ワンドロお題「看病」俺は、外見から解るように魔族の血が濃い。
だから病気の類は一切しなかったし、するわけがないと思っていた。
そう、思って「いた」。
高熱の発熱という前代未聞の感覚。
行動は勿論、思考もままならない。さっさと意識を投げ出したい。
それができないのは何故かというと―
「…早くパプニカなりデルムリン島なり行けというのに…」
魔族に取りつく病気なのだ、人間で半死人のヒュンケルなど罹患すればひとたまりもない。そう何度も急かしているというのに。
「馬鹿。そんな状態を放っておけるわけないだろう。」
俺の心配なぞせんでもいいわと言い放ちたいのだが、流石に説得力がないのはわかっている。
熱のおかげで語彙力が低下しているのもあって、この頑固者にかける言葉がなかなか紡げない。
不安と焦りと怒りで頭がぐわんぐわんしてきたが、説得できるまでは意識だけは手放すまいと必死だった。
「ラーハルト」
呼び声と共に手を握られるまでは。
「お前の病気では俺は死なん…だから安心して眠れ」
いや根拠はないだろう…そうツッコミたいのだが、そのまま額を合わせられると色んな感情がキャパオーバーを起こしてしまってそこからの記憶はない。
目を覚ましたときは丸一日経過しており、嘘みたい頭がにスッキリとしていた。
「熱で原因を焼き殺せたのだろう、お前の体力なら問題ないかな」
そう言って差し出された水を飲み、気分が落ち着いた所で、意識が落ちる直前に浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「…お前は何故病気が自分に移らないと確信してたのだ?」
きょとんとした目で俺をじっと見たあと、ヒュンケルはふっと力の抜けた微笑みを浮かべた。
「お前が俺を殺すわけがないだろう」
戦士としては殺してくれたがな
冗談めかした口調でそう付け加え、水場へと戻っていくヒュンケルの後ろ姿を呆然と見送ってしまった。
そういう問題じゃないだろうとか、どんな理屈だとか言いたい言葉は山ほどあるが、とりあえず観念したことが一つだけ。
こいつへの免疫だけは永遠につきそうにない。