ワンドロお題「マッサージ」ヒュンケルは、時々寝込むようになった。
体中の古傷由来だと思われるが詳細はわからない。おそらく安心して寝込めるようになったから寝込んでいるのだとラーハルトは思っている。
勇者が帰り平和になった、二人暮らしも馴染んだ日々。
そしてヒュンケルが目を覚ませば恒例行事となっているのが、ラーハルトのマッサージである。
確かに一日単位で寝込んだ身体には大変心地よいのだが…
「もしかして、母御にもやっていたことなのか」
そうヒュンケルが聞くと、ラーハルトは少しだけ目を見開いて、フッと息を吐いた。
「解るか」
「まあ、なんとなく」
まだ村にいても石など投げられなかった比較的平和だったころ、寝たきりの者は時々動かさねばならないのだと、何かの機会に聞き知っていた。
それを知っていてよかったと思ったのは、起きれなくなった母の介護の日々。
どうやってもその記憶が蘇り、自分と母親を重ねてしまうのだろう。
「すまないな、安心させてやれなくて」
心底申し訳ない気持ちでそう言ったのだが、予想通りラーハルトはとても嫌な顔をした。
「本調子に戻ったら別の意味のマッサージをし倒してやるから覚悟しろ」
…そんな座った目で言われてもだな…と思いながらも、どうしても赤面してしまう己を呪うヒュンケルだった。