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    Jeff

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    お題:「新品」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2024/08/04

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Flashbacks「見てくれ、ラーハルト」
     月光のごとく滑らかな頬を引き上げて、ヒュンケルが笑う。
    「新品同様だ」
     ラーハルトは黙って、力強い腕に触れる。
     魔槍とは比べ物にならない重量を纏いながらも己を翻弄した、その無尽蔵の体力に。
    「これでやっと、お前と並び立てる。戦士と名乗れる」
     人形のような笑みに、ラーハルトは眼を閉じる。
    「健康で、頑健で。お前と同じ速度で走れるんだ」
     ヒュンケルの明朗な宣言に、ふと引きこまれそうな自分がいる。
     すべての不安は解消。
     腹の底に巣食う絶望は幻と化し、永遠の安堵にたゆたうことができる。
     だが。
     それでも。
    「戻って来い」
     と、ラーハルトは呼びかける。
     冷徹で真摯な言葉に、ヒュンケルは俯く。
     唇が震え、自信に満ちた二の腕が力を失う。
     最強の不死騎団長の面影が、みるみる小さくなっていく。
     ラーハルトがひざまずく先には、少年のように華奢な姿のヒュンケルが顔を覆っている。
    「もう、お前のような戦士ではない」
     と、ヒュンケルの弱弱しい告白。
     ああ。と、ラーハルトが答える。
    「使い古されて壊れてしまった、人間の残滓だ」
     そうだな。と、ラーハルトが言う。
    「こんな有様には、なりたくなかった」
     ラーハルトは答えず、静かに待つ。
    「なりたくなかったんだ」
     魂の叫びは、聞き取れない程の囁きだった。
     続く嗚咽を十秒聞いてから、おもむろに、痩せた肩を抱きしめる。
    「分かってくれないか」
     と、ラーハルトは呟く。
     自分の声は、予想よりもずっと擦れていた。
    「俺が欲しいのは、完全無欠の強敵ともではないんだ」
     ヒュンケルは、きつく押し付けられた胸のなかで機械的に頷く。
    「今のお前なんだよ」
     誘惑の呪いが去っていく。
     元通りになりたくないのか、と、優しい微笑を振りまきながら。
    「俺は一生、呪われたままかもしれない」
     ぽつりと漏らしたヒュンケルの頭を、ばすんと叩いて。
    「だったら一生、目を覚まさせてやるだけだ」
     いつか、それも終わる日が来る。
     まだその時ではないことに、そっと感謝しながら。


      
     
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