そして全力の彼に置いていかれたくない。
     追いつきたい。隣に並んで、一緒に連れて行って欲しい。
     そう思いながら、今になる。
     大人になり、子供の頃の体格差で、当時は同じことが出来なくて当たり前だと分かるけれど。
    「ランちゃんの『楽しいこと』に付き合えなくて、悔しくて悲しかったよなあ……」
     その経験が忘れられず、がむしゃらに鍛えた結果、筋力が付き、脚力も付き、今なら同じ岩場へ軽く飛び移れるだろう。
     けれど、同じ方法ではなくても、違う方法で同じ場所へ行く手段だってあるのを、今のヴェインは知っている。
    「そうそう、ランちゃんの鍛練にも、最初は付き合えなかったし……」
     ランスロットを追って騎士団へ入団したけれど、彼が大好きな鍛練に付き合うには、彼以上に自分を鍛えないとついて行けなかったのだ。
     自分の不甲斐なさが悔しくて泣いていても、ランスロットの隣に並べないのを知っているヴェインは、誰より鍛練を積んだ。
     ランスロットに少しでも近づく為なら、辛いとは思わなかった。
     騎士団の鍛練では足りず、自主練を積んでもランスロットが得意な短剣では、勝負にならない。だから、違う武器を自分の身体の一部のように扱えるまで、また鍛練を積んで。
    「うん、今なら少しは相手になるよな~」
     ランスロットの手合わせの相手として、少しは役立てるようになっただろう。
     ランスロットが双剣、ヴェインは斧槍と武器は違うけれど、手合わせをしている時、ランスロットの瞳は輝き、手加減なしだから。
     ランスロットが手加減をせず、楽しめるまで待たせてしまった。
     今、彼の相手が務まる自分が少し誇らしい。
    「うーん、あとランちゃんの楽しいことは……海!」
     今回のアウギュステでの休暇も、ランスロットは水着になった瞬間からはしゃいでいた。
     子供の頃、憧れた海は、何度来ても心が踊る。
     遠く祖国を離れた場所では、騎士団長の職務から解放され、自分の立場や人目を気にせず素の自分でいられるのだから、はしゃぐ気持ちはよく分かる。
     浜辺で海水を掛け合い、抱き上げて海へ放り込んで。ランスロットの笑い声が、アウギュステの空に吸い込まれた。
     大きく口を開けたランスロットの笑顔が、海面と同じ――それ以上にキラキラしていた。
    (眩しかったなあ……)
     遠泳も競泳も、ビーチバレーも、砂に潜る蟹取りも、かき氷の早食い競争も、ランスロットは全力で楽しんでいた。
    「俺も楽しかった~」
     祖国では出来ないアウギュステでの楽しみ方が、調べればまだあるだろう。
    「そういえば、前にオイゲンさんから聞いた遊びが楽しそうだったな」
     サーフボードを使う「波乗り」というもの。板の上に乗り、波の上を走る遊びらしい。
    (めちゃくちゃ楽しそう!)
     話を聞いた時、ランスロットも好きそうだと思った。きっと楽しんでくれる。
     けれど、本当にそうだろうか。
     ヴェインとランスロットの感じ方は違うから、さして興味も持たないかもしれない。
     ヴェインはランスロットと一緒にいれば、何でも楽しくなってしまうのだが。
    (でも、海の遊びだぜ?)
     子供の頃にふたりで憧れた海の遊びなら、絶対に夢中になると思う。
    「ランスロットだって楽しいって……!」
    「ん……、なにが、たのしいって……?」
     ヴェインが握りこぶしを作った時、目の前で眠っていたランスロットが身じろぎをし、体勢を変えた。
    「は……っ! ごめん、うるさかったな!」
     考えがつい口から出ていたらしい。それも今はかなり音量も大きかった。
     こちらへ身体を向けたランスロットが、シーツへ肘をついてゆっくりと身体を起こす。まだ緩慢な動きだけれど、完全に起こしてしまった。
    「いや……、うるさくないよ。波の音と、お前の声が心地よかった……」
     ザザン、とひと際大きく波の音が響いた。絶え間なく波の押し寄せる音が聞こえる。
    「潮が満ちる時間なんだって」
    「ああ……。……ふふっ、子供の頃、海に満ち引きがあるなんて、信じられなかったよな」
     ふたりが泳いでいた湖は、時間帯で水の量が変化したりしなかった。
    「そうそう! ランちゃんが『でっかい魔物が海水を飲み込んだり、吐き出したりしてるんだな! ヴェインも飲み込まれるかも』って、俺を怖がらせた!」
    「そうだったか?」
    「そうだぜ~」
     ベッドを下り窓辺に行くと、ランスロットも軽やかにベッドから下りて、隣に並ぶ。
     騒めく海の波音を、暫くふたりで聞いていた。
     窓の外は黒い海面が広がり、月明かりに照らされて、一筋の月の道が出来ている。
    (ランちゃんに向かって、まっすぐ伸びてる光みたいだ)
     キラキラと輝く海面が美しい。
    (……もしくは、俺を導いてくれる光)
     ヴェインを導く光は、間違いなくランスロットだ。
     その月の道を見ながら聞く波音は、昼間聞くのとは、違って聞こえる。
     潮が満ちる時間なのだから当然だが、次から次へと押し寄せる波は、自分がランスロットへ寄せる想いのようだと思った。
     絶えることはない。
     何度も押し寄せ、満たし、想いに溺れそうだ。
    (まあ、俺の想いは引いたりしないけどな!)
    「……ランちゃん」
    「んー?」
    「喉、乾いてない? 何か淹れようか」
    「いいのか? 夏の夜は脱水にも気を付けないとな」
     ヴェインへ視線を向けたランスロットの瞳が、期待に輝いている。
    「まっかせなさい!」
     胸を叩いて簡易キッチンへ向かった。
    (俺の淹れるお茶もランちゃんの楽しみではあるんだよな~)
     流石に今夜は熱いお茶を用意するつもりはないが、準備していたものはある。
    「何を淹れてくれるのかなあ~」と謳うような声がして、部屋の洋燈が灯された。
     月明かりの薄闇に慣れた目には少し眩しいけれど、飲み物の準備をするには有り難い。
     保冷庫から冷やしておいたサングリアを取り出す。勿論ランスロット向けのノンアルコールだ。炭酸水にフルーツをふんだんに入れ、甘さもランスロット好みに作ってある。
    「なんだ、ウマそうだな!」
     準備する様子を覗きに来たランスロットが瞳を輝かせた。
    「アウギュステのフルーツてんこ盛りサングリアだぜ~!」
    「いつの間に準備していたんだ。ヴェインは天才だな!」
    「わははは、喜んでもらえて嬉しいぜ!」
     グラスをふたつ用意して、フルーツがバランスよく入るように苦心しながら注ぐ。
     再び窓辺に戻り、傍のカウチに並んで腰掛けると、ランスロットはグラスを掲げ、「アウギュステの真夜中にカンパーイ!」と歓声を上げた。
    「カンパーイ! って、ホント起こしてゴメンな~」
    「ウマい……! こんなウマいものが飲めるなら、起きて良かったよ」
     機嫌よく、一気に半分を飲み干してくれて、ヴェインの口角が上がってしまった。
     ランスロットは昔からヴェインを褒めるのが上手い。
     窓の外へ視線を向け、波音を聞きながら、アウギュステのフルーツを味わう。フルーツの甘味の溶けた炭酸が、喉を爽快に潤した。
    「ランちゃん、もう寝癖が付いてる」
     海よりも、ついランスロットへ視線を向けてしまい、目が合ったのでそう口にした。片手で無造作に髪を撫でたランスロットは、飲み終えたグラスをテーブルへ置くと、改まった口調で質問を向けてくる。
    「それでお前は、さっきから何を考えていたんだ?」
    「うえ……っ?」
     先程から、『ランスロットが好きだな』としか考えていなかったので、変な声を出してしまったが、直ぐに思い直す。
    (ランちゃんが寝てた時の、独り言の話か……!)
     想いを追及されているのかと、心臓が跳ねてしまった。落ち着こうとグラスの中身を飲み干して、テーブルの上にグラスを置く。
     息を大きく吸い込んでから、「あ~、いやあさ? ランちゃんが楽しいことって何かなあって」と言葉にした。
     ランスロットは一瞬、きょとんとした後にゆっくり首を傾げて微笑んだ。彼の動きに合わせ、ふわりと揺れる髪を見つめてしまう。
     間近で見るランスロットの微笑みは、ヴェインの心臓を波のようにさざめかせるので、直視出来ない。
    「ああ……、ヴェインは俺が楽しいと思うことに付き合ってくれるんだもんな?」
    「勿論!」
    「俺が楽しくないことには、付き合ってくれないのか?」
     悪戯を思いついた顔で言われ、「そんなわけないだろー! ランスロットの全部に付き合うぜ!」と力一杯宣言した。
     子供の頃は、ただ大好きなランスロットの傍にいたかった。一緒に遊んで欲しかった。置いていかれたくないという思いで、いっぱいだった。自分の気持ちだけで。
     けれど、今は違う。
     ランスロットが辛い時も、悲しい時も、傍にいたい。どんな時も支えられるようにと、思い続けている。
    「っていうより、俺はランちゃんが全部を楽しめる世界にしたいぜ?」
     それは簡単には出来ない。分かっている。
     祖国を平和に導く道のりが、どれだけ大変か。楽しいことなど殆どないだろう。
     それでも、傍で彼の笑顔が増えるよう、協力したいのだ。
     その為に自分は、ランスロットの傍にいる。
    「ああ、それなら簡単だぞ?」
    「――へ?」
    「うりゃっ!」
     掛け声と共に、ランスロットがヴェインの胸の中へ飛び込んできた。体温の低い肌が触れる。
     ふたりの体重を支えたカウチが悲鳴を上げ、揺れていた。
     ランスロットはヴェインに飛びつくと、肩に手を置き、瞳を覗き込んだ。
     なんの遠慮もなく、ヴェインの身体へ体重を預け、間近で見つめてくる表情が楽しそうだ。
     ヴェインを驚かせたと、満足しているのだろうか。
     触れている肌が、直ぐに熱を持ってきた。
    「ラ、ランちゃん」
    「お前は、分かっていないんだな」
    「え? なにを?」
     やはり自分は、ランスロットを理解出来ていなかっただろうか。
     彼の楽しいと思うことを。
    「ヴェイン」
    「ランちゃん……」
     碧い瞳がヴェインをじっと見つめ、目尻が緩んでいく。ランスロットを理解してない自分を許す、そんな優しさを湛えた瞳。
     碧い海を映したような瞳に吸い込まれそうだ。
     そう思ったのは、ランスロットがより近づいて来たからだと気付いた。
     近づいて、ぼやけて見えなくなる。
     唇に触れる柔らかな熱と、ちゅっと可愛らしく響いた音。
     それから。
    「俺は、お前が傍にいてくれれば、いつでも楽しいぞ?」
     そう囁いた優しい声が耳元で響く。
     もう波の音は聞こえていなかった。
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    ゆゆしきゆく

    MOURNINGヴェラン気味
    だから怒られてんだよ!ってのを自己肯定感が低すぎる故にわかってないヴェの話
    途中あんまりしっくりきてないからそのうち書き直したい
    ランちゃんは、かっこいい
    かっこいいし、強いし、賢いし、俺みたいな泣き虫じゃない
    「ランちゃん!!!」
    体、動いてくれ
    良かった、間に合った
    そう思うと同時に体に衝撃が走る
    口から声にならない音が出た
    「ヴェイン!!!!!!」
    後ろからランちゃんの声が聞こえる
    今どんな顔してんだろ
    でも間に合って良かった…
    ごぷと口の中に熱くて鉄臭いものが迫り上がってくるのを感じる
    あ、これやばいかも
    体に力が入らなくて立ってられない
    もう上向いてるのか下向いてるのかどうなってるのかすらわからない
    ごめん、ランちゃん
    俺…もう、ダメかも…
    崩れ落ちる視界の横で黒と青が明滅して消えた



    「…ってぇ…」
    めちゃくちゃ痛い
    起きあがろうとしたけど腕あがんない
    何これ、何でこんな痛いの?
    そうだ俺、ランちゃんを庇って…ってあれ?俺、生きてる?
    めっちゃ痛いけど
    うわー俺ってめっちゃ頑丈…
    そんなことを思っていたら聞き覚えのある声がした
    「ヴェイン!!!」
    「ラン…ちゃ…」
    痛む顔をどうにか動かして声のする方向を見ると見慣れた黒い髪が見えた
    でも、あれ?もしかしてランちゃん怒ってる?
    親の顔より見た幼馴染の 1325